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5話 我らの魔王(握手会スタイル)
丘の広場に
やたら明るい曲が流れている
ぽんぽん跳ねるような音
ダークな世界観には似つかわしくない軽さ
ふっくらは
丸い体をゆらしながら列にいた
短い脚がそわそわ動き
腹は緊張で前に出たり引っこんだりする
「……なんで魔王の握手会って
こんなに曲が軽いの……?」
後ろの客が笑顔で言う
「ノリが大事よ!」
ふっくら
「ノリなんだ……」
(知らなかった)
列が進むたび
魔王の姿が近づいてくる
深いフード
長い衣
座っているだけで圧がある
なのに音楽は軽い
ふっくらの丸みが震えだす
「むり……手汗が……
いや手がないけど汗が……
いや汗の概念が……混乱……」
そして順番が来た
魔王がゆっくりと顔を上げる
フードの奥は見えない
でも“見られている”気配だけははっきりしていた
ふっくら
「……あっ…………」
魔王
「…………」
ふっくら
「……………………」
時間終了の鐘が鳴る
強制的に係の者に押され
ふっくらは横に流される
「わぁぁぁぁぁ!!
何も言えてないのに!!
丸の時間が終わった!!」
近くで見ていた司会役の影が
なぜか拍手している
その拍手に合わせるかのように
列の後ろの客たちが
“わずかに数を減らしている”
ふっくらが振り向く
「……あれ?
さっきもっといたよね?」
係の影がさらっと言う
「気のせいですよ〜!
魔王の前だとみんなちょっと薄くなるんです〜!」
ふっくら
「薄くなるの!?!?」
その声に
魔王が微かに反応したように見えたが
ふっくらは気づいていない
列は再び動き出す
曲は明るい
空気は緩い
場面は陽気
──なのに
丘の影だけが長く伸びたまま動かなかった
ふっくらは
丸い体で落ち込みながら歩き出す
「次こそ……言う……
次こそ“いつも見てます”って……!」
係の影が
ふっと笑った気がしたが
誰も確かめなかった