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「せんせ……」
侑がベッドに入ると、瑠衣が抱きついてきた。
まるで怯えた子猫のように身体を小刻みに震わせ、彼は腕を小さな背中に回してそっと摩(さす)る。
「私を置いて、どこかに行っちゃったのかと……」
「瑠衣が無事に見つかった事を報告するために、警察へ電話していたんだ。お前の体調が回復したら、一緒に事情聴取受けて欲しいとの事だ。いいな?」
彼女が無言で肯首しながら、不安そうに顔を見上げる。
「大丈夫だ。俺も行くから安心しろ。ひとまず休むとしよう。俺も眠くなってきた……」
瑠衣を抱きしめたまま横にさせると、二人は泥のように眠った。
大型連休も終わり、侑は立川音大でレッスンが入っていたが、事務局に連絡を入れ、後日、振り替えで対処する旨を伝えた後、瑠衣と一緒に警察署へ出向いた。
今回の事情聴取は、瑠衣に配慮したのか女性の捜査員も同席している。
瑠衣は、拉致された期間中の事や闇バイトの広告の件を訥々と話した。
陵辱された時の事を思い出したのか、時折身体と声を震わせ、顔を歪ませている。
全てを話し終えた瑠衣は、俯きながら声を殺して涙を溢れさせていた。
「…………分かりました。話したくない事まで詳細に話してくれて、ありがとうございます。犯人逮捕のために、我々も全力で捜査に当たらせて頂きます」
女性捜査員が、瑠衣を落ち着かせるように声を掛けた後、侑が徐に口を開いた。
「…………それから先日、電話した時にも話しましたが、ある人物について調べて欲しいのですが……」
侑は、どこか躊躇っているような口調で担当の捜査員に経緯(いきさつ)を話し始めた。
彼はその人物が瑠衣の拉致監禁と輪姦のために闇バイトで実行役を雇い、指示役なのではないか、と考えている。
確証はもちろんない。ただ一つ、それに掲載されていた彼女が唯一撮られた覚えのある写真というのが、彼の中で引っ掛かっているのだ。
捜査員は腕を組み、何も言わず遠い目をしたまま。
痺れを切らしたように、侑が更に言葉を繋げる。
「いくら時間が掛かっても構いません。どうかお願いします……!」
侑が着席のまま、深々と頭を垂れる。
「…………分かりました。何かありましたらご連絡させて頂きます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
侑と瑠衣は捜査員に改めて会釈すると、立ち上がり、警察署を後にした。