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「ステラ様、婚約破棄されたんですって~」

「可哀相に。矢っ張り『ゴリラ』だからかしら」


あははは。と楽しそうに笑う令嬢達に囲まれながら、私は苦い紅茶を飲んでいた。どれだけ煮出したのかと言うぐらい、兎に角渋みと匂いのきついお茶だった。よくこれを人前に出せたものだと、目の前に座っている侯爵家の令嬢、ナーダ・グランド令嬢を睨み付ける。彼女は私の睨みなんて怖くないというように顎をあげて見下すように私を見た。

彼女の取り巻き達も、ナーダに合わせるように私を見て嗤っている。


(もう、随分慣れた。面白くもなんともないわね)


同じ手口、同じやり方。もう飽きたと言っても良いくらい、彼女達は私の事を馬鹿にしては笑いものにしている。

私を馬鹿にするだけならまだしも、私が大切にしていたものを貶したり壊したりするのだ。まあ、大切なものなんて身につけることはあんまり無いけれど。それが面白くないのか、私が最低限身に纏っているものに手を出してくる。例えば、ドレス。手が滑ったというわざとらしい理由で紅茶を零すのは序の口。階段から突き落とされそうになったり、転んだ振りをして上から水を掛けられたり、時には直接手を出されることもあった。

幸いなことに、後者は私はノーダメージだが。階段から突き落とされてもバランスを取って着地すれば大丈夫だし、危険を察知して水を避けることも。水に関しては跳ねてドレスが濡れることはあったけれど。

兎に角、私に嫌がらせをしてくるのだ。でも、やり方が毎度同じすぎる。


(ゴリラ神の方が何百倍も賢いわ)


ゴリラ神なら、そもそもこんなこざかしい手を使わなくても、きっとその力で全てをねじ伏せるだろうし。

そんなことを思っていると、「聞いているの!?」と金切り声が耳を貫く。


「聞いてますよ。ナンダー? 令嬢」

「わたくしの名前は、ナンダーではありませんわ! ナーダですわ。この脳筋!」


いつも通りのやり取りをする。私は、もうこのくだらない茶番劇に付き合うことに疲れていた。なので、最近は無視することが多いのだが、それをすると余計に怒らせてしまう。

どうしたらいいのか。


「落ち着いて下さい、ナーダ様。あのゴリラに構っても仕方ないですって」

「そうですよ。ナーダ様の方が賢くて、美しいんですから。きっと、ゴリラの分際で嫉妬してるんですよ」


と、取り巻き達は、ナーダの機嫌を取るように慌てて声を上げた。

それに、気分をよくしたのか「まあ、いいわ」と肩に掛かっていた紫色の髪を払ってナーダは紅茶を一口啜る。本当に単純な人で人生楽しそうだなあとは思った。女性らしくて、たまに羨ましいと思うことはあっても、あんな人にはなりたくないと反面教師にしている部分はある。


(まあ、私のお父様……公爵と、ナーダ令嬢のお父様、侯爵じゃ爵位、権力、財力……全て違うんですけどね)


ナーダの家は、とくに戦争で功績を挙げたわけでも事業で成功したわけでもない。現状に満足しているからか、高みを目指したりもしていないようだった。ただ、何かを虎視眈々と狙っているとは噂に聞く。


(はあ……どうでもいい。早く終わらないかしら……早く帰って、ユーに会いたい……)


と、私は心の中で溜息を吐いて、早く帰りたいと願うばかりだった。

ユーイン様は、ソリス殿下が帰ってくるまで公爵家で預かることになったのだが、何故か私以外には懐かなくて、メイド達が手を焼いているらしい。かといって、一応第二皇子と言うことで邪険に扱うことは出来ず、私がいないとお手上げ状態なのだとか。懐かれるのは嬉しいけど、懐かれる何かがあったのだろうかと不思議に思っている。

ナーダはまた、ぺちゃくちゃと私の悪口を言い始め、取り巻き達はそれに同意するように笑った。

一体いつまで続くのだろう。もうそろそろ、飽きてきて帰ると言い出そうか迷っているとき、ナーダが思い出したようにポンと手を叩いた。


「そうだ。話を戻しましょうか、ステラ嬢」

「いや、貴方とはなすことなんてないんだけど……」

「そう言わずに……フフ、カナール様に婚約破棄されたんですよね」

「さっきも、貴方それ、言いましたよね。何度同じ話するの?」

「実は、私カナール様と婚約関係にあるのよ」


ナーダは悪びれも無く、寧ろ嘲笑うように私を見るとその濃い紫色の瞳をニッと曲げた。


(ああ、だから……)


「勿論、ステラ嬢が婚約していた最中にですわよ。もとから、カナール様は私のことが大好きで、親に言われて仕方なくステラ嬢と付合っていたと言ってましたわ。ステラ嬢は、カナール様に愛されていなかったのですわね。可哀相に。私なら、そんな思いさせませんのに。それに、カナール様はステラ嬢から暴力を振るわれていたとか」


そう言うと、ナーダの取り巻き達は「矢っ張り、ゴリラなのよ」、「野性に返すべきだわ」などとヒソヒソと話していた。面と向かって言えないなんて、それぐらいのちっちゃな器と言うことなのだろう。


(というか、暴力……暴言吐かれていたのは私なんだけど)


どれだけ、暴言を吐かれようが、顔に右ストレートを撃ちたい気持ちをどれだけ我慢したか。彼女たちには分からないだろう。

それに、婚約者を半場寝取った形なのによくもまあそんな堂々と言えると。私は感心してしまっていた。


「どうしたのかしら。悔しいの?」

「いいえ。お似合いだなあと思っただけですよ」

「ゴリラに誉められても嬉しくありませんわ……って、ちょっと何処行くのよ!」

「帰るの。貴方と話していても面白くない。そんな、触れたら折れそうな腕の人と一緒にいたくないのよ」

「普通、女性はそういうものですわ!」

「そういう考え方が、私に合わないと言ってるの」


どうしても、私を引き止めようとするナーダを振り払って私は立ち上がる。庭園を抜ければナーダの屋敷に戻れると歩き出すと、遠くの方から女性の叫び声が聞えた。


(何……!?)


嫌な空気が一気に押し寄せてき、バサバサと木々から黒い烏たちが一斉に飛び上がると、庭園の入り口から大きな黒い大蛇が現われた。シュルシュルと紫色の舌をちらつかせながら、私に向かって鎌首を持ち上げた。


ゴリラ令嬢は小さくなった第二皇子に恋をする

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