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#オリジナル
#和風ファンタジー
第2章 第4話
「浮沈不定」
志願兵の試験はまだ続いている。
叫び声と剣の音が、ずっと遠くで鳴ってる。
セラフィナは玄関前で立ち止まった。
「今日はここまで。情報を詰め込みすぎると、きみは逆に壊れる」
「壊れるって言うなよ……」
「言った方がいい。きみ、壊れかけた顔してるから」
さらっと言われて、反論できないのが悔しい。
「明日からの3日、きみがどう動くかが大事になる。……じゃ、おやすみ。研究室に戻る」
「……あんた、寝るんですか。まだ昼ですよ」
「寝るよ。研究者だって寝ないと死ぬ。あ、きみは“繋がってる”から、無茶すると相手に迷惑だよ」
最後に刺して、セラフィナは去っていった。
軽い足取りで。まるで散歩帰りみたいに。
自分の部屋に戻ると、ベッドと窓と机が、妙に“整いすぎて”いた。
水は同じ位置にある。誓印パンも同じ位置。荷物も同じ。
まるで部屋が「お前はここだ」と言ってくる。
(あの銀髪のことは許せない)
当たり前だ。あいつがいなければ。あいつが刺さなければ。
いや、刺したのは銀髪だ。
でも銀髪がいなければあの呪いは成立してない。
――全部ぐちゃぐちゃだ。
それなのに、今日会った孤誓隊の連中の顔が浮かぶ。
バカみたいにでかい汗の塊みたいなやつ。毒舌の女。優雅なのに目が怖い女。ねっとり笑う男。駄々こねる小さいやつ。ナルシスト。
(……案外、いけるのかもしれない)
その可能性が、なんでか腹立つ。
孤誓隊に入れた自分を、ほんのちょっとだけ誇らしいと思ってしまったのも腹立つ。
セラフィナの気まぐれだろうが何だろうが、“選ばれた”という事実だけが、胸の底でちいさく燃えている。
(どっか校舎の中、行ってもいいかもな)
試験中、誓刃たちは自由行動。だったら自分も、少し外へ出て頭を冷やして――
そう思った瞬間、胸の奥の糸がぴん、と張った。
自分の意思を咎めるみたいに。
(……あいつも、どっかにいる)
銀髪の無表情が浮かぶ。
「……邪魔だ」
その声だけが脳内で再生される。
殺したい。
でも殺せない。
逃げたい。
でも逃げられない。
拳を握りしめたまま、しばらくベッドの端で固まった。
「馴染めるイベント」を探す
結局、じっとしていられなかった。
気分転換という言い訳を作って、寮を出る。
誰かに聞くなら、バロロだ。
あいつは多分、口を開けば何かしら起こる。
トレーニング室はまだ熱気が残っていた。
扉を開けると、汗の匂いがぶわっと来る。
「バロロ!今日ってなんか予定……ってうわ!」
「おっ!! 来たな!!」
見つけた瞬間、バロロが走ってきた。
距離を詰める速度が、もはや突進。
「待て! 近い近い!!」
抱きつかれるのが目に見えて、反射で腕を突き出す。
だが腕ごと抱え込まれた。
「うおおお!! 元気だなァ!!」
「っって、力つええよ!!死んだらどーすんだ!」
言った自分の声の“勢い”に、一瞬だけ自分で引いた。
(……今、おれ、調子乗った)
でも周囲が笑う。バロロも笑う。
「いいじゃねぇか! 親友の第一歩だ!!」
「第一歩で骨折は勘弁!」
その時点で、少しだけ空気が軽くなった。
バロロはケラケラ笑ったあと、急に真面目な顔をした。
「ちょうどよかった。今日、16歳組の作戦会議がある」
「……作戦会議?」
「今後のこと。三日後に誰か入ってくる可能性が高いだろ? 役割分担とか、準備とか。お前も来いよ」
「おれがいていいのか」
「いいに決まってんだろ! もう“16歳組”扱いなんだからな!いいか?3時からだぞ!!」
断る理由が消えた。
勝手に話が進む感じも、この国っぽい。
でも――嫌ではなかった。
16歳組 作戦会議(昼3時/空き座学室)
座学室の空き部屋。
静かなはずの場所なのに、ここだけ妙に“生活の音”がする。
最初に来たのは刹那だった。
2時半。机に資料を並べて、姿勢が一切崩れない。
「ふふ。ワタシが一番乗りね」
独り言だがすこし慢心しているように見える。
次に、アクラが2時50分に入る。
刹那はちらっとこちらを見て、水を差し出した。
「飲みなさい。アクラさん、顔色がまだ悪いわ」
「あ、……どうも」
“優しい”のに、“管理”の形をしている。
この人が怖い理由が分かる。
3時。
エペとバロロが同時に入ってきた。
エペは入った瞬間に自分を見て、はっきり嫌そうな顔をする。
「……男」
「いきなり言うな!」
「言いますよ。男はだいたい面倒ですから」
「偏見すぎだろ!」
エペはすん、とした顔で言い放つ。
「男はいつもいやらしいです」
「まだ何もしてねぇ!」
バロロが爆笑する。
「いいじゃねぇか! 喧嘩は友情だァ!」
「お前の友情、だいたい拳!!」
「さて 会議を始めるわ。まず3日後に入隊する人数は極めて低い可能性がーー」
3時15分。
光月が入ってくる。入り方からうるさい。
「待たせたなァ! オレ様は準備に時間がかかるんだァ!!」
「何の準備だよ」
「美の準備」
言い切るの、逆にすごい。
本人は胸を張っている。
「今日のオレ様のパンツはすげえぞ見るか?」
「今ここで見せるな!!」
刹那がため息をついた。
「……議題に戻るわね」
「そういや今年はジャメラポムは帰ってくるのか?」
バロロが問う。
「……だれなのだ?」
3時30分。
クレイが遅れて入ってきた。クソでかいクレイモアを担ぎながら
遅れてるくせに、余裕の笑み。
「やあやあ。待ってた? ボク、空気読むの苦手でさ」
嘘つけ。読んで遅れただろ。
エペが小声で「気持ち悪いですね」って言って、クレイが嬉しそうに笑った。
「……こほん。注意喚起をするわ。最近は魔族の事例がでてるから。去年のような悲劇は繰り返さないようーー」
4時。
最後にみずきが駆け込んできた。
「ごめんなのだ!! デザートが逃げたのだ!!」
「デザートは逃げねぇよ!!」
会議は案外まともに進んだ。
三日後に誰かが入ってくる可能性。
その準備。役割分担。情報共有。
任務に出るタイミングの擦り合わせ。
でも、話がまともな分、ふとした瞬間に“空気の重さ”が顔を出す。
ここは補充式。死んだから補充される。
その事実だけが、机の上に置かれたまま動かない。
――それでも。
冗談は飛び交った。笑いは起きた。
自分も、軽口を叩いた。
誰かが失敗した話をして、つい言ってしまう。
「はは! お前バカだなー!」
言った瞬間、少しだけ不安になる。
(……言いすぎたか?)
でもバロロが「ははは!!」と笑い、光月が「バカじゃない、天才だァ!」とか言い、みずきが「バカっておいしいのだ?」と首を傾げ、場は流れた。
(……あ、いけた)
ほんの少しだけ、ここに混ざれた気がした。
夜:温泉
会議のあと、部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。
気づけば数時間寝ていた。
起きたら変な夜中。眠気は消えて、頭だけ冴えている。
(……温泉入りたい)
寮のすぐ横に、寮生限定の温泉があると聞いた。
夜中だから誰もいないだろう、と軽い気持ちで向かう。
扉を開けると、空気が変わった。
湯気が柔らかい光を含んで、天井の装飾が水面に揺れている。
寮の設備とは思えないほど綺麗で、どこか幻想的だ。
――そして、先客がいた。
小柄な少年が、湯船の縁にぽつりと座っている。
肩が細い。顔も幼い。
後輩かと思った。
変に勢いづいて、話しかけてしまう。
「おい、こんな時間にどうした? 眠れないのか?」
少年がびくっとして振り向く。
驚いた目。
「……この時間に人が来るとは思いませんでした」
声が丁寧で、小さい。
こっちが勝手に先輩ぶる空気が出来てしまう。
「まあ、分かる。俺も今日いろいろあってさ。……ここ、すげー綺麗だな」
少年は小さく頷いた。
「はい。管理が行き届いています。湯の成分も寮生の疲労回復に合わせて調整されていて……。あ、自分はツヴァイって言います。」
「おれはアクラ。16組だ。よろしくな!」
「……礼儀正しいんですね。ここじゃめずらしいかも…。あと、夜中の1時から2時までここに来ない方がいいです…ほんとに」
「1時から?あと1時間後じゃないか」
「ええ…その時間になるとめんどくさい人が来ますので……ああああなんでこんな仕事にしちゃったんだろ」
(……へんなやつ。挙動不審すぎる)
ここでとある違和感が生じる
「お前、ここ初めてじゃないのか」
「初めてではないです。……何年も居ますから」
“何年も”。
喉が鳴る。
恐る恐る聞いた。
「……何歳だ」
少年は一瞬だけ目を逸らし、答えた。
「あなたの一つ上です」
世界が一拍止まった。
「……17歳?」
「はい」
17歳組。
そこでさっきの会議の刹那のセリフーー
“最近は魔族の事例がでてるから。去年のような悲劇は繰り返さないよう”
去年の魔族による大虐殺ーーそれの生き残り。
自分はさっきまで後輩扱いしていた。
先輩ぶっていた。
その恥ずかしさが、背中を焼く。
「……悪い。勝手に」
少年は静かに首を振った。
「いえ。慣れてます。……ここ、そういう場所なので」
“慣れてます”が、やけに刺さった。
慣れたくて慣れた言葉じゃない。
湯の音だけが、二人の間を埋めた。
しばらくして、自分は黙って湯に浸かった。
肩から力が抜ける。
でも胸の糸だけは、ずっと残っている。
部屋に戻ると、急に頭がうるさくなる。
会議で言った言葉が、順番に思い出される。
(「はは!お前バカだなー!」……傷つけてないか?)
(おれ、調子乗りすぎてないか?)
温泉で先輩ぶった自分も恥ずかしくなってくる。
顔が熱い。布団をかぶっても熱い。
(……おれ、何してんだ)
寝ようとしても眠れない。
胸の糸が静かにそこにある。
憎い相手と繋がってる現実も消えない。
でも、今日の連中の顔が浮かぶ。
笑い声も浮かぶ。
(……生きてるな、みんな)
その事実が、少しだけ救いで、
少しだけ怖かった。
眠れない夜を過ごした(笑)。