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#現代ファンタジー
昨日で冬休みが終わり、ついに新学期がやってきた。
「やけに久し振りに感じるなあ」
登校時に目に入る景色なんて、とっくの昔に見慣れているはずなのに、全てが新鮮に目に映る。まるで、世界の全てを塗り替えられたかのように。
「小出さんに会えるからかな?」
これまで、僕の青春の色はダークブルーだった。でも、小出さんと出逢い、たくさんの思い出を作り、共有し、お付き合いできるようになってから僕の中で色が変わった。スカイブルーに。
「ほんと、今朝は特別に清々しいなあ」
朝の真新しい空気を存分に吸い込みながら、そんなことを思う。そうしている内に、僕は学校に到着した。
* * *
教室に入ると、そこには新年の挨拶を交わし合ってるクラスメイト達の声でいっぱいだった。
それに乗っかるが如く、皆んなに挨拶を済ませた僕である。あんまり友達多くないから数人にだけだけどね。
「そ、園川くんおはよう」
僕が着席するや否や、お隣の席の小出さんが教室に入り朝の挨拶を投げかけてくれた。やってきた。彼女が冷気をまとったダッフルコートを脱ぐと、ふわりと小出さんのいい匂いがした。
「おはよう、小出さん。でも学校来るのいつもより早くない? 最近は夜更かししてないの?」
「ええと……夜更かしはしてるの。でも、少しでも早く、そ、園川くんに会いたくて……。だからちょっと早めに……」
顔を桜色に染めて、自分で言った言葉に恥ずかしくなったのか、小出さんは顔が見えないように机に視線を落とした。
嬉しくて仕方がなかった。小出さんの想いが。僕が彼女の心の中にちゃんと存在してることが。
「ありがとう、小出さん。でも夜更かしはほどほどにね。体壊しちゃったら大変だからね」
「うん、ありがとう。でもね、今夜も夜更かしはする予定なの。今日はずっと楽しみにしてた新刊の発売日だから。さっき途中で駅前の本屋さんで買ってきたんだけど、たぶん今夜は止まらないと思う」
今夜は止まらないとか、なんか青春ドラマのセリフみたい。でも夜更かしはなあ。好きなことに一直線なのはいいんだけど、ほどほどにしてほしいんだけど。
とは言っても無理かな。小出さんはいつまで経っても小出さんだから。
「ちなみに小出さん? なんて本を買ったの? よかったらタイトル教えてよ」
「うん、今日の逸品は──」
ジャカジャカジャン──と。小出さんは自分で効果音を口にしながら鞄から文庫本を取り出した。その効果音、必要?
「えとね。『お誕生日から始まる私のラブコメ』っていうの」
「え? なんかいつも小出さんが読んでるやつよりサッパリしたタイトルだね。それに異世界ものじゃないんだ?」
「う、うん……書き始めた小説、この前は恋愛ものだったんだけど、今回はラブコメを書いてみようと思って。それで、ちょっと参考にもしたかったの」
「ラブコメに挑戦するんだ?」
「そ、そうなの。で、見てこの表紙! すっごく可愛いの! 園川くんのためにあらすじ読んであげる!」
相変わらず、小説のことにはいっそう饒舌になる小出さんから、僕は『お誕生日から始まる私のラブコメ』のあらすじを聞いた。
で、あらすじはこんな感じだった。
この小説の主人公である高校生の女の子は、自分の誕生日に毎年必ず届く、匿名のラブレターに胸をときめかせていた。『貴方が好きです』と書かれた、素っ気ないけど気持ちが込められたラブレターに、誰が私を好きでいてくれてるんだろう──と、胸を膨らませていた。
という感じだった。
「確かに面白そうだし先が気になるね」
「でしょ! 読み終わったら園川くんにも貸してあげるから待っててね!」
小出さんはよほど楽しみなのか、机の上で小説の表紙を眺めながら、『はあ〜』とか『あ〜』とか心の声を漏らしていた。
そういえば──
「ねえ小出さん? もし良かったら教えてほしいんだけど、小出さんのお誕生日っていつなのかな? 聞いたことなかったなあって」
「わ、私の誕生日? んとね、三月三日だよ。桃の節句が、私の生まれた日」
なんて覚えやすいし、それに、小出さんらしいお誕生日だ。だって小出さん、なんとなく雛人形っぽいし。あと、単純に可愛いから。
「じゃあ今年のお誕生日、今から僕が予約しておいていいかな? 小出さんが生まれた日を一緒にお祝いしてあげたくて」
「ふぁ! え? え? い、いいの? 私、家族以外にお誕生日お祝いしてもらったことなくて……な、なんか今から緊張しちゃう……」
そう言ってまたまた顔を赤くしながらも、小出さんは手帳を広げて真っ白なページに何かを書き始めた。サインペンと蛍光ペンまで取り出し、必死に書き書きと。
そして、それを丁寧に破って僕に手渡す。
「ご、ご予約ありがとう、ご、ございます」
真っ赤っかなリンゴバージョンの小出さんが手渡してくれたそれには、『小出千佳お誕生日会チケット』と書かれていた。
「あの、それ持ってて……。三月三日、わ、私の家でお誕生日会してのしい……」
「こ、小出さんのお家でお誕生日会!? ええ!? いいの!? お邪魔しちゃって」
「も、もちろん……。えと、お父さんとお母さんにも園川くんを紹介したいし。だからその引き換え券、なくさないように大切に保管しておいてね」
よく見ると、チケットには『当日有効』と記されていた。やったー! プラチナチケット手に入れちゃったよ!
「て、転売禁止だよ? あとダフ屋に売っちゃやだからね、園川くん?」
これ見せたらビックリするだろうな、ダフ屋さん。『誰の誕生日会だよ!』みたいな感じで。
「しないよ。大切に持っておくからね。三月三日、一緒にお祝いしようね」
僕の言葉を聞いて、小出さんは嬉しそうに微笑んだ。またひとつ、僕は小出さんを知ることができたし、未来の約束もすることができた。
幸せな気持ちでいっぱいだ。
すると今度は小出さん、急にモジモジし始めて、『あー』とか『そのー』とか、なかなか言葉にできない様子を見せた。
「ど、どうしたの小出さん?」
「あー……う、うん。園川くん、今度の日曜日、空いてない、かな?」
「日曜日? うん、空いてるよ?」
「ちょ、ちょっと耳貸して……」
ゴニョゴニョ──と。小出さんは周りの誰にも聞かれないよう、小さな声で内緒話をしてくれた。
その内容とは──
「こ、小出さんが、こ、コスプむぐっ──!!」
言い終える前に、小出さんが僕の口を両手で塞いできた。ちょっと怒ってるのか、プクリと頬を膨らませている。考えてみたらそうだよなあ。他の人に聞かれたくなかったから耳打ちしてきたわけだし。反省しよ。
「な、内緒だからね! 駄目だよ誰かに言ったら! 絶対に他の人に言わないでね! 分かった?」
「う、うん。ごめんね、絶対に言わないからね」
ちなみに。小出さんが耳元で何を言っていたかというと、こんな感じ。
『初めてコスプレイベントに参加するから、一緒について来てほしい』
という内容だった。
「あ、あの……じ、実は私、こ、コス──が好きで。お家でコス──に着替えて鏡の前でポーズ取ったりしてたんだけど、勇気を出してコス──イベントで、コス──をしようと思ったの。……引いた?」
よっぽど不安なのか、小出さんは小さく縮こまってしまい、僕の反応を窺っている。というかさ、『コス』まで言っちゃったら絶対にバレると思うんですが。
でもそうなんだ。小出さんってコスプレが好きだったんだ。かなり意外。
「引かないよ、もちろん。小出さんの趣味だもん。それに小出さんのコス姿、見てみたいな。きっと可愛いんだろうね」
「か、可愛い……くないよ? キャラは可愛いけど。わ、私は別に……。でね。私一人じゃちょっと恥ずかしいから、園川くんも、ぜひ」
……ぜひ?
「えっと、それってもしかして」
「う、うん。……一緒にコスプレ、しよ?」
「ぼ、僕もー!? というか今、はっきりコスプレって言っちゃってるよ小出さん!? ま、まあそれは一度置いておいね。え? 僕もコスプレするの?」
「……やだ?」
そんな澄んだ瞳で『やだ?』って訊かれたら、『やじゃないよ?』としか言えないよ。
よし! 覚悟を決めた!
「うん、分かった! 僕も一緒にコスプレするよ!」
「ほ、本当に? 園川くん、コスプレしてくれるんだね。……声、ちっちゃくてごめんね……あ、ありがとう……」
小出さんは小さな声ながら、喜んでいるのがすぐに分かった。だって僕の返事を聞いた途端、右足と左足でピョコピョコとリズム取ってノリノリなんだもん。
喜んでもらえて、本当によかった。
でも、コスプレって一体何を着ればいいんだろうか。僕、衣装持ってないし。と、そんなことを考えていたら。
「私が揃えておくね。園川くんの衣装」
というわけで。
次の日曜日。僕は小出さんと一緒にコスプレイベントへ行くことになった。
小出さん、何のキャラの衣装を着るんだろう。なんかウキウキしてきたよ。
【続く】
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