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「舞華、肩を貸して貰えるか?」
「あっ、は、はい!」
オレは一番手が空いていそうで、身長も近い舞華に声を掛けた。
のだが……
「何の迷いもなく巨乳を選びましたね。このエロ」
「ムッ!」
「違いますよっ!」
白い目を向ける木村さんと、睨むような視線を向けるかぐやに反論しながら、オレは舞華の肩を借りて立ち上がった。
「詩織、ありがと……もういいわ。みんなも、ありがとう」
木村さんとルーキー達に礼を言いながら、ゆっくりと上体を起こすかぐや。そして、オレを見上げながら、右手を差し出した。
「優人、手ぇ貸して」
「あいよ」
舞華に肩を借りながらその手を取り、かぐやをゆっくりと引き起こす。フラつく身体を愛理沙達に支えられながらも、なんとか立ち上がったかぐやは、掴んでいたオレの手を高々と挙げた。
そんなオレ達の姿に、湧き上がる歓声と拍手の渦――
その圧倒的な迫力に立ち竦むオレに、優しく微笑みかけるかぐや。
「いいもんでしょ? プロのリングは……」
「ああ、学祭なんかのリングとは大違いだな。いい想い出になったよ」
オレの返した言葉に、かぐやは眉を顰めた。
「やっぱり、辞めるつもりなんだ……?」
「ああ……そのつもりだ」
「そっか…………あとは頼みます、佳華さん」
顔を伏せて、段々と小いさくなるかぐやの声。
「えっ? なんだって?」
「なんでもないわよ、この鈍感バカッ!」
酷い言われ様だな、オイ……
「あ、あの~、おにい……じゃなくて優月さん?」
かぐやの言い様に苦笑いを浮かべるオレへ、舞華が今にも泣き出しそうな顔を向けた。
「んっ? なに?」
「ホントにレスラーを辞めちゃうんですか……?」
オレはその問いに努めて優しく笑いながら、舞華の頭を撫でるように手を置いた。
「そんな顔するな。レスラーを辞めたって、団体を抜ける訳じゃないんだ。手が空けば、練習にも付き合ってやるからさ」
「うぅぅ……」
拗ねるように口を尖らせる舞華。
「俺ッチもアニ……アネゴがレスラー辞めるのには、ヤッパ納得できねぇよ……」
「そうですわね……やはり、今すぐにでも性転換医を呼び寄せて、そんな不浄なモノ切除してもらいま――」
「だから、それは止めろってっ!」
てかっ、オレの命の次に大切な宝物を不浄とか言うなっ!!
「なぜですの? 費用の事でしたら心配なさらずとも大丈夫ですわよ。その程度でしたら、わたくしのポケットマネーで十分ですわ」
「いや、そうゆう問題じゃないから……」
てか、そんな金があるのなら、このあと智子さんに連行される飲み屋の代金を立て替えてくれ。ついでに、説教も代わってくれると助かる。
「お~い! そろそろ締めるから、みんな並んでくれ~っ!」
新人達から向けられる理不尽な非難の目に晒されていたオレに救いの声。マイクを片手に、佳華先輩がリングへと上がって来た。
これで、ようやくオレの女装生活も終焉を迎えられる。この一ヶ月、色々あったし大変ではあったけど、今日の試合を含めていい想い出になったのは確かだ。
ちょっと強引……いや、かなり強引ではあったけど、この人にも少しだけ感謝しよう。
ありがとうこざいました、佳華先輩。