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RAMを出た駿とこずえは、手を繋ぎながらラブホテルに向かって歩く。
「あの・・どこのホテルに行くんですか?」
「どこって・・近くにホテル街あるかさ、その辺で適当なトコに入ればいいでしょ?」
「あの・・出来たらちょっと遠いトコに行きませんか?」
「え?何で?」こずえは首を傾げる。
「いや、一応教師ですし・・保護者とか生徒に見られる危険性があるんで・・・」
駿は苦笑いを浮かべながら言う。
「あ!そっか!それもそうよね!見られちゃマズイわよね!でも遠いトコってそこまでどうやって行く気?」
「どうやってって、この先のコインパーキングに車停めてますから!それで」
「はぁ?車?いやいや、私たちお酒飲んでるじゃない!飲酒運転で捕まっちゃうわよ?」
こずえは駿の肩をパシンと叩く。
「あ!そうだった!どうしよっかな」
駿が頭を悩ませていると、ワイヤレスイヤホンから刑事の声が聞こえてくる。
「只今より、RAMに入店し、梶橋の身柄を確保いたします!問題ありませんか?」
それは刑事による梶橋逮捕に関する連絡だった。
駿は少し考えて「ああ!問題ないですよ!はい!問題ないです!ホラ!タクシーとか使えば大丈夫ですから問題ないですよ!あはは!」
こずえに刑事とのやりとりを悟られないように、会話に矛盾が生まれないように精一杯の笑顔で言う。
「あはは!何回問題ないって言うのよ!焦りすぎでしょ!あはは!アンタ可愛いわね!」
こずえは笑いながら、何度も駿の背中を手のひらで叩く。
「あはは・・いやぁすいません!車で来てる事すっかり忘れちゃってました!あはは!」
駿は笑いながら、こずえに気づかれないように、ワイヤレスイヤホンを耳から外してポケットにしまう。
一方その頃、RAMには刑事がドアを乱雑に開けて突入していた。
「警察だ!動くな!」刑事がバーテンダーに向かって銃口を向ける。
「な、なんなんですか!貴方達は!」バーテンダーは焦った様子で両手を上げる。
同時に飲みに来ていた他の客も、怯えた様子で刑事を見る。
「なんか事件かな?」「どうしたんだろ?」
「ドラマみたい!」客のヒソヒソ話も聞こえてくる。
「霞警察署の者だ!オーナーの梶橋龍彦はどこだ!?どこに居る!?」
片手に拳銃、もう片方の手に警察手帳を手にした刑事がバーテンダーに詰め寄る。
「オ、オーナー!?オーナーでしたらあちらに」
バーテンダーが指差した方には大きなソファがあり、その中央では梶橋がロックグラスに注がれたウイスキーを余裕の表情で飲んでいた。
「どうかされましたか?刑事さん!随分と慌てているようですね?そんな物騒な物まで持って」
「梶橋龍彦だな?お前には風営法違反と売春防止法違反、そして度重なる詐欺行為の容疑で逮捕状が出ている!大人しく署までご同行願おうか!」
もう1人の刑事が梶橋に逮捕状を突きつける。
「オーナーに逮捕状?何かの間違いです!梶橋オーナーに限って売春だなんて!」
おそらくバーテンダーは何も聞かされていないのか?梶橋を庇うように刑事の前に立ち塞がる。
「このRAMはただのバーじゃない!裏では本番行為を前提とした裏風俗へ客を流す、いわば売春の斡旋場なんだよ!」
「ま、まさか!何を証拠に!いくら警察だからって証拠もなしにこんな事して許されるんですか!?」
バーテンダーは必死に刑事に訴えかける。
「もうよせ!」梶橋はウイスキーを飲み干すと、無言で立ち上がり刑事に近づいて行く。
「私を逮捕しにいらっしゃったんですよね?どうぞ・・」梶橋は観念したのか?両手を差し出す。
「随分と素直なんだな?」
刑事は事の呆気なさに、何か策略があるのではないかと梶橋を睨みつける。
「丁度この仕事に飽き飽きしていたところなので・・第3の人生を刑務所の中で過ごすのも悪くないなと・・・」
「そうか・・」
刑事はそう言って梶橋の両腕に手錠をかける。
裏路地を出て繁華街に出た駿とこずえはコインパーキングへ向かって歩いていた。
「あのさぁ?どこまで歩かせる気?タクシーならその辺で捕まえればいいじゃない!」
「すいません・・もうすぐですから・・・」
「ったく!早くしてよね?」
こずえはうんざりした様子でタバコに火をつける。
「てか、なんか裏路地が騒がしいわね?何かあったのかしたら?」
「まぁ、酔っ払い同士の喧嘩か何かじゃないですか?」
「まぁ、よくある話ね!というかそんな事いいから!早く!タクシー!捕まえてよね?」
こずえはくだ撒きながら、タバコを排水溝に投げ捨てる。
「もうすくです!ホラ!見えてきました!」
駿はコインパーキングの看板を指さす。
「はぁ?アンタ!私が言った事もう忘れたの?お酒飲んでるんだから運転は」
こずえの言葉はそこで途切れた。
「・・・・・」こずえはその場に立ち尽くしたまま、一点を凝視していた。
こずえの視線の先には梓、つかさ、聖奈、沙月の姿があっまた。
「あれは・・梓?」
梓たちは、駿とこずえを目視すると、小走りで近づいてくる!
「駿!それに・・お母さん・・・」
梓は駿が無事に戻ってきてくれた事、そしてずっと待ち焦がれていた母親と再会できた事で安堵の涙を流す。
「アンタ・・私を嵌めたわね?」こずえは駿を睨みつける。
「すいません・・ああでも言わなければ、アナタを外に連れ出せないと思ったので」
「悪いけど帰らせてもらうわ」こずえはうんざりした様子でその場から立ち去ろうとする。
「ま、待ってお母さん!!」
そんなこずえを梓が呼び止める。
「こずえさん!アナタは連絡も無しに娘の前から2週間以上も姿を消していたんです!やっと再会できた娘に何か言うことがあるんじゃないですか?」
駿は立ち去ろうとするこずえの腕を掴み、真剣な眼差しで語りかける。
「そんなもん無いわよ!いい?アンタに言ったでしょ?私はもうアイツの母親は辞めたの!あんなヤツ他人なんだから!」
こずえの口から発せられた想像を絶する言葉に、皆はまるで氷漬けされたかのように固まる。
「母親を辞めたって・・・実の娘を目の前にしてなんて事を・・」
つかさはこずえの自分勝手な発言に嫌悪感を露わにする。
「だから言ったでしょ?私はもう母親じゃないの!何回言わせれば気が済むわけ?」
「ふざるな!!」駿が怒りに任せて声を張り上げる!
「あなたが急に居なくなって、梓は寂しくて頭がおかしくなりそうって泣いてたんですよ!それなのに!」
「あはははは!」駿の言葉を遮るようにこずえが高笑いをする。
「な、何がおかしい!?」
「来年成人しようってヤツが、ちょっと母親が帰ってこないだけで寂しくて頭がおかしくなるって・・あははは!傑作だわ傑作!あははは!相変わらず甘えたガキだこと!」
こずえは皆を馬鹿にするように、手を叩きながら大口を開けて笑う。
そんなこずえを見て駿は下唇を噛み締めながら拳を握る。
駿はこの時、許されるならこずえを殴り飛ばしたいと思っていた。
ごすえが仮に母親ではなく父親だったら、駿は間違いなく拳を振るっていた。しかしこずえに対してそれをする訳にはいかない。
駿にできる事は、自分の中にある不適切な感情を押し殺して、ただひたすらにこずえに対して敵意をむき出しにする事、それだけだった。
するとつかさが無言でこずえに向かって歩いて行く。
「ひ、雛形先生?」駿はつかはを不思議そうに見つめる。それは梓、聖奈、沙月も同様で、つかさを黙って見つめる。
すると、つかさはこずえの頬を平手打ちする。
夜の街にパシンという音が響き渡る。