何時もと何ら変わり無い日々 、
男女のやけに愉しげな声が飛び交う教室の隅で
窓の外を眺めていた 。
毎秒 、 形を変えてゆく雲
優雅に空を游ぐ小鳥達
直視など出来やしない程 、 眩い太陽
化学反応か何かで蒼く澄み渡る空
何れもぼんやりと眺めると面白味がある 。
「 よっ 、 羽優 」
空に夢中になっていると聞き慣れた声が
頭上から降って来る 。
「 杜真 ! 」
通常の声より些か高く 、 大きい声で
彼の名前を口にした 。
「 俺見て嬉しそうにすんの狡ぃ 、 」
照れ隠しからか口元を手で覆いながら
耳をほんのり紅く染めて苦笑する彼 。
「 そりゃあ彼氏だもん 。
嬉しいに決まってんじゃん ? 」
私達が高校に入学して丁度半年
出逢い 、 惹かれ 、
高校1年生の秋 、 彼から告白された 。
無論 、 断る理由など無く付き合い始めた 。
其れから約半年
私の頭の片隅には何時も彼が居る 。
甘酸っぱいラブソング
SNSで見付けた素敵な絵
ゲームセンターにあった不格好なキーホルダー
図書館で一際惹かれた文庫本
何を聴くにも
何を見るにも
何をするにも
思考は君へと辿り着く 。
ラブソングには君を重ね
素敵な絵には君の感想を想像し
不格好なキーホルダーには君の笑い声を重ね
文庫本には君のお勧めの本を想像する
私の世界は君に寄って塗り替えられた 、
と言っても過言では無いのだろう 。
「 なんか杜真は私にとって画家みたい 」
恋は真っ白なキャンバスが画家に寄って
素敵な絵へと生まれ変わる様な感覚だ 。
「 何意味わかんねーこと言ってんだよ 。 」
彼は少し考える様に目線を外へと遣った後
結局理解出来なかったのか私の頭を軽く小突き
自席へと戻って行ってしまった 。
殆どの生徒から嫌われている教師が
教室の扉を乱雑に開けた 。
噂では50代後半の女教師だ 。
全体的にうねり 、 所々白髪がある髪を低い位置で結っている 。
分厚いレンズの付いた眼鏡を掛けた 、
‘ 如何にも真面目です ’ とアピールしている様な
外見の人だった 。
悪い意味で目立つ教師を見て脳が動く 。
数学IIIの授業だ 。
時間割を思い出してげんなりする他無かった 。
早々に指定された問題集の頁を見ると複雑に曲線が絡み合うグラフの問題が数題載っていた 。
シャープペンシルの芯を僅か長めに押し出す 。
ノートの6ミリ幅の行間に日付を書き込み
一行空けて問題に取り組む 。
微細な凹凸に芯を落とし込んでゆく 。
見事とも言える程に数式がずらりと並んだ 。
解説など耳にも入れず再度 、 外に目線を移す 。
夕陽も無ければ夕方などまだ先にも関わらず 、
鴉が煩い程に鳴いていた 。
地上に降りる也 、 路上に棄てられた塵を啄く 。
不味そうな塵を見下ろして 、
生まれ変わるとしても鴉には成りたくないと心底思った 。
脳内のみで思考を完結させていると
睡魔が襲ってくる 。
少しずつ教師の声が遠のいてゆく 。
怒られるだろうか 、
其れとも 、 誰かに起こされるだろうか 。
何れにせよ
此の儘 、 寝てしまおう 。
コメント
4件
ほんとに表現すきすぎる あと杜真くんと羽優ちゃんの関係性がちょっと意外でかわいい( ? 今迄のりんちゃの物語で1番小説感あって尊敬しかないっっっ!
表現の仕方とか、神の域超えてますよね!? 微細な凸凹にの所、エモすぎて泣きました 相変わらず凄すぎます!