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#主人公最強
しめさば
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圧倒的な絶望を前に。
私は魔神族から一切目を離さず、背後に向かって叫んだ。
「辰美、作戦変更よ!
私たちが時間を稼ぐ間に、あなたはドラゴン化の準備をして!
タイミングを見て、後ろの扉を塞いでるスライムを焼き払い、小娘と……カエデ、ツバキ、ローザを連れて脱出ッ!」
「でも……サクラさんたちが危険すぎる……!」
辰美が悲痛な声を上げる。
「え! いやだよお姉ちゃん!」
エスト様が泣き叫ぶ。
「サクラ!? あんたバカじゃないの!?
私たちが残っても足手まといになるだけだけど!……でも、でも!」
ツバキがパニックを起こして地団駄を踏む。
「やだ! サクラ、また私たちを置いて勝手に死ぬ気!?
『恥ずか死』の時もそうだったじゃん!
またひとりで勝手に逝くなんて絶対に許さないからね!
私も残るの!!怖いけど戦う!!
生きて帰って……一緒にアンナさんの焼きそばパン食べるんだからぁっ!」
カエデがウィルソン(石)を握りしめ、ボロボロ泣きながら叫ぶ。
「……」
ローザは教典を抱きしめ、静かにその場に立ち尽くしていた。
「……大丈夫。なんとかする」
──嘘だった。でも、他に方法がない。
私は足元にすがりついてきたエスト様に向き直り、
その頬をそっと撫でた。
「エスト様……顔を見せて?
……ふふ。あなたはそのままで良いんだからね?
そのまま……生きて行けば……きっと大丈夫」
頬の手を、銀色の髪に滑らせる。
「……私さ、ずっと……家族が欲しかったんだ」
「お姉ちゃん……?」
「でさ、あんたが甘いココアで私を喚んでくれたから。
私を、家族だって言ってくれたから……
暗くて冷たかった私の時間が、全部、温かくなったんだよ」
私は精一杯の作り笑いをした。
「この最悪でバグってる異世界が、ほんとは……
すっごく大好きだったわ。ありがとね」
「お姉ちゃん……?」
震えながら、エスト様が言った。
──そして、私はゆっくりと再び魔神の方を向き、大きく息を吸い叫ぶ。
すぅ……。
「辰美ぃッ! 今すぐに小娘たちを連れて逃げろッ!」
声がダンジョンに響く。
「!? ……でも、でも! サクラさんは──!」
動揺した辰美が振り返る。
──私は振り向かず、背中で叫んだ。
「いけぇ!! 今しかない!!
……命令よ!!!
……お前が……私の……代わり……代わりに!! ……その子たちを……!」
「……ぅ……ッ……は! はいっ!! 任せて!!」
歯を食いしばった辰美の目から涙が溢れた。
「絶対、絶対に! 生きて帰ってきて!! サクラさんっ!!」
辰美は一歩踏み出しながら、背中越しに叫んだ。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!!
……嫌だよ! 私も……家族! お姉ちゃん!? 家族なんだよ!!!」
辰美の腕の中で、エスト様が泣き叫ぶ。
「うるさい! 家族なんだから! あんたは私の大事な……妹……なんだから! ……だから! 黙って姉の言うことを聞けぇッ!」
「……ッ!!」
「やだ! サクラも一緒じゃなきゃ絶対にやだ!!」
カエデがウィルソン(石)を構えたまま、その場に踏みとどまる。
「そうよ! 幼馴染を置いて自分だけ逃げる聖女がどこにいるのよぉ!」
ツバキも泣き喚きながら、地面にへたり込んで動こうとしない。
「あんたたち……ッ、足手まといなのよ!!」
私は振り返らず、怒鳴り声を後方に叩きつけた。
「あんたたちがいたら、私が本気で逃げられないでしょ!!
……焼きそばパン、特大のやつ買って待ってなさい!! 絶対奢らせるから!!」
「サクラ……っ!」
「行きますよ、ツバキ様! カエデ様! 御友人の尊き覚悟、このローザが無駄にはさせませんッ!」
「えっ? ちょ、ローザ!?」
「ローザさん、待って!?」
ローザが泣き叫ぶ二人を両脇にガシッと抱え上げた。
見た目にそぐわぬ、尋常ではない膂力だった。
「うわぁぁぁん!! 絶対死ぬなーっ!!」
「離して! サクラーッ!!」
──直後、辰美の放った炎が後方のスライムを吹き飛ばす音が響く。
彼女はエスト様を背負い、ローザに小脇に抱えられたカエデたちと共に走り去った。
……遠ざかっていく足音。
「よし……行ったか……」
少しだけ間を置いて、私は息を吐いた。
「……あー、うるさかった」
「でもさ? ……やっと出来た、家族……だったんだよなぁ……あの子への最後の言葉くらい……優しく……さ……はぁ……ふふっ……まぁ……しゃーないか……」
かすかに肩が震えている。息を整える。
私は辰夫の肩に縋り付き、俯いたまま声を絞った。
「ねぇ……? ……辰夫──
……ごめん……私と一緒に…………死んで……」
声が掠れていた。
辰夫は小さく目を見開いた後──
ふっと、重荷が下りたような、
見たこともないほど穏やかな顔で微笑んだ。
──そして、そっと私の手の甲に手を重ねる。
「……前の主であるユズリハ様は、気高く、美しく……我を逃がして一人で逝かれました。
──それを千年間、呪いのように後悔しておりましたが……」
「……」
「ははっ……貴女のように弱さを隠さず、『一緒に死ね』と道連れを要求してくる泥臭く我儘な主は初めてです」
「……悪い?」
「いやなものか!!
今までで一番最悪の命令ですが……
──なぜか悪い気はしませんなぁーーーッ!!!」
辰夫が叫びながらドラゴンの姿に戻る。
「……はは……ありがとう」
「あと……辰夫……今まで……ごめん……
ありがとう……ホントにありがとう。感謝してる」
私は辰夫を見上げて微笑んだ。
「ふはは……サクラ殿。いや、“我が主”よ。
らしくないですが──これもまたよし!」
辰夫が大きく息を吸って吐いた。
「……さて。ヤツらをぶっ飛ばしてエスト殿や辰美たちに合流しませんとな」
「うん……うん……あいつらだけだと心配だしね!」
私と辰夫の目線が合った。
それから──どちらからともなく、ニッと微笑んだ。
「……ふぅ、切り替えるわよ。
辰夫ぉ──さっきのは忘れろ。あれ全部、嘘だから。
で、私より先に死ぬなよ?」
私は手足をプラプラ揺らして、軽く体をほぐした。
「ははは。忘れることはできませんな。
そして──配下とは、主より先に死ぬものですぞ?」
口を大きく開けて辰夫が笑う。同時にコキンと首を鳴らす。
「ざけんな。私は前の主みたいに立派じゃないし。
あんただけカッコよく死ぬなんて絶対に許さねんだわ。
死ぬ時も生きる時も一緒よ。泥水すすってでも、足掻くぞ?
──また明日も、アイツらの呆れた顔、見に帰るわよ」
「……ふふ。ええ。ええ! 存じておりますとも!
我らはどこまでも生き汚く、共に明日を勝ち取りましょう!」
辰夫は、誇り高き笑みを浮かべた。
──そして、同時に魔神に向かい構えた。
──静寂──
──天井の石が剥げて落ちた。
コツン……。
「よし! 行くわよぉおおおおおお!! 辰夫ぉぉぉぉぉッらぁああああああああああああ!!!」
「応ッ! 雄雄雄雄雄ーーーーーッ!!!」
タ……タ……タタタタタッ!
ズ……ズ……ドドドドドッ!
私たちは魔神に向かって駆け出した──。
魔神たちは、一歩も動かない。
トップスピードに乗った私は大きく地面を蹴る!
死んでたまるか。
あのポンコツ妹の頭を、もう一度撫でてやるんだから──
……絶対に、帰る。
そして──
──ズザザザザザァッ!!!!!
スライディング土下座ぁッ!!!
「これが私の最終奥義──スライディング土下座じゃあああ!!」
「私の覚悟!!とくと見ろやぁあああ!!」
「すんませんしたあーッ!」
「……何に?」
私は地面に三つ指を付き、魔神たちを睨みつける。
「はい! ここに居ることにです! 生まれてきたことにです! 呼吸をしてることも含め! 申し訳ありませんでしたぁああああああーッ! ほら! 辰夫も早く土下座ぁッぉッ!?」(超早口)
(……ムダ様はこう仰っていた……『全力で謝れ。滑れ。叫べ。叩きつけろ。オデコとプライドを。』……!)
\\ ガンガンガン! //
オデコとプライドを地面に打ち付ける音が響く。
……空気が、止まった。
『……何をしている?』
魔神族が冷たく見下ろす。
\\ ガンガンガン! //
「あやまっております!!」
『……戦闘行動ではない?』
魔神の一体が、わずかに動きを止めた。
一方、辰夫はそのままダッシュして魔神に突撃する!
タタタ……
\\ん…サクラ殿ッ!?──//
辰夫は振り返って私を見ながらダッシュ継続
タタタ……
\\我が竜王拳──//
辰夫が後方の私を見ながら奥義発動の準備
ぺん☆
\\ぎゃふん!//
辰夫は魔神のワンパンで吹っ飛ばされた
ガン!
\\ ぎゃふん! //
……ドン!
\\ ぎゃふん! //
辰夫は壁にぶつかり、床に落ちた
「……。」
辰夫がゆっくりと立ち上がり、虚空を見つめる。
──この時、辰夫は泣いてなどいないと後に言った。
\\ サーセンシター!!!ガンガンガン! //
──天の声──
《この一戦は、“世界初・全力スライディング撤退作戦”として後の世の教科書に載る。》
辰夫は竜王だ。確かに強い。
だが──力の格が違いすぎた。
“強者ですらワンパンされる”という現実が、逆に魔神族の異常さを証明していた。
(つづく)
◇◇◇
──今週のムダ様語録──
『全力で謝れ。滑れ。叫べ。叩きつけろ。オデコとプライドを。』
解説 : 命大事。
サクラ「笑われたか?結構。生きてるからだ。死んだらもう、笑われることすらできない。私は“恥”で一度死んでいる。だからもう、怖くない。」
スライディング土下座、それは”戦略”であり、“哲学”であり、
そして、生き残るための最終奥義である。