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翌日。
その日から、鈴谷は薬物をやめるための生活を始めることにした。
妖精さんから解毒剤をもらい続け、体の調子は反町に見てもらった。
そして、熊野のことを思い出してしまったときは……周りの仲間たちのことを考えた。
他の艦娘達も、自分みたいにつらい日々をおくっている。一人だけじゃない。そして、裏神達が来たことにより周りはもっとにぎやかになった。
彼女は、決して一人じゃなかった。
ある日。
克服生活を始めてからかなりの日が経過していた。鈴谷は薬物への欲を抑え、毎日を生活していた………が。
「うぅ……なんか気持ち悪るい」
人にも、艦娘にも、欲を抑えるのは限界が来る。鈴谷は思わず棚を開ける。だが、そこには解毒剤があるだけだった。
(限界……来たか)
「でも……ここまで来てまた摂取するわけには……」
「つらそうやな、鈴谷」
いつの間にか、彼女の後ろに鳳崎がいた。彼は、驚く鈴谷の手を掴み何かを握らせた。それは、ソフトクリーム屋の割引クーポンだった。
「ちょうど2枚あるねん。今日深瀬が腹壊してな、連れの相手探しとったんや」
そして彼が見せたのは、輝きを放つような笑顔だった。
「一緒にいかへんか? 気分転換でな」
その店は、鳳崎と深瀬がこの世界ではじめて外食をした場所だという。クーポンは初来店の者には必ず配られるらしく、この2枚もその時にもらったそうだ。
「ここや。キッチンカーでやっとんやで」
二人は店へと近づく。影から店員が現れ、二人にメニュー表を渡す。
「どれがええ? 俺はバニラやな」
「じゃあ……私はストロベリーで」
メニューを聞いた店員が、手際よくクリームをうずまきにしていく。あっという間に、ふたり分のソフトクリームが出来上がった。
「700円となります」
「このクーポン使わせてな」
支払いが終わり、二人は近くにあったベンチに座った。そして早速、鳳崎がバニラにかぶりつく。
「うっはぁぁ!! まじでうめぇぇ!」
普通に見たらオーバーなリアクション。しかし、彼の顔は完全に幸福顔だ。
そんなにか、と鈴谷もストロベリーソフトにかぶりつく。
次の瞬間、彼女に飛び込んできたのはとんでもない幸福感。
「な、何これ!?」
今まで摂取してきた薬物を超える高揚感に、彼女は驚愕した。だが、この食べ物は薬物などではない。純粋なソフトクリームだ。
「美味しい……幸せかも…」
その言葉を聞いた鳳崎が、ニヤリと笑った。
「見つけれたやろ、ヤクより幸せになれるやつ」
「……うん!」
「あぁ、美味しかった」
二人はあっという間にソフトクリームを平らげた。
「あ、鈴谷すまん。トイレ行ってくるわ」
申し訳なさそうにしながら、鳳崎が公衆トイレへ駆け込んでいった。
この鈴谷が一人になったときに、事件が起こった。
「おい、艦娘」
彼女が振り向くと、そこにはガラの悪そうな男が立っていた。彼女は、その顔を知っていた。
「……ここは公園。話は場所を変えてからね」
そして、裏路地に移動した。男がポケットから紙を取り出す。
「契約したよなぁ? ヤクを低価格で売ってやるから、定期的に買うって。最近買ってないじゃねぇか」
そう、この男は鈴谷に薬物を売りつけた半グレだったのだ。男からは少し殺気が出ていた。前の鈴谷なら、怯えて再購入しただろう。だが、今は違う。彼女には薬物より大切な物がある。
「そんな契約、チャラよ。もう私はそんなバカみたいな物に頼らないからね」
強く、はっきりとした声だった。
男は舌打ちをしたあと、何かを取り出した。
それは、鋭く尖ったナイフ。
「じゃあ……○んでもらおうか」
鈴谷は息を呑む。彼女は刃物に対抗する策を持っていない。男はナイフを突き出して歩いてくる。
恐怖で足が動かない。
「うぅ……」
そして、男がナイフを振り上げる!
鈴谷は思わず目を閉じる……が、いつまで立っても痛みが襲ってこない。
「……え?」
目を開けた彼女が見たのは、眉間にナイフが刺さった男の姿だった。
「が……ペ…」
男が倒れる。ほぼ即○だったのだ。
「いやあ、危ないとこやったなぁ」
男を屠ったのは、鳳崎だった。
「ほ、鳳崎さん…!」
「心配したやんか鈴谷ぁ。トイレからもどったらどこにもおらんのんやもん」
鈴谷は彼にすがりつく。しかし、彼の目は鋭いままだ。
「まだ安心できへんで。もう一人おるんやろ!」
彼は路地の奥に向かって叫ぶ。すると、影から一人の男が現れた。サングラスをかけた赤髪の男だった。
「よく気づいたな……方言ヤロウ」
そして、彼は二人の前に立つ。
「俺の名は備瀬太一。今お前が○した奴の上司みたいなもんだ」
「自己紹介とは礼儀正しい奴やな。俺は鳳崎桔平や」
すると、備瀬が懐から武器を取り出す。殴打用の黒い武器「ブラックジャック」だ。
「それじゃ鳳崎さん……遺言を聞こうか。俺らに手を出した奴は、タヒぬ事になっていてな」
その武器と彼の殺気に気づいた鳳崎。その顔は、とても喜んでいるようだった。
「戦闘か! 楽しみや! お互い悔いのないバトルにしようや」
そして、彼は笑いながら備瀬に突っ込む!
「むぅ! 速い!」
だが、備瀬も一流の戦闘者である。真っ直ぐ進んでくる鳳崎の頭めがけてブラックジャックを振り下ろす!
「うおっ、危なァァ!」
鳳崎は腕を滑り込ませる。
大きな音を立てて、ブラックジャックと腕がぶつかる。
彼の腕を途轍もないしびれが襲う。だが、それだけでは鳳崎は止まらない!
「痛いなぁ! しびれてもうたやないかぁ!」
そのまま備瀬の腹に蹴りを入れる。
「がぼぉ!?」
それだけで備瀬は吹き飛んだ。そして壁にぶつかる。
しかし、彼はものの数秒で起き上がった。勢いよく激突したことにより、血まみれとなっていたが。
「やるじゃねえか……真正面からやったら勝てる気しないぜ……」
その時、彼が驚きの行動に出る。
「おるぁ!」
なんと、武器のブラックジャックを二人に向かって投げつけたのだ。
「なんやそれ、当たらんわ」
鳳崎は余裕を持って避けようとする。
だが……ブラックジャックが眩い光を放った。
「……あかん! 鈴谷ぁ!」
彼は鈴谷を路地の外へ押し出す。
次の瞬間、轟音を立てブラックジャックが大爆発を起こした!
ドゴォォォン!!
「きゃあああ!」
鈴谷は爆風により吹き飛ぶ。
「うぅ……鳳崎さん……」
彼女が顔を上げると、路地には煙が漂っていた。そして、そこから出てくる一つの影があった。
それは……備瀬だった。
「へえ、艦娘は逃したか。あの男、よくやる」
「え……うそ……」
そして、彼は鈴谷の方に向かってくる。その手には、ナイフ。
「あとはお前だけだ」
鈴谷が絶望した……その時だった。
「おいおい、俺はまだ死んどらんぞ」
後ろから、声が響いた。
「なっ、まさか!」
振り向く備瀬。そこには、爆傷を負った鳳崎の姿があった。
「この程度の爆発で……この鳳崎を倒せるわけあらへんやろ」
そして彼の手にも、ナイフ。
「ほんまは八極拳食らわせたろう思うたけど、女にナイフ振り上げる奴はナイフで終わらせたるわ」
次の瞬間、もう彼は備瀬の懐を侵略していた。
そしてついに……
「ゲスの腹パッカァァァァン!!」
「ぐふべあぁぉぉぁぁぁぁぁ!!」
備瀬は腹から血を撒き散らし倒れた。
「ゲスにお似合いの最期や」
しかし、まだ彼は生きていた。
「はは……やってしまったな。お前ら、刃雲怒(ハウンド)を敵に回したな……もうお前らは破滅の道しかないぜ……」
そう言い残すと、彼は完全に動かなくなった。
「刃雲怒……こいつらの組織か」
そこへ、鈴谷がよってきた。
「鳳崎さん……鳳崎さん! ほんとに良かった……! 生きてて良かった!」
彼女の目からは、大粒の涙がこぼれていた。
「泣いてんとちゃうぞ。きれいな顔が台無しや」
そして、二人は笑いあった。
鈴谷の心に、完全な明かりが灯った瞬間だった。
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