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あれから3週間
週に一回定期検査を行うことが決まった 『この珍しい症状を記録に残したい』だそうだ。
ほんと笑っちゃうよねw
肝心の症状は今のところはなんともない
『なんともない』といっても些細な変化はある。“足音が軽い” そんな感じだ
でも昔は絶対気づかない極小の変化も最近は敏感に感じ取るようになった。
恐らく僕は“怖い”と思っている。だれかにこの事が悟られるのが…
別に消えるのは今は怖くない。あんまり実感がないからねw
それも後少しで変わるのかぁ
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定期検査の後、病院を出た瞬間、冬の風が頬を刺した。けれど冷たさより、胸の奥に広がる“別の感覚”のほうがずっと重かった。
存在消散病
名前だけなら冗談みたいに軽いのに、意味は残酷すぎる。
『忘れられる』
『気配が薄れていく』
『そのうち、存在そのものが消える』
医者の口からその言葉がこぼれたとき、時間が一瞬だけ止まった気がした。
――0.00001%の奇病
ー―治療法なし
なんで自分なんだろう。
問いかけても答えなんて返ってこない。胸の中に重い石が沈むだけだった。
そんなときだった。
道路の脇で花を手入れしている男が目に入った。
踏分誠一
スワロウテイルの記録者。
いつも笑顔でみんなに優しく、名前も顔も基本的には忘れない。
はずだった。
「こんにちは、踏分君」
そう声をかけると、彼の手が止まった。
そしてゆっくり顔を上げ――眉がわずかに寄った。
『……?どちら様d……?』
その一瞬。
ほんの一瞬だけ見えた“本気の困惑”。
その刃が胸を貫く。
『あ……! 八重桜さんか。びっくりした……!』
笑ってごまかすように言い直した彼の声は、いつもと同じトーンだった。
でもその“最初の一秒”が消えない。
忘れられたわけじゃない、と言われればそうかもしれない。
でも、心がじんわりと凍る。
「あ、えーっと、用事はない!ごめんね!じゃあね」
僕は慌てて言ってスタスタと歩き出す。
背中に感じた彼の視線が、少し遅れて追いかけてくる。
その“遅れ”がさらに痛かった。
ーーーーーーーーー
家に帰ったが、何かをする気にはなれなかった。
暇なのに、休む気にもなれない。
椅子に座ると心だけが落ち着かずにふらつく。
『暇だぁ〜!』
(……屋敷、行こうかな)
気を紛らわせたくて、みんなのいる屋敷へ向かった。
少し歩くだけで、胸のあたりがふわふわする。
自分の輪郭が曖昧になるような、不安な感覚。
そんなの気のせいだと言い聞かせながら、屋敷の扉を開けた。
奥の居間から声が聞こえる。
権兵衛と光子郎だ。
二人とも笑っている。
――あぁ、よかった。
この場所はまだ何も変わってない。
『やっほ〜! 何話しているの?』
元気に声をかけたつもりだった。
でも次の瞬間、権兵衛が振り返り…
『わ! 八重いたのか!』
心臓の奥で、何かがぷつりと千切れた。
ほんの何気ない一言。
悪意なんて、もちろんない。
むしろ権兵衛らしい反応だ。
だけど、その言葉がまるで“自分の透明さ”を肯定したみたいで、胸がぎゅっと縮む。
『えっ、いたよ。さっきからいたよ?ww』
そう返したけど、声が少しだけ震えた。
権兵衛は悪びれもせず頭をかいた。
『すまない、全然気づかなかった』
気付かなかった──
その言葉の重さに、笑顔が保てない。
光子郎もこちらを見たが、微妙に“焦点が合うまでに時間がかかる感じ”がした。
気のせいだと思いたい。
ただの偶然であってほしい。
でも、胸の奥は冷たい。
『……そっか。うん、大丈夫、大丈夫だよ』
言いながら、心の中ではずっと別の声が響いていた。
――始まってしまったんだ。
名前も、気配も。
少しずつ。少しずつ。
自分が“薄くなっていく”現実が。
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コメント
1件
え…やば…残酷すぎません?純くーん!!僕は一生忘れないからねぇ!?(?)