テラーノベル
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その日二人は海辺の和風旅館に宿泊した。
部屋は畳にベッドがあるタイプの和モダンの素敵なインテリアだった。
窓を開ければ波の音が聞こえるほど海に近い。
露天風呂付きの客室なので二人はゆっくりと温泉に浸かる。その後夕食を食べに館内の食事処へ向かった。
食事処の中心には小川が流れていた。もちろん人工の川だがせせらぎ音が耳に心地良い。
二人はライトアップされた夜の海を眺めながら、美味しい酒と料理をゆっくり堪能した。
部屋へ戻る途中土産物屋へ寄った。
優弥は月曜日に婚約の事を支店長に報告すると言った。そこで許可を得られれば朝礼の時に皆に発表するとも言った。
だから同僚達へ土産を買う事にする。
店内を一通り見て歩いた後、美味しそうな菓子折を買った。
部屋へ戻ると優弥がコーヒーを飲みたいと言ったので杏樹が淹れる。
そして窓辺の椅子に座り波音を聞きながら二人はコーヒーを飲んだ。
「来て良かったな」
「うん。海は綺麗だし旅館も素敵だし……それにお料理も凄く美味しかった」
杏樹は笑顔で頷く。
そこで優弥はいつものように膝に来いと杏樹にジェスチャーをする。
杏樹はカップをテーブルに置くと浴衣のまま優弥の膝の上にちょこんと横座りした。
すると優弥が杏樹の胸に顔を埋める。埋めながら言った。
「まさかあの一夜からこうなるとは思わなかったな」
「うん…」
「あれから毎日通っても会えなかったし……もう二度と杏樹に会えないかもって思ってたのにな」
「えっ? 毎日って……?」
「実は君が勝手に消えた日から毎日あのバーに行ってたんだ。いつかまた君が来るかもしれないってね」
「…………」
杏樹は驚いて言葉を失う。
「な、何でまた私に会おうと思ったの?」
「杏樹に惚れたから」
「たった一晩で? それにあそこに行っても会えるとは限らないのに?」
「そう。なんでだろうなー、それしか手段がなかったからかもしれない」
杏樹はまさか優弥がそんな行動をしているなんて夢にも思わなかったのでびっくりする。
「でもまさか異動先にいるとはね、あの時は心臓が止まるかと思ったよ」
「私も」
「でも運命だって思ったよ。二人はこうなる運命だったんだってね」
そこで優弥はニッコリ笑ってから杏樹の唇を奪う。
「んっ……」
情熱的なキスに思わず声が漏れてしまう。
「杏樹の全てが愛おしいんだ…もう離さないからな……俺から絶対離れるなよ」
「うん」
杏樹は頷きながら愛されている喜びを感じていた。
優弥は杏樹を抱え上げるとベッド連れて行く。そしてニヤッと笑って言った。
「よーし、職場プレイでも始めるか」
「何? 職場プレイって?」
「『副支店長呼び』でするって事! こんな事なら制服も持ってきてもらえば良かったかな―?」
杏樹は思わず顔を真っ赤にして叫んだ。
「バカッ!」
「フフッ、今のうちだけだぞ、そんな事を言ってられるのは」
優弥はニヤッと笑うと早速杏樹の上に覆いかぶさる。
杏樹が「キャーッ」と言って逃げようとするとすかさず優弥の手が杏樹の身体を捉え杏樹はあっという間にうつぶせにねじ伏せられた。杏樹の両手は後ろで押さえられているので身動きが取れない。
「ゆうやっ…離してっ」
「そこは『副支店長』呼びだろう?」
「ふっ、副支店長離して下さいっ」
「いいねぇ……じゃあ桐谷君がキスをしてくれたら離そうか」
優弥が気取った声で言ったので杏樹はこらえきれずに「プッ」と噴き出した。
「なんか言い方が変よ」
「ハハッ、俺は役者には向いていないようだな」
そこで二人は声を出して笑う。
優弥は杏樹の手を自由にすると仰向けに寝かせた。そして優しい眼差しで杏樹を見つめる。
「杏樹……愛してるよ」
「優弥……私も愛しているわ」
見つめ合う二人の唇が静かに重なるとそこから深い深いキスが続く。
白山小梅
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そして窓の外ではリップ音をかき消すかのように、真暗闇の中で繰り返される潮騒の音だけが鳴り響いていた。
月曜日の朝、二人は出勤するとすぐに支店長室へ行き婚約した事を支店長に報告する。
そして改めて仲人のお願いをした。
「おーそうかそうか、それは良かった。実にめでたい! いやぁ本当に良かったなー」
支店長は心から祝福してくれた。
そして支店長の許可を得たのでその日の朝礼で優弥が二人の婚約を発表した。
そのニュースを聞いた行員達は騒然とする。
特に女子行員達の驚きようはすさまじかった。
「うそーーーーーっ!」
「マジ? キャ―ッ、まさか杏樹が副支店長の恋人だったなんて騙されたー」
「ほんとほんと全然気づかなかったわ! すっかりヤラレた」
「私はちょっとアヤシイって思ってたの。だって隣に住んでいるんでしょう?」
「でもさぁ、なんか二人が婚約したって聞いても全然悔しくないんだよねー、なんでだろう?」
「うんうんわかるわかる。逆にメデタイじゃんって思うから不思議ー」
「いや、相手が杏樹だから良かったんじゃない? あの検査部の女とかだったら絶対ムカついてたと思うわ」
「確かにそれはあるよね。まあでもさ、おめでたい事なんだからみんなでお祝いしようよ」
そんな結論に達した女子行員達は心から杏樹を祝う。
一方、若手の男性行員達はこんな事を言っていた。
「いつも一緒に行動していたのに全然気づかなかったよー」
「ですよねぇ、今聞いてびっくりです。まさかと思いましたもん」
「それにしても副支店長は俺達よりも忙しいのにちゃんと恋愛もしてたんですねー、マジ尊敬だなー」
「ほんとだよなー、なんか俺達たるんでねーか? 忙しいを言い訳にしている場合じゃないぞ! こうなったら俺も合コンして婚活するぞっ!」
「あ、先輩、俺も混ぜて下さい、頼みますっ!!!」
彼らには優弥の婚約が刺激になっているようだ。
その日は一日店全体がお祝いムードに包まれたまま和やかに過ぎていった。
コメント
30件
職場での祝福は嬉しい😄これも2人が普段真摯に仕事をしていて、人柄も素晴らしいからなんだろうな!杏樹ちゃん、優弥さん末永くお幸せに🥰
ついに職場でも婚約発表✨💍✨ヤッター.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+. 2人とも真面目で優秀、人望も厚く、職場でも祝福ムード....👩❤️👨💐🎉 本当に良かったね~🥰❤️
旅館と言えば浴衣。 浴衣と言えば何処からでも手が入る♡ あ、浴衣の帯も使えるね♡うふふ 制服無くても盛り上がる事間違いなし。 次、最終話だと言うのに、やっぱり変態コメな私でごめんなさいなのー!