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第83話:あんしんマン
◆ 朝のリビング
桜丘町・二大区ロ区。
ベージュのアパートの一階。
畳の部屋にちいさなテーブル、
窓際には鉢植えが並ぶ静かな暮らし。
その家のテレビの前で、
小学一年生の りつ(7)が座っていた。
髪は肩の上で丸く揺れ、
水色の長袖シャツに灰色のハーフパンツ。
手にはお気に入りのぬいぐるみを抱えている。
「もうすぐやる〜!」
キッチンでは、
りつの母が朝食を準備していた。
茶色のエプロン、
ゆるく束ねた黒髪、
優しい緑のワンピース。
「今日のは何の回?」
「フアンくんがイロハまちがえちゃうやつ〜!」
「またゆれちゃうんだねぇ」
◆ テレビが始まる
画面に、あんしんマンが登場する。
頭は水色と緑のツートン、
服はやさしいももいろ。
声は落ち着いていて、
聞くだけで心が整うようなトーン。
つづいて
ロロちゃん(黄緑の髪)と
フアンくん(灰に近い緑の髪)が映る。
フアンくんは常にそわそわしていて、
手を胸の前でモジモジさせている。
ナレーション
「今日は、フアンくんが“イ・ロ・ハの道”をすこしだけまちがえてしまうお話です。」
◆ 子どもの反応
りつは画面に近づいて、真剣に見つめる。
「フアンくん、がんばれ〜……」
フアンくんが間違った道へ走り出すと、
街の空気が「ざわっ」とした色で揺れる演出。
道がかすみ、木々がゆらぐ。
ロロちゃん
「フアンくん、落ち着こ〜♪
イ・ロ・ハ……のじゅんばん、いっしょに整えよ〜!」
あんしんマン
「まずは深呼吸だよ。」
安心パンを差し出すと、
フアンくんの肩がゆっくり下がり、
街の揺れが静まっていく。
「よかったぁ〜」
◆ 母の“自然な教育”
母は食卓からやさしく声をかける。
「フアンくんはね、“こころがゆれやすい子”なんだよ。
でも、イロハをちゃんと整えれば安心に戻れるの。」
「ぼくも、ゆれたらイロハする〜」
母は微笑む。
その顔には、どこかほっとした影があった。
「それが一番いいんだよ。」
◆ りつの疑問
テレビがエンディングに入ると、
りつはすこしだけ首をかしげた。
「ねぇ、フアンくんって……
ほんとうにわるい子なの?」
母はほんの一瞬だけ目を伏せた。
だが次の瞬間、いつものやわらかい声に戻る。
「悪くないよ。
ただ“まちがいやすい”だけ。
あんしんマンが守ってくれるから大丈夫だよ。」
「そっか〜……」
しかし、
りつの胸の中には
説明できない“もやっ”としたものが
ふわっと残っていた。
◆ テレビが消えたあと
母がリモコンを取って画面を消す。
部屋には朝の静けさが戻り、
りつは膝を抱えたままぽつりと言った。
「フアンくん、ひとりでがんばってるのに……
みんなに“なおされてる”みたいで、かわいそう……。」
母は返事をしなかった。
ただ、りつの頭を優しく撫でた。
その手つきはあたたかいのに、
どこかで国の“教育の形”をなぞっている。
そして――
りつは気づかないまま、
あんしんマンの世界観が
自分の日常の“当たり前”として
深く入っていくのだった。