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#読み切り
ruruha
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試用時間
残り時間が、
小さく表示されている。
十。
九。
机の前に立ち、
背中を伸ばす。
薄いモカ色のシャツは身体に沿い、
袖は手首で止まっている。
ズボンは擦れて柔らかく、
足元に重さはない。
髪は整えすぎず、
額に自然に落ちている。
触れる。
一気に、
視界が澄む。
言葉が、
迷わず並ぶ。
選ぶ前に、
選ばれている感覚。
呼吸が深くなる。
姿勢が自然に決まる。
考えなくても、
正解に近づいていく。
五。
このままなら、
どこへでも行ける。
何にでもなれる。
そう思った瞬間、
時間が減る。
三。
惜しい、と思う前に、
終わりが近いことを理解している。
一。
消える。
急に、
床の感触が戻る。
肩が少し落ちる。
視線が揺れる。
部屋は変わっていない。
机も、
椅子も、
そのままだ。
ただ、
さっきまであった確信だけが、
きれいに抜け落ちている。
レキシリーダを置く。
手のひらに、
余韻が残る。
一回きり。
それで十分だと、
最初から決まっていた。
億や兆の価値は、
持ち帰れない。
戻った自分の言葉が、
少しだけ重く感じられる。
試した時間は短い。
だが、
戻れない感覚だけは、
はっきり残っていた。