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(高さはあまり、出せそうにないけど……)
「ルーメンさん!」
「エトワール様、とんで下さい!」
風魔法で自分の身体を持ち上げると、其れに応じるように、地面からごごごと音を立てて岩の柱があらわれた。土さえあれば、土魔法は使えると。五属性の魔法は、基本それに関する何かがあれば使えるのだとか。火の魔法とかは違うけど、まあ酸素があれば使えるとか何とか。
それにしても、ルーメンさんのタイミングはさすがだった。風魔法を使わないで置こうと思ったのは、ネズミが息を吐いただけでとばされそうと思ったから。だから、こうして足場を作ってくれるのは嬉しかった。
「って、うじゃうじゃくるし!」
岩の柱に地上にいたネズミたちがドンドンのぼってくる。殺傷能力がそこまでないと言え、この数はやはり嫌だ。私は次の岩の柱に乗り換え、ネズミたちを振り切る。そうして、徐々に親玉のネズミに近付くことが出来た。
見れば見るほど、大きくて、黒いけは針のように逆立っている。あれに刺さったら痛いだろうな、と思いながら、私は光の剣を作くり、何本もの光の槍を生成した。串刺しにすれば問題ないかも知れないと、思ったから。ただ、この攻撃が通るかどうか。
「やるしかないよね、やってみなきゃ分かんないしッ!」
私はルーメンさんに合図を送り、岩の柱から飛び降りた。ネズミの目にめがけて剣を振り下ろす。ネズミは反応したが、立ち上がることは出来ずに私の生成した光の槍に身体を貫かれる。私の剣先は、ネズミの目玉に突き刺さった。
『ぎゃぁいぃぃぃぃぃっぃ』
ネズミは奇声のような叫び声を上げ、その場でのたうち回った。
「やった……?」
「エトワール様、まだです」
「うっそ、やっぱり、攻撃通ってない!?」
ネズミは、叫び声を上げつつ、自身の身体に刺さった槍を全部振り払った。深く刺したはずなのに、光の槍は力なくその場に落ちて消失した。ネズミの目玉もいつの間にか再生し、その身体には傷一つ残っていない。
再生能力があまりにも高すぎる。こんな魔物見たことが無い。
(ううん、ある。ないわけない……見たことある、これって)
「エトワール様?」
「多分、私達だけでどうにか出来る相手じゃないかも」
私は、一度ルーメンさんの元に戻り、このネズミの魔物と戦うのは危険だと彼に伝えることにした。この再生能力と、殺意。私が欲相手にしてきた、あの肉塊と同じ性能をしているのだ。ということは、このネズミはヘウンデウン教が関わっている。ヘウンデウン教が創り出した人工的な魔物だと。
(どういう原理か知らないけど、ネズミが湧いて出てくるようにしてあるのもきっと、人工的な魔物だから……)
二人で相手するにはキツすぎるのだ。また、体内に潜り込んで、内側から核を潰さなければ、この魔物は倒れないだろう。外からの攻撃が効かないのはそれが原因だ。
(またこんな、ものつくって……どれだけ犠牲を払ったのか、分からないじゃない)
この魔物を作るにはかなりの犠牲を要する。だから、大量には作れないし、それだけの犠牲を伴う。勿論、ヘウンデウン教の教徒達が……じゃなくても、奴隷とかそこら辺にいた平民をかっさらってきて、この魔物を作る為の養分にしたとか。それは色々考えられた。けれど、この魔物が、人の命なしでは作れないことを私は知っている。
それを伝えると、ルーメンさんは、自分たちではどうにも出来ないことを悟ったらしく、逃げるという選択肢をとろうか、と私に提案してきた。
その提案は確かに、何だけど逃げたところでどうするのか、という別の問題が生れる。私達を襲ってはきているものの、動かないし、私達の行く手を阻んでいるだけの魔物。この先に出口があるから、そこを塞いでいるんだと思うけど。
「逃げたとして、何処に逃げるの?」
「反対側にも出口があります。地下道の出口は一カ所ではないので。ですが、かなりと奥にあるので」
「それでもいい……でも、問題は」
「あちら側の出口で待ち伏せしている、かも知れませんね」
ルーメンさんは、どうしたものかと頭を悩ましていた。私達とネズミの間に、光の盾を生成したので、小さなネズミはまずはいってこれない。光の縦に当たると、しゅうう……と音を立てて消滅した。やはり、この小さなネズミはそこまで強くないのだろう。
ルーメンさんとどうすればいいか一緒に頭を悩ませたが、反対側の出口にいったところで……というのは最もだった。あのモグラのように、ワープしてくるかも知れないし、反対側にもまた別のネズミがいるかも知れない。そうなると、このネズミを倒して、近い出口に向かう方がいいけれど……
(狙いは私なんだろうけど、だからといって、ルーメンさんに囮になって貰うわけにもいかないし)
この間は、ヒカリやルクス、ルフレがいたからどうにかなった。それに、アルベドが一緒だったから、倒すことが出来たんだと思う。其れができない今、ルーメンさんに外側を任せて、私が内側から攻撃するって言うのはリスクがある。もう一人誰かいればいいのだけど、そんな都合のいいこと起こるはずもない。
「引き返す……でも、地上に戻ったら見つかるかもだし」
「そうですよね……ああ、もう、どうすればいいんだよ」
ルーメンさんは頭を掻きむしって何度も舌打ちをしていた。多分、頭で考えるタイプではないんだろうなって思う。まあ、私も焦っているし同じなんだけど。
やっぱり倒すしか、方法はないのかと。
(でも、浄化魔法って、結局ネズミの中に入らなきゃいけないみたいだし……てか、あのネズミ口小さいから、入るとき、噛み殺されそうで怖いんだよなあ……うーん)
倒し方が分かっているからこそ、どうしようもなさが出てくる。この際、ルーメンさんと一緒に食べられて、倒そうかとも思ったけれど、彼がそれをうん、といってくれるかどうか。
聞いてみなきゃ分からないな、と私は、成功するかも分からないけれど、と前置きをした後ルーメンさんに提案してみた。
「倒し方は分かってるの、だから、あのネズミの中に入る」
「ネズミの中に……って、正気ですか。エトワール様。確かに、方法がそれしかないのかも知れませんけど、戻ってこれなかったら……」
「もう、何度も戻ってきてるしだいじょうぶだって!ほら、私聖女だし」
「そういう問題じゃないんですって。てか、一緒にいくのが、俺なんですよ。大丈夫なんですか」
「自信無いの?」
と、私が聞くと、ルーメンさんは、ぐっとカエルが潰れたような声を出した。それは、どっちの方で捕らえればいいんだと、私が見ているとルーメンさんは、覚悟を決めたように縦に首を振った。
まあ、そんな方法しかないけどどうしますか? とか言われてすぐに頷く人はいないだろうけど。私だって嫌だし。
「わ、分かりました。でも、ほんと足手まといになってもごめんなさいですからね」
「何その言い方。大丈夫。プロに任せなさい」
「プロじゃないでしょ……もう」
ルーメンさんは私を見て、がくりと肩を落とした。ルーメンさんは私が戦っているところをあまり見たことが無いのだろう。だから少し不安なのかも知れないと思ってしまった。
不安なのは私も同じなんだけど。
「でも、まずは口を開かせないといけない、かな。あのネズミ、あまり口を開かないから……もしかしたら、体内に侵入させないためかも知れないけど」
「……それなら、出来ますよ。すぐにでも」
と、ルーメンさんはいうと、大きく息を吐いた後、よし、と一人何かを決めたように、詠唱を唱え始めた。ネズミがそれに機敏に反応し、先ほどまでは大人しかったのに、私達の方に向かって突進してきた。
どうするのかと、ルーメンさんを見ていると、十秒なら、とぼそりと呟いたので、私は彼を信じることにし、その十秒を待った。
ネズミが私達に襲い掛かろうとするなか、ルーメンさんの詠唱が唱え終わり、大きな口を開けたネズミの口の両側をぐいっと泥で出来た手が掴んだ。ぐっと口を強制的に開かされたネズミは、すぐに閉じようと反抗する。私は、いきなり現われた泥の手に驚いてかたまっていると、ふわりと腰を抱かれた。
「十秒っていったじゃないですか。ほら、いくから、捕まってろください」
「う、うん」
ルーメンさんの脇に挟まれ、私は、大きく開いたネズミの口の中を見る。暗くてよく見えない。でも、その中からは、かすかに魔力が漏れ出ていて、その邪悪さに、私は顔をしかめる。私の予想通り、このネズミを倒すには、この中に入るしかないと。
あと五秒ぐらいだろか。ルーメンさんが作った泥の手はだんだんとその輪郭をなくしていく。早くネズミの中に入らないと、と足をじたばたしていれば、ネズミの歯の上に乗っかった、ルーメンさんがつるりと足を滑らせた。
「まっ」
「ちょ!?」
ネズミの舌の上をずり落ち、私達はネズミの真っ暗な体内へと真っ逆さまに落ちていく。だんだんと視界が真っ暗になっていき、私は目を閉じた。