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睫毛を小刻みに揺らしながら、ゆっくりと目を開いた瑠衣は、焦点が合わないような目つきで侑を見つめ返す。
「あ……きょ…………きょう……の…………せん……せ……」
「瑠衣!!」
胸の奥がギュッと押し潰されたような痛みと息苦しさを感じ、堪らず彼女の身体を抱きしめた。
「せん……せ……」
「瑠衣。無事で…………良かった……!」
消え入りそうな掠れ声で呟く侑。
再び眠りに堕ちそうな濃茶の瞳が半分閉じられ、薄らと唇が開いた瑠衣が、思いもよらぬ事を彼へ途切れとぎれに告げた。
「せ……んせ……い…………いま……すぐ…………わ……たし……を…………す……てて……」
瑠衣がそう言うと、侑に腑抜けた笑いを薄らと浮かべた。
(今……瑠衣は『先生、今すぐ私を捨てて』と…………言ったのか……?)
「瑠衣! 何をバカな事を言ってる?」
「せん……せ……い…………わた……し……を…………すて……て…………わ……たしを……す……てて……」
うわ言のように、瑠衣は『私を捨てて』と繰り返し、埒が明かないと感じた侑は、彼女を抱きかかえ、一度自宅へ戻った。
***
リビングのソファーに瑠衣を寝かせ、コーヒーを淹れる。
「飲めるか?」
瑠衣が頷き、ぎこちない様子で起き上がるのを、侑が背中を支えた。
小さな手でマグカップを辿々しく包み、彼女が一口飲むと、『…………おい……し……い……』と微かに唇を綻ばせている。
幼さを残したような微笑みに少しは安心したものの、何で瑠衣は侑に『私を捨てて』などと言い出したのかが分からない。
(拉致された一週間…………瑠衣に一体何があったのだろうか?)
侑は少し考えてから、おずおずと瑠衣に問い掛けた。
「…………なぁ瑠衣。なぜ…………『私を捨てて』なんて言うんだ……?」
侑の質問に、瑠衣の表情がみるみる強張り始め、身体中を震わせながら両手で顔を覆っている。
「いや…………いやぁぁっ……!! だから……せんせ…………私……を…………捨ててよぉっ!!」
「瑠衣!」
彼女を落ち着かせようと瑠衣を抱きしめた瞬間、細い身体を硬直させている事に気付いた侑。
「言いたくないかもしれないが……俺は…………瑠衣にそう言わせる原因を……知りたいんだ……」
「言ったら…………先生に……絶対…………捨てられる。だから……先生に捨てられる前に…………私から言う……! せんせ…………私を……捨ててっ!」