TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

それから一年の月日が流れた。


杏樹は今年の春に結婚し優弥のマンションで暮らしていた。

結婚を機に隣へ移り住んだだけなので今までと環境は変わらない。


優弥は結婚してすぐに本部へ異動となる。そして今は経営企画部の部長として忙しい日々を送っていた。

この若さでの部長職は異例の出世だった。


一方杏樹は結婚と同時に銀行を退職し、現在は同じ支店でパートタイマーとして働いている。

勤務は週3日。仕事内容は窓口を担当だ。パートの西野が春で退職したのでその後に入った。


そろそろ優弥を起こす時間なので杏樹は寝室へ行く。


「優弥、そろそろ起きて、遅刻しちゃうわよ」


杏樹の声で優弥は目を覚ます。そして甘えた声で言った。


「キスしてくれないと目が覚めないぞー」

「フフッ、もう起きてるじゃない」

「いや、まだ起きてない」


杏樹は仕方ないわねという顔をすると優弥の傍へ行き頬にチュッとキスをする。

すると優弥はすかさず杏樹の後頭部を引き寄せ杏樹の唇を塞いだ。


「んーーっ……」


長い長いキスが終わると漸く杏樹は解放される。


「バッチリ目が覚めたぞ! さて起きるか」

「今日は大事な会議があるんでしょう? 頑張ってね」

「ありがとう。頑張るよ」


優弥がシャワーから戻って来ると二人は朝食を食べ始めた。

ニュースを見ながらあれこれ会話をするのはいつもの風景だ。


「杏樹は今日はパートだよな。帰りに一緒に夕飯食べて帰る?」


その誘いに杏樹の目がキラキラと輝く。


「いいの?」

「もちろん。何が食べたいか考えておいて」

「わかったわ」


その後優弥がネクタイを締め終えると杏樹がチェックする。


「いっつも右に曲がってるぅ」

「ハハッ、杏樹に直して欲しくてわざと曲げてるんだ」

「こらっ」

「怒った顔も可愛いよ。じゃあ行ってくるよ」


杏樹は玄関まで見送りに行く。

優弥は靴を履いた後杏樹の方を向くと、可愛い新妻の頬にチュッとキスをした。


「じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


優弥を見送った後の杏樹は急にバタバタと動き始める。

朝食の後片付け、洗濯、そして風呂の掃除を軽く済ませた後出かける準備を始める。


パートの勤務開始は9時半からなので9時に家を出れば間に合う。

身支度を終えた杏樹は9時になると部屋を出た。その時隣のドアから先輩の美奈子が出て来る。


「杏樹おはよう」

「美奈子先輩、おはようございます」

「じゃ、行こっか」


そこへ更に隣の古田敏子が出て来て二人に声をかけた。


「おはよう。いつも仲がいいわねぇ。行ってらっしゃい」

「「おはようございます。行ってきまーす」」


三人は笑顔で挨拶を交わした。


そう。今、美奈子は杏樹の隣に住んでいた。

伯父の光弘は結婚を機に杏樹がもうこの部屋に住まなくなるのならとマンションを売却すると言い出した。

そこで美奈子が名乗りを上げる。美奈子と孝輔はこのマンションを購入した後すぐに結婚し今は夫婦で住んでいる。

そして美奈子も一度銀行を退職し、今は杏樹と一緒に以前の職場へパートとして通っている。


駅へ向かいながら美奈子が言った。


「来週の葛西支店長の送別会出る?」

「もちろん出まーす」

「支店長もとうとういなくなっちゃうんだねー」

「ほんと、淋しいですよねー」

「うちの支店もあの頃とは徐々に人員が変わりつつあるねー」

「銀行員は転勤が宿命ですからね」

「あ、そういえば早乙女家具店の跡地って何が出来るか知ってる?」

「え? あの土地売れたんですか?」

「そう。いい場所だからあっという間に売れたんじゃない?」

「で、何が出来るんですか?」

「ファミレス! やったね、杏樹とパフェ食べて帰れる!」

「ファミレスってどのファミレスですか?」

「ロイヤルガーデンよ」

「あ、なら嬉しい! あそこ時々パフェフェアをやりますよね?」

「そう。だからオープンしたらすぐ行くぞー」

「了解でーす」


今杏樹は幸せに包まれていた。

愛する夫、気心の知れた隣人、そして更に……。


(あ、そうだ、今日妊娠検査薬を買って帰らないと……)


「でさぁ、新しいパン屋さんが出来たの知ってる?」

「ああ、はいはい、駅の反対側ですよね?」



恋人に振られたあの日、杏樹は絶望のどん底で光を見つけた。

光はやがて幸せの種となりその種を蒔くと真実の愛が実った。


海に落ちたばかりのガラスの欠片は人を傷つけるほどに尖っている。

しかし波に揉まれ岩肌で削られるうちにいつの間にか丸みを帯びて優しい色の光を放つようになる。



もし今あなたがどん底で苦しい状態にいたとしても、やがてあなたは光を見るだろう。



In the middle of difficulty lies opportunity.


『困難の中にこそチャンスがある』


~アルベルト・アインシュタイン~


<了>

画像

この作品はいかがでしたか?

1,306

コメント

121

ユーザー

杏樹ちゃんと優弥さんの甘い🍯雰囲気にのぼせそうで、幸せな気持ちです🤭 最後まで読むと泣きそうになりました。瑠璃マリ先生、ハッピーをありがとうございました😊

ユーザー

やっと最後まで読めましたー! 他サイトだとなかなか追えなくてすみません! 完結おめでとうございます٩(ˊᗜˋ*)و ラブラブチュッチュな二人のハピエン、読んでるこちらも幸せをいただけました🥰

ユーザー

完結おめでとうございます💐🎉 美奈子先輩が結婚し お隣に越してきて✨✨ そして、優弥さん、杏樹ちゃん夫妻の元には コウノトリがやって来そうな予感....🕊️👶💕 皆幸せいっぱいのハッピーエンド、嬉しいです🍀✨ 素敵なお話をありがとうございました🥰💕

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚