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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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次の日仁は悦子に呼び出されてテレビ局まで出向いた。

会議室で悦子を待っている間2本目のドラマの脚本を担当した脚本家の北山が挨拶に来た。


「神楽坂先生久しぶりです」

「おっ、北山ちゃん久しぶり、元気だった?」

「はい。もう先生と組んだドラマのヒットのお陰であちこちから依頼が来て大忙しですよー」

「そりゃ―良かったな―、北山ちゃんはまだ若いんだから頑張って活躍してくれよー」

「ありがとうございます。あ、ちなみに次のドラマの脚本はまた僕が担当ですのでよろしくお願いします」

「おーそっかーそれはかなり心強いよー、よろしく頼むよ」

「ところで先生アッチのドラマの噂知ってます?」

「アッチのドラマの噂?」

「松崎界隈のですよー」

「いや、知らないけど何かあったのか?」

「いや、実は今警察が松崎ににらみを利かせているという噂があちこちで流れていて結構物騒っていうか…」


仁はやはりそうかと思った。しかし何も知らないふりをして北山に聞く。


「松崎はなんかやらかしたのか?」

「それがですねぇ、自分の番組に出ている若い女優に手を出しているらしくて」

「ハァ? 馬鹿だなー、あいつそんな事してんのか? でもだからってなんで警察が?」

「いわゆるあれですよ」

「あれ?」

「同意なきナンチャラっていうやつです」

「って事はレイプか?」

「詳しくは知りませんが女性側から被害届が出たとかなんとか?」

「ハァ? それはヤバいな。でもさーあいつ今までそんな噂出た事ないよなぁ? もしかしたら女性側の売名行為とかじゃねーの?」


仁はとぼけて聞く。


「それが違うんですよ。今まで表沙汰にならなかったのは松崎の親族に大物政治家がいたからなんです」

「揉み消しか」

「そうみたいです。で、最近その政治家の力が弱まったので警察が動き出したんじゃないかともっぱらの噂です」

「なるほどねー」

「先生も気を付けて下さいよー」

「俺は何も悪い事はしてねーよ」

「フフッ冗談ですよ。先生が意外とちゃんとしているのは皆わかっていますから」

「意外とってなんだよ意外とって」

「ハハッ、すみません。じゃあ僕は今日挨拶に寄っただけなんでこれで…」

「おうっ、じゃあ原作仕上がったらまたよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします。じゃあ失礼します」


北山は笑顔で会釈をすると会議室を出て行った。


(警察が動き出してるんなら俺が制裁を加える前に奴は捕まるんじゃねーか?)


仁は神妙な面持ちでそう思った。

その時ノックの音がして悦子が入って来た。


「ごめんー、わざわざ呼び出して悪かったわね」


悦子は笑顔で言うとカップに入ったコーヒーとバームクーヘンを仁の前に置いた。

今日はちゃんとドリップしてきたようだ。

仁は早速コーヒーを一口飲むと言った。


「いや、別にいいけどさ、あ、今北山ちゃんが挨拶に来たよ。今度の脚本は北山ちゃんだって?」

「そうよ、北山ちゃんは純愛系得意だからねー」

「そっか。で、話しの本題はなんだ?」

「それがさぁ、ドラマの放映日が春スタートの予定だったんだけれど急に早まっちゃったのよー」

「ハッ? 春でも時間がねーのにもっと早まるのか? いつだ?」

「ごめんねー、2月なの♡」


ブッ


仁は思わずコーヒーを吹く。


「あらーやだ汚ーい、子供じゃないんだから吹かないでよー」


悦子は呆れたように言いながら傍にあったウェットティッシュでテーブルを拭く。


「だって普通は驚くだろう? 2月って言ったらもう時間ねーじゃん。なんでそんな急に早まるんだ?」

「それがさぁ松崎のせいなのよ」

「松崎の?」

「そう。松崎のドラマ枠が急に取りやめになってね。向こうからキャンセルしてきたのよ」

「なんで急に?」」

「なんか体調不良とかなんとかよくわからないんだけれど」

「体調不良は言い訳で実は書けなくなったんじゃねーの? もしくはゴーストライターが逃げ出したとか?」

「それがよくわかんないのよ。体調不良って言われたらもうどうしようもないしね。それで制作部はパニックよ」

「そりゃそうだろうなぁ。下手すりゃ間に合わねーしな―」

「とにかくそんな状況だから急遽仁ちゃんのドラマで行こうって事になったのよ」

「ハァッ? だってまだ原作出来てねーぞ」

「そこをなんとかお願い! 一生の頼み! なんとか11月中に原作仕上げてもらって12月中旬までに北山ちゃんに脚本仕上げて12月中に撮影をスタートすればなんとかなると思うのよ」

「ほんとお前んとこの局はいつも無茶ぶりばっかりだなー、こっちの予定なんてお構いなしなんだから」

「仁ちゃん助けてよー、ちなみに枠は『月9』よ『月9』! 『月9』と言えばドラマの花道ゴールデンタイム! 最高じゃない?」

「けっ、松崎の補欠で入ってもあんまり嬉しくねーし」

「そうそう、そう言えばあの噂聞いた?」

「松崎にガサ入れの事か?」

「あ、知ってた! でもまだそこまではいってないみたいだけれどなんかヤバそうなのよ」

「それってよー、元々は枕営業かなんかじゃねーの?」


その時悦子は仁に自分の方へ近づくよう手招きをした。仁はすぐに顔を近づける。

そこで悦子が小声で話し始めた。


「これはあくまで噂なんだけれど薬関係の捜査も入るらしいわ。薬って言ってもただの睡眠薬なのかヤバい薬なのかはわからないけどね」

「ヤバい薬? マジかよ」

「最近テレビ業界でもチラホラとそんな話が出回っていたけれどまさかあの松崎がって驚いたわよ。なんか行きつけのクラブのVIPルームに若い女優やモデルなんかを連れ込んでいるみたい。そこでいつも決まったメンバーで飲み会をしているっていう噂は前から聞いていたけれどさぁ」

「マジか? 芸能界乱れてんな―」

「うん。だから今回は松崎側からキャンセルしてもらって逆に良かったのかもしれない。局長もそう言ってたわ。ドラマ放映中に逮捕でもされてごらんなさいよ、こっちは放送打ち切らなくちゃだし大損害を被ってたかも」

「なるほどな。ところでよー松崎繋がりでちょっとお前に話しておきたい事があるんだよ」


仁は悦子にメル友である綾子についての説明を始めた。


「えーうそーっ! そのメル友さんまさかの松崎の元妻だったの?」

「ああ、俺もびっくりしたよ」

「で、交通事故を起こした時に不倫相手と密会していたのは本当だったんだ。その結果息子を死なせただけじゃなく相手のトラック運転手も金で丸め込んで自分に非がある事を隠し通したんだ。うわー最低な奴!」

「まあ事故は故意じゃないから殺人とまでは言えないけど母親から見たら結果的には同じだよなぁ」

「ほんと酷い話! で、その綾子さん? 彼女には同じ女として凄く同情するー。制裁を加えてやりたいって思う気持ちもよくわかるわ。ただそれが復讐みたいになるのはどうかなーって思うけど」

「何で復讐が駄目なんだ?」

「そのムカつく松崎だって一応は息子さんの父親でしょう? それに仕返しをしたからといって息子さんは帰って来るわけじゃないし。だから懲らしめたらスッキリってそうは簡単にいかないんじゃないかなー。それにママが人を憎み復讐に燃える姿を見て天国にいる息子さんが果たして喜ぶかなーって」

「じゃーどーすりゃーいいんだよ」

「うーんそうねぇ、亡き息子さんが喜ぶのはやっぱりママが幸せそうに笑っている姿じゃないかな? だからママが思い切り幸せになれるような何かがないと! つまりドラマをただの復讐劇にしては駄目なのよ。あくまでもハッピーエンドへ持っていかないと」

「うーん、復讐を題材にするとハッピーエンドへ持って行くのは結構厳しいよなー」

「あら仁ちゃん、そこは天才作家の腕の見せ所でしょう?」

「そりゃあやれと言われればやれない事はないけれど……でもなんかアドバイスをくれよ」

「いいわよ。えっと、今仁ちゃんが考えているストーリーは松崎をモデルにしたまんまの設定でしょう?」

「まーそーだな、でも多少設定は変えようと思ってる。で、その先はどうしたらいい?」

「元妻が幸せになる為には何が必要だと思う?」

「一番の望みはやっぱり元夫に制裁を加える事だろ?」

「ううんそれはあくまでも直説法じゃない? そうじゃなくって間接的にやり返す手段は?」

「間接的? そんななまやさしい方法で相手に制裁を加えられるのか?」

「あらー直接やり返すような野蛮な方法あたしはオススメしないわ。もっとあるでしょう? 彼女が幸せになる為に必要なものは? 元夫よりももっと?」

「あ、そうか。元旦那よりもいい男か!」

「そう、そしてー? 失った子供を取り戻す?」

「取り戻せるわけねーだろーもうこの世にはいねーんだから」

「うんそうよ。だから?」


仁はピンときた。


「なるほどな」

「そこで仁の出番よー」

「ハッ? なんで俺なんだ?」


そこで悦子は仁の頬を両手でムギューッと挟んでから言った。


「仁ちゃん、全てはあなたにかかってるの。彼女のリベンジと幸福、そして私のドラマ大賞も。いい? わかったわね?」


悦子にムギューッとされたまま唇がひょっとこのようになった仁は唇を尖らせたまま観念した。


「わっわかったよっ」

「あら、いいお返事♡ 仁ちゃんファイト―♡」


悦子は漸く手を離すと楽しそうにケラケラと笑った。

そしてもう一言付け加える。


「それから原作が出来上がったら綾子さんにも見てもらって彼女をモデルにした事をきちんと伝えてね。彼女の承諾がないと使えないから。そこのところはくれぐれもよろしく」

「わかったよ」

「そうなると メル友=神楽坂仁 っていう事を早めに伝えないとね。いつ頃話す予定?」

「それは今考え中。一気に色々押し寄せて来やがったから今頭がパニックだ」

「あらー仁ちゃんがパニックなんて珍しいー。でも言うなら早いうちがいいわよ。ドラマの許可も取らないとだし早めにお願いね」

「ああ、わかったよ」


仁はため息をつきながら残りのコーヒーを一気に飲み干した。

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