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桜城
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第二章
第九話 帰る場所
翌朝。
サフィアンは制服へ着替えながら大きく欠伸をした。
「眠っ……」
昨夜は旅のことばかり考えてしまい、なかなか寝付けなかった。
窓の外では青空が広がっている。
ーー絶好のサボり日和だなぁ。
そんなことを考えながら階段を降りる。
「サフィアン」
朝食の席で父に名前を呼ばれる。
「学校をサボるなよ」
「なんで分かったの!?」
思わず立ち上がる。
コバルトは紅茶を飲みながら平然と言った。
「顔に書いてある」
「書いてません!」
向かいではアズールが吹き出してる。
「書いてあるわよ」
「姉ちゃんまで!」
賑やかな朝だった。
ラディスの学校は街の中心部に建っている。
貴族。
役人。
裕福な商人の子供達。
将来ラディスを支える若者達が学ぶ場所だ。
サフィアンにもそれなりに友人はいる。
だが、苦手な連中もいた。
「おい、サフィアン」
教室へ入り席へ着いたところで声が掛かる。
聞き慣れた声だった。
サフィアンは露骨に顔をしかめる。
「……何だ」
振り返る。
そこにはジャンが立っていた。
明るい緑色の髪。
同じ色の瞳。
東門近くに屋敷を構える貴族家門の息子だ。
そして幼い頃からの因縁の相手でもある。
「今日はちゃんと授業受けるのかよ?」
ジャンがニヤニヤ笑う。
「どうせまた抜け出すんだろ?」
「別にいいだろ」
「黒髪んとこ行くんだ?」
サフィアンの表情が消えた。
「……」
「おまえらマジで仲良しだなぁ」
わざとらしい笑み。
昔から変わらない。
ジオをからかい、石を投げ、不吉だと言って笑っていた。
その度にサフィアンは殴りかかった。
一度や二度ではない。
教師室へ連行された回数なら数え切れない。
ジャンは知らない。
ジオがどれだけ優しいか。
どれだけ努力しているか。
何も知らない。
「……お前に関係ないだろ」
低い声で言い返したところで鐘が鳴った。
教師が教室へ入ってくる。
ジャンは肩をすくめながら席へ戻っていった。
「はぁぁぁ……」
午前最後の授業が終わる。
サフィアンは机へ突っ伏した。
「無理だ……」
隣の友人が笑う。
「まだ午前だぞ」
「剣術や体術なら頑張れるんだけどなぁ……」
数学。
歴史。
政治。
嫌いではない。
嫌いではないのだが。
じっと座っているのが苦手だった。
窓の外を見る。
青空。
風。
外へ行きたい。
その時だった。
「サフィアン君!」
数人の女子生徒がやってくる。
皆少し顔が赤い。
「今日お昼一緒に食べない?」
「また外行くの?」
「たまには付き合ってよ」
サフィアンは苦笑する。
「あー、ごめん」
「今日も用事あるんだ」
「えぇー!」
不満そうな声が上がる。
「また今度な!」
手を振る。
女子達は残念そうに教室を出て行った。
それを見送って。
サフィアンは小さく息を吐く。
「さて」
立ち上がる。
「昼休みだ!」
馬を走らせる。
向かう先は決まっている。
途中いつものパン屋へ寄るのも忘れない。
「あらサフィアン君!」
おばさんが笑う。
「今日も薬屋かい?」
「うん!」
「若いねぇ〜」
「何が?」
意味深に笑われた。
なんか納得いかない。
ーーカランカラン。
薬屋の扉を開く。
「こんにちはー!」
「おや」
マーサが振り返った。
「また来たのかい」
「またとは何だよ」
「昨日も来たろう」
「昨日は別件!」
マーサが笑う。
その笑い声を聞くだけで少し安心する。
「今から昼飯」
「一緒に食べてきな」
「いいの!?パンも買ってきた!」
奥から足音が聞こえる。
「サフィアン?」
ジオだった。
皿を運びながら首を傾げる。
「学校は?」
「昼休みやから抜けてきた」
「また?」
呆れたような顔。
けれど少し笑っている。
それを見るだけで嬉しくなる。
昼食はいつも通りだった。
温かいスープ。
焼きたてのパン。
採れたての野菜。
豪華ではない。
けれど美味しい。
「今日さ、ジャンがまた絡んできてさ」
「ああ……」
ジオが苦笑する。
「相変わらずだね」
「ほんと嫌なやつだ」
「サフィもすぐケンカしないでよ」
「だってあいつお前のこと言うしさ!」
ジオが少し困ったように笑う。
マーサは微笑んでいた。
何気ない会話。
何気ない時間。
でも、サフィアンは思う。
やっぱりここが好きだ。
学校より。
屋敷より。
ここにいる時が一番落ち着く。
気付けば昼休みは終わりに近付いていた。
「そろそろ戻らないと……」
立ち上がる。
「また来るからな」
「うん」
ジオが頷く。
「ちゃんと勉強してきなよ」
「それは保証できない」
「サフィ」
「冗談だって!」
笑い声が響く。
サフィアンは馬へ飛び乗った。
手綱を握る。
振り返る。
薬屋の前でジオが手を振っている。
マーサもいる。
「行ってきます!」
馬が走り出す。
風が頬を撫でる。
学校は面倒だ。
勉強も苦手だ。
でも、あと少し頑張ればいい。
その先には。
ジオとの旅が待っているのだから。
サフィアンの青い瞳は、これから始まる未来へ向けて、キラキラと輝いていた。
コメント
1件
読み終わりました〜!サフィアンが学校の昼休みにジオのもとへ駆けつける姿、すごく眩しかったです☺️「やっぱりここが好きだ」って心の中で思うあたり、彼にとっての本当の“帰る場所”がちゃんとここなんだなって伝わってきてじんわりしました。ジャンの嫌がらせにも負けず、パン屋のおばさんやマーサとも自然に交流してるのも素敵。最後の「行ってきます!」で未来へ目を輝かせる青い瞳、その先にある旅が待ち遠しくなるエピソードでした🌷