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アリスは聖パッセンジャービジョン大学の講堂内で、数人の子供たちと身を隠していた。

辺りには互い互いの呼吸音しかしない。

それほど密着した状態でのシンシンと大雪の降る静かすぎる。漆黒の夜だった。

アリスは明かりのない講堂内のいつもモートと一緒に座っていた席をしばらく見つめた。

シンと静まり返った広大な講堂で、モートが助けに来るまで猿の軍勢を警戒しているつもりだったが。

シンクレアはここにはいない。

どこかで無事なのを祈りたいとアリスは思ったが、天使のオーゼムはジョンの屋敷だった。

本当に世界の終末は訪れてしまうのでしょうか?

このままでは猿によっても、世界。いや、ホワイト・シティだけは確実に滅びてしまうのではないでしょうか?

そこまで考えたアリスの耳に、ガシャンと窓が数枚割れる音が北のクリフタウン側から聞こえて来た。

震える肩を叱咤してアリスは機転を回した。子供たちだけでも大学の窓の外の芝生の上に逃がすことにしたのだ。だが、こんな夜には、外はこれからダイヤモンドダストが襲ってくるかも知れなかった……。

「ねえ、綺麗なお姉さん。あのおっきな白い月は何?」

小さい子供の一人がアリスに小声で不思議そうに言った。

アリスが雪と氷の窓の外へと子供たちを慎重に降ろしている最中だった。

ふと、アリスは空の上に浮かぶ不気味な白い月を見上げた。

それは、白い月は夜空に漂うようにゆらゆらと浮かんでいた。

何故か、その月は人間の死ではない何ものかの死を欲しているかのようにアリスには思えた。不思議とモートとも関係しているかのようにも思えて、子供たちについこう言ってしまった。

「きっと、味方よ。何故か私の恋人と関係しているみたですね。ほら、あの月から照る光が向いているのは……」

子供たちは、皆夜空を見上げて、南の方を指さした。

「あ! ヒルズタウンの方を向いている!」

空中に浮かぶ巨大な白い月は、しっかりとその光が光線のように照っているのだとアリスには見えた。当然、気付いた子供たちもそうだった。その光線になっている部分がヒルズタウンの方を向いている。そして、仄かに照る光が徐々にモートのいるはずのジョンの屋敷があるヒルズタウンの方へと近づいていった。

白い月は何かを満たそうとしているとアリスにははっきりとわかった。

「なんだか……凄く……怖いけど……」

「ええ、不思議ね……」

「これからあの猿が全部消えてくれそう……」

子供たちの中から白い息を吐きながら次々と声が上った。

「そう……ね……きっと、ここへ……すぐにモートが来てくれるわ……」

アリスも真っ白な息を吐いて、この銀世界の中の大学で子供たちと共にしばらく空を見上げていた。


Wrath 2


「モート君! アリスさんとシンクレアさんが危機的状況です! 早く!」

「わかった……」

壁の向こうからのオーゼムの切迫した声を聞き、モートは鮮血で真っ赤に染まった銀の大鎌を構え直し、ヒュッと真横に右手を振った。

瞬間。

ドシンと倒れだした4匹の巨大な蛇の首なしの胴体は、すでにその息を止めていた。

モートが向き直ると、ジョンはすぐに血色が良かった顔を鬱にして、身を隠していたテーブルの下からヨロヨロとレビアタンの書をかざした。

再度巨大な蛇を召喚しようとする。

本が強烈に振動すると、青い炎の暖炉も共鳴するかのように激しく振動した。大部屋の天井からこれ以上ないほど埃が降って来た。まるで、無理矢理蛇を召喚しようとしているかのようだった。

モートが銀の大鎌を構えた。すると、同時にそれを見ていたヘレンが思い切った行動をした。ジョンの左肩目掛けて体当たりをしたのだ。

ヘレンはジョンからレビアタンの書を奪い取ってしまい。女中たちを跳ね除けてモートの元へと駆け出しだした。

モートは一瞬驚いた。

ヘレンはそのまま堪らずモートに抱き着いた。

「ああ、モート……。良かった……。お互い無事で……」

ヘレンがそうモートの耳元で涙声で言った。

バタンという大きな音がした。

大部屋の奥の扉が閉まった音だった。モートはジョンが女中を連れ逃げ去ったのだと考えた。だが、目前のヘレンに、オーゼムの今も警告をしているアリスとシンクレアの身を助けることの方が優先だった。

「アリスさんは、ここからは遠い聖パッセンジャービジョン大学の花壇や噴水のある庭にいます! 今は子供たちと一緒です! シンクレアさんは、イーストタウンのロイヤルスター・ブレックファーストのお店にご家族と一緒にいますよ! いいですね、本拠地のお店の方ですよ! モート君。一刻も早くに駆け付けるのです! さあ、賭けの時間です!」

モートはジョンとは反対方向へと様々な家具や扉、壁を通り抜けて駆け出した。ジョンを狩る日はあるのだろうかとモートは頭の片隅で考えた。

けれども、ジョンはもう見つからないだろうとモートは考えた。

何故ならジョンの魂の色は青色だったのだ。

山沿いの道路や林道を一直線に走り抜け、ヒルズタウンの高級住宅街へと出た。丁度、ここからアリスの屋敷が見える。アリスの使用人の老婆は今でも無事だろう。

猿の軍勢は人がいるところや人が多いところではなく。何故か建造物が多いところへと集まっていた。このままではシルバー・ハイネスト・ポールも猿の軍勢が占拠しているだろう。

モートはその全てを狩ることができるが、現時点ではアリスとシンクレアたちの無事が何よりも優先だった。


空は白い月が浮かぶ。

厚い雲が漂い。

この上なく凍結した深夜だった。

夜を狩るもの 終末のディストピア

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