経死ボタン――
そう呼ばれるボタンがあるらしい。1回押すと1日寿命が延びるんだと。押すと現実世界を模した別世界に飛ばされ、様々な原因で100回死ぬらしい。だけど、別世界では死ぬ感覚がなく現実に戻る時にも、記憶や感覚がフラッシュバックすることもない。某ボタンとは違うのは5億年もかからず、常に刺激があることだろうか。あと対価が違う。
そんな都市伝説を本気にして、俺と親友の一橋(かずはし)は試すことにした。
一橋は約束のものを持ってきてくれた。
――「ほら、約束のもんだぞ。」
置かれたボタンは何ともいえない地味さがある。全体的に硬い質感で、灰色や黒色、白色で目立つ味気ないものだ。一橋はそれを俺の机に置くと、
――「押していいか?」
と尋ねる。正直、傍から見たらどんな感じかは気になっていた。なので、
――「いいぞ」
的な返事をした。いざ一橋が押すと、なにも影響がなく、心なしか元気そうになっただけだ。傍からみたらボタンを押すと元気になるようだ。
――「お前もやってみろよ。めっちゃ体が軽いぞ。」
と一橋に言われる。妙に引きつけられる感覚に苛まれる。どうしても消えない不安ともはや本能レベル言える好奇心がせめぎ合っている。最終的に好奇心に負けて
――押した。
その瞬間、もはや感じる間もなく暗闇に自由落下した。叫んでも届かない。肩から引き寄せられ、いつの間にか感覚は消えていた。なにがどの存在かも認識できなくなった――。