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「やっとわたし達の仲間になる決心がつきましたか?」
女王は優しい母のような微笑みをたたえてそう言う。
「すまないが、その件はまだまだ保留にしていてくれないか。今日は別の要件できたんだ」
俺は余りぶっきらぼうな普段の態度は出ないように努めてここにいる。ここでの俺は友好的で愛想の良い中年だ。
「そうですか。生き物の生命は有限です。どうか生きている内に答えを聞かせてくださいね」
どうやらまだ放置していて良いみたいだ。
「では、こちらでお茶でもしながら、その要件というものを聞かせてくれますか?」
この女王が俺の手にしている物が分からないはずもないし、その上で要件も気付かないはずはない。あくまでも友好を深めようという腹づもりなのだろう。それほどにこの女王からのアプローチが本気なのを俺は知っている。
だからこそ、今はお願いを聞いてもらうことも出来る。
俺は手に持った魂珠を足元に置いて女王の勧めに従い席に着く。妖精達が楽しそうにお茶を淹れる。彼らはそうして世話をすることが本当に楽しいのだ。
他愛のない話が続く。おかげで本題にはなかなか入れない。少なくとも今、彼女の話したいことを遮って機嫌を損ねるのは避けたい。いつもそうなのだが、それでも大体機嫌を損ねてしまう──というかそれ以外で終わった試しがない。
彼女たちは基本的にこの閉鎖的な世界の中だけで生きている。この花園にたまに迷い込んでくる人を世話して戯れるのが彼女らの数少ない楽しみなのだ。最初は俺もその迷い込んだ1人で、唯一自由にこことの行き来が許された生き物。
「ところで、ダリルの用事ってのは何かしら?」
きたっ。ひとしきり話して満足したのだろう。
聞き役に徹するのは珍しくもないが、それも長さによる。危うくあくびしてしまいそうなほどの時間がやっと終わり、ここからが本番。
「どうもその持ち物が関わってきそうだけど、そうなのかしら?」
話が早くて助かる。いや、ここまで散々長かったんだ、さっさと済ませてもいいだろうよ。
「ああ、女王に頼み事というのは他でもない。この魂珠に込められた魂の願いを叶えるために、女王の祝福が欲しいのだ。頼まれてくれないか?」
──少しの間を挟み、女王は変わらず微笑みながら
「ええ、もちろん叶えますとも。その邪悪極まりない外法の塊をこの地に持ち込むなんて。この地にそのような穢れを──清める他ないではないですか。その前に相応の仕置きをしてからですが」
芝生が脚に絡みつく。空は赤く染まり花は黒く爛れて生垣は俺を逃がさない牢獄の如くいばらを絡ませて周りを囲む。
「あなたは本当に退屈させませんねぇ」
女王は凄惨に、嗤った。