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少しでも油断すれば鋏を持った死神がやってくる。大切な記憶のノートを断片的に切り取りに……。
些細な出来事から大きな出来事まで。さっき話した兄との内容すら忘れそうだったから、焦りを感じてきちんとメモにとった。
このままでは確実に日常生活に支障が出る。だから必ず、次に行った時に白露を連れて帰りたい。
独りが怖い、味方がいない、頼れる人がいない。彼はそれを憂いて帰るのを拒んでいた。
けど、大丈夫だ。これからは絶対に彼の傍にいる。
きっと彼の家族は彼の帰りを待ってるはずだし、それでも帰れないと言うなら、自分の家に彼を迎えよう。無計画かもしれないけど、既に非現実的なことが幾つも起きている。計画なんか立てたところで、きっと役に立たない。
白露を説得することを最優先に……今夜の十時十分、交差点へ行こう。
そう決意して、スマホをポケットに仕舞い、商店の並ぶ前を向いた。
え?
その直後、清心は息を飲む。
特別変わった景色が広がっていたわけじゃない。むしろ見慣れた近所の道だった。
いつもと変わらず、人がまばらに歩いているだけ。だが、そのずっと奥には────いるはずのない人物が見えた。
「……俺?」
横を向いてる為、正面からは見えない。
しかし目の前には、清心と全く同じ服装、髪型、顔立ちの青年がいた。
驚愕のあまりその場に立ち尽くしてしまう。彼が歩き出したことで、やっと全身に力が入った。
追いかけて、確かめないと。そう思うのに、何故か足が竦む。……確かめたくない、と僅かに思ってしまった。
いやいや。
確かめないと気になる。自分に喝を入れて、清心は彼の方へ走った。しかし彼は足早に角を曲がった為、姿が見えなくなる。
清心も続いて角を曲がったが、そこには誰もいなかった。
数秒も経ってないのに、どうなっているのか。
単純に、自分によく似たそっくりさんという可能性が高い。それでも彼は青いシャツと白いズボンで、服装や髪型まで全く一緒だった。
偶然に偶然が重なることは珍しくない。
それでもやはり、気味が悪かった。