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自室にて、シルビアはがっくりと項垂れていた。
未来のお友達様を目指し、奮闘しかれこれ3日目。これが面白いくらいに全く進展がない。何故、何故なんだ。
「何でですの…私死神じゃないですのよ…」
やはりこの吊り目か…とシルビアは思う。徐に立ち上がると、ずこずこと鏡の方に歩いて行った。
鏡の前に立ち、写る己の姿をよく観察する。
肩の少し下まで伸ばされた黄金色の髪。毎日しっかり保湿やケアをしているおかげで、艶やかな美しい髪に仕上がっている。水色の瞳はどこまでも透き通っており、正直シルビア自身でも綺麗な目をしていると思っている。
そして…この吊り目。
「……そうですわ、いい事を思い付きましたわ!」
パッと顔を上げるシルビア。その表情は、これまでにない晴れやかなものであった。
♦︎♦︎♦︎
にこにこ。にこにこ。
「…あ、あの」
にこにこ。にこにこ。
「シ、シルビア様…?」
にこにこ。にこにこ。
「あ、あの…?」
「あら、何ですの?」
「え…いや、えっと…今日は機嫌が宜しいんですね?」
恐る恐るといった様子で、取り巻きの1人が声をかけた。取り巻きの視線の先には…にっこにこと笑みを浮かべているシルビアが。
シルビアはにこぉっと笑みを深めた。
「ええ!勿論!」
気のせいだろうか、シルビアの周りに星が輝いているように見えるのは。が、取り巻きは、あははと愛想笑いをするだけで距離を取るだけであった。当たり前である。
(…嘘ですわ!どうして…どうして愛想笑いをされているんですの!?ほら!にこにこしてますわよ!?にっこにこ!ほらあ!)
その名も、にっこにこ作戦!そう、このシルビアは満面の笑顔をすることで、この威圧感を消そうとしたのであーる!
結論から言おう。大失敗なのである。
(完璧な作戦が…何故なんですの!?)
そもそも普段威圧感が出している人が、急にひっこにこされても気色悪いだけなのだ。が、残念ながらこのシルビア、それに全く気付かない。
(…はっ!それか…もっとにっこにこすればいいんですの!?)
何故そうなるシルビア。
シルビアはより一層笑みを浮かべ…ようとしたその時。
ドンッ!と誰かの肩がシルビアに当たった。
「え?」
バランスが崩れたシルビアの体は、あっという間に地面に近づきそのまま尻餅を付いた。
そんなシルビアを見て、取り巻き達が悲鳴を上げる。
「シ、シルビア様!?大丈夫ですか!?」
「やだ!シルビア様!お怪我は!?」
「シルビア様っ」
駆け寄ってくる取り巻き達に、シルビアは驚きつつも返事をした。
「だ、大丈夫ですわ。ただの尻餅ですもの…」
「で、でも…」
「まあ…まさか、あの女?シルビア様にぶつかったの…」
「あら…やだ、あの女って…」
ざわざわと五月蝿くなる取り巻き達を見て、シルビアは首を傾げた。
「あの女…って誰ですの?」
視線を動かし、探してみるとその本人は意外とすぐに見つかった。シルビアの丁度前。同じく、尻餅を付いた体勢で血の気の引いた顔をした、茶髪の少女がいた。
ふわふわとした焦げ茶色の髪の毛は、後ろで大きな1つの三つ編みにされており、まんまるとした橙色の瞳、ぷっくりとした頬を見て、パッと頭に浮かび上がった言葉は「小動物」だった。
(あの子…確か)
ソフィル。平民の生まれでありながらも、完全な努力だけでこの学園に入学してきた優等生だ。そして…前に取り巻き達が罵倒していた本人でもある。
ソフィルはシルビアを見詰めたまま、動かない。本来、淡い朱色がのっているであろう綺麗な肌も、この時ばかりはいつもより一層白く見えた。その姿を見て、シルビアは同情する。
ゆっくりと立ち上がり、スカートを軽く叩き、身なりを整える。取り巻き達は何かシルビアに話しかけようとしていたが、どうせろくなものではないと察したシルビアが、手で制し黙らせた。
ソフィルに向き直り、ソフィルの元に近付く。
手を伸ばせば触れられそうな距離に届き、シルビアが声を出そうとしたその時であった。
「ーーシルビア嬢。ソフィルに何をしようとしているんですか?」
突然聞こえた声に、シルビアはびくっと肩を揺らした。声の主の方へ、目を向けると…そこには眼鏡を掛けた麗しい美青年がいた。
滑らかな曲線を描くように唸った濃い青色の髪、溶けるように甘い蜂蜜の色の瞳…すらっとした体つきは正しく美青年。
名を、ベルク・シェルージュ。生徒会の副会長だ。
シルビアは平然とした様子で、応えた。
「何を…って、何のことですの?私は何もしておりませんことよ」
シルビアがそう言うと、ベルクはその蜂蜜色の目を細め、ふっと鼻で笑った。
「転ばせたんでしょう、貴女が、ソフィルを」
「…はっ?」
ぽかん、と鳩に豆鉄砲を食らったような顔をするシルビア。それに対し、ベルクは眉を顰めた。
「いや…何ですか。その顔」
「…何を、そんな盛大なる勘違いをしておられるんですの?」
「…はあ、全く。言い逃れは出来ませんよ、シルビア嬢。貴女が転ばせたんでしょう?嘘はつかなくていいんですよ」
「付いてないですわ!?」
シルビアの抗議虚しく、ベルクは勝手に1人で納得しているようだった。すると、ソフィルがベルクに話しかける。
「ち、違うんです。ベルクさん」
「違うって…何がです?」
「わ、私がぶつかってしまって、シルビアさんは本当に何も悪くないんです!」
涙目にそう訴えかけるソフィルに、シルビアはうんうんと頷く。が、この馬鹿男にそれは通じないのだ。
「可哀想に…何も言うな、と脅されているんでしょう」
(何故そうなるんですの!?)
「いや…どうしてそうなるんですか!?」
ソフィルとシルビアの心が一致した瞬間である。2人の叫びを無視したまま、この馬鹿ベルクは話を続けた。
「まあ、虐めたくなる理由は分かります。貴女はクリス王子を愛していた…でしょう?そこにいるソフィルに嫉妬し、貴女は苛めをし始めた…合っていますか?」
何も合ってねんえだわ糞野郎。
そんな汚い言葉が出そうになるのを、シルビアは何とか堪える。
(駄目ですわ、シルビア…そう、ここは堂々とするのですわ!)
シルビアはぴんっと姿勢を正すと、ぴしゃんっ!と扇子を勢いよく広げた。
「あらあら、何かと思えば。私がやったと仰るんですの?」
「事実だろう」
「嫌ですわ、一場面を見ただけだというのに?勘違いも甚だしい。いい加減、全体を見たらどうですの?貴方のやっていることは、完全な犯罪の押し付けですわよ」
「なっ…!」
「もういいですわ。話が通じないならそれまで。それではご機嫌よう」
「あっ、待ってくださいっ!シルビアさんっ!」
ソフィルの引き留めるような声が聞こえたが、シルビアは無視してその場を立ち去っていった。
「あああああ!ほんっと何ですの!あのすっとこどっこい!いい加減にしてほしいのですわ!」
ぽふっ!ぽふっ!
随分と可愛らしい音を出しながら、シルビアは全力で枕を叩く。
「もおっ!もおっ!もおおおお!」
ひとしきり枕をぶん殴ったあと、シルビアは思いっきり体を倒した。そして静かに瞼を閉じた。
「だけど…ソフィルちゃん、意外といい子でしたわ…私のことちゃんと庇ってくださりましたし…ハッ!?これは…お友達様いけるのでは!?」
イケるのかシルビア!
が、問題は山積みだ。
「うう…まずはあのすっとこどっこいですわ…早く、早く周りの誤解を解かないとですわ!」
えいえいおー!とポーズを取るシルビアであった。
ちなみに次の日、うるさくて寝れねえと隣の部屋の家族から苦情が入ったので言うまでもない。