実習棟の隅にある男子トイレに連れ込まれ、洋式トイレのある個室に入る。蓋が閉まっているのを確認して俺をそこへ下ろし、琉成が扉を背に立って、後ろ手に鍵を閉めた。
ガシャンッ——
いつもなら何とも思わない鍵のかかる音が耳奥でやけに響く。頰を染めて、ニッと嬉しそうに笑う琉成の場違いな顔のせいで背筋が凍った。
「やっとだ……一年の頃からずっと、『圭吾ってなんか美味しそうだな』って思ってたんだよね」
学ランのホックやボタンを、上から順に外されていく。バクンバクンと心臓が大騒ぎし、「止めろって、食うとか……んな事捕まるぞ?」と震える声で言いながら、琉成の胸をグッと押した。
「平気だよ、圭吾優しいし。それに、なんだかんだ言って俺の事嫌じゃないだろ?」
そりゃまぁ否定はしないが、『食われてもいいと思う程ではないぞ?』と、言いたいのに言えない。んな発言をしたら『煩い』って首を絞められるかもなんて、最悪な事ばかり考えてしまう。
上半身の前が全てはだけ、青白い肌が薄暗い個室の中で露わになる。俺の薄っぺらい胸に琉成がそっと触れ、恍惚に染まった顔をした。
「薄い胸に細い腰……乳首なんか冷たい空気のせいかツンって膨らんでいて、可愛いなぁ」
便器の蓋の上に座る俺の前にしゃがみ、琉成が肌を撫でてくる。吟味するみたいな視線が肌に刺さり、頰が引きつった。
「あぁ……いい匂いまでする」
胸に頬ずりをされ、匂いを嗅がれる。
「な、何してんだお前」
やっと出た声は震えていて、情けない顔しか出来ない。
「しおらしい圭吾も可愛いな」と、言うが同時に胸の尖りをペロッと舐められ、体が跳ねた。
(——んな⁈何してんだコイツ!)
「そんなとこ、何で——んあっ!」
ガブッと右胸の先を噛まれ、敏感な箇所なせいで声を抑える事が出来なかった。
「あ、やっ……こわ……やめ……」
肩に手を置き、押しながら必死に訴える。だが俺の訴えは虚しくスルーされ、琉成は甘噛みをしたり吸ったりとを執拗に繰り返す。左胸の肌をさすっていた手が明確な意図を持って尖りに触れ、引っ張り、揉んだりもし始めた。
「や!んあっ何でこ…… んんっ」
しつこく胸を弄られ、琉成の意図が益々わからなくなっていく。腹の奥で変に疼きを感じ、俺は慌てて「は、離せって!」と叫んだ。
「嫌だ。今日はもう喰べるって決めたしね。こんなご馳走を前にして、喰べないとかあり得ないよ」
ガブッと肌に噛み付かれ、歯型がうっすらと残る。血が出るまででは無かったが俺の心をへし折るには十分な力だった。
(抵抗したら本気で食われる……じっとしていないと)
無抵抗になろうが食われるのかもしれないが、痛くされるよりはマシだと考えてしまう。
「あぁ……最高だね、この感触」
かぷり、かぷりと俺の肌を噛みつつ、下の方へ琉成がさがっていく。
「やめ、ダメだって、ソコは——」
「んー?ダメって、もしかしてコレのせい?」
学ランのズボン越しに、一番他人に触れられたくない箇所をつつかれて、青かった俺の顔が一気に真っ赤に染まった。
「触んな!関係無いだろ?んなとこは」
必死の形相で言ったが、琉成相手では暖簾に腕押しで終わった。ベルトを外され、ボタン、ファスナーとを次々に下げられる。制服のズボンは穿いたまま、ボクサーパンツだけ下げられて、食われかねない追い詰められた今の状況下には絶対に存在してはいけないモノが琉成の前に露わになった。
見られた恥ずかしさから、俺は赤かったり青かったりとを繰り返す顔を腕で覆って隠した。見えなくなったからってその事実が消える訳じゃ無いのに、今は現実を見たくない。
琉成からの罵りが耳に届くのを逃げたい気持ちいっぱいのまま待っていると、俺にとっては予想外の言葉を奴が発した。
「胸とか噛まれたの、気持ち良かったんだね。絶対俺達相性いいよ!」
嬉しそうな声色が聞こえ、琉成がどんな顔でそんな発言をしたのか気になり、俺はそっと目元を隠していた腕を避けた。
その事に気が付いていたのか、俺の勃起したモノを前にした琉成と目が合ってしまった。恥ずかしくってもうマジで死にたい……いっそもう早く食い殺して欲しい。痛いのは嫌なので、出来れば一瞬で。
琉成が何をする気でいるのかが心配で目を逸らす事も出来ないでいると、奴が大きな口を開けたので全身がビクッと恐怖に震えた。
(まさか、そんな箇所から食い始めるとか、お前は鬼か⁉︎)
「ひっ!」
俺が短い悲鳴をあげたが同時に、陰茎の切っ先が生温かくって何やらぬるっとしたものに包まれて俺は目を見開いた。
「……え?……ぁっ」
予想外の動きに腰が浮く。嬌声が出そうなくらいに、陰茎を咥えた琉成の動きが淫猥だ。
(待って、食うんじゃなかったのか?)
舌で裏筋を舐められ、切っ先から漏れ出る先走りの蜜を流成が美味しい飴でも食べる時みたいな嬉しそうな顔で舐め取っていく。量に不満でもあるのか、中から吸い出したいみたいに先っちょを吸われ、「くぁっ……んんっ、ソレら、めぇろって」と、呂律の回っていない声が出た。
力無く、琉成の頭を押して抵抗を試みるが、逆に根元まで口内に含まれてしまい腰を振りたくなるくらいに気持ちがいい。
(これって、まさか……フェラとかってやつじゃないのか?)
確かめたいけど、不覚にも自分から出る声は全て喘ぎ声になってしまう。 くぷっ、ぬぷっと水音をたてながら琉成が頭を動かす。根元の方もキュッと握り、上下にしごかれてしまい、思いもよらぬ快楽のせいで、つい痴態にふけってしまった。
(ナニコレ。知らない、こんなの)
頭ん中が真っ白になり、『キモチイイ』くらいしか考えられなくなっていく。自慰だって体調に不備が出ない限りほとんどしないせいか、脳髄に響く快楽に抗えない。
「あ、や、も……い……」
此処は学校のトイレだっていうのに、声が抑えられない。もう果ててしまいそうだ。
「はなし……て、出ちゃ、う、やめ——あぁぁぁぁ!」
琉成の動きが少し早くなっただけで、一気に追い立てられてしまった。ぐんっと陰茎が膨らみ、白濁液を琉成の口内へと容赦無く吐き出す。もう随分長いこと自分でもしていなかったせいでかなり溜まっていたのか、悲しいかな射精がなかなか止まらない。
「ど、どうしよ、とまんなっ」
恥ずかしさで一杯で今にも顔から火が出そうだ。
「…… 」
一段落し、ずるりと琉成の口から陰茎が抜け出て、果てたモノが力無く二人の目の前に晒された。
終わった……色々なものが自分の中で砕け散り、俯きながらこのまま死んで消える事だけを願ってしまう。なのに、琉成の方からは『ごくんっ』と精液なんぞを飲み込む音が聞こえ、俺は慌てて奴の顔を見た。
受け取るみたいに掌を上にし、琉成の口の前に差し出す。だけど琉成は「……あぁ、美味しいぃ」と呟きながら、淫猥な瞳をこちらへ向けた。
(お前は味覚音痴なのか?んなモン美味いわけねぇだろ……)
賢者タイムのおかげか、少し冷静に現状を見る事が出来た。
「飲むとか……お前……」
「何で?圭吾のくれたものだよ?圭吾がくれるモノは、全部美味しいよ。全部ちょうだい、圭吾の全てが欲しいな。こうやって、喰べちゃいたいくらいに好きぃ」
「…… ん?『こうやって、たべる?』」
(カ、カニバリズムじゃなかったのか!)
——って、冷静に考えりゃぁこっちしかありませんよね。それこそホラー映画じゃないんだし、本気で親友に食われるかもと思った自分の顔を真正面から強く握った拳でぶん殴りたい。
スッと冷めた目で奴を見ると、大きな体をぶるっと震わせ、琉成が俺の腰に抱きついてきた。
「あぁ!圭吾のモノを食べるたんびに勃起しちゃいそうになるくらいに興奮して、いっつも教室であろうが興奮してたんだよね。最初自分でもその事に気が付かんくってさ、圭吾がパンを咥えたり、ストローをかじったり、指についたソースとか舐め取るとこ見てて、徐々に『美味しそうだな』『いっそ圭吾を喰べちゃったら性欲が満たされるかも』って、ソレばっか考えるようになったんだ。今だって、ほら——」
ひどく興奮した表情で、琉成がその場で立ち上がる。制服の上着を引っ張り上げ、股間の盛り上がった様を眼前に見せつけられた。
疑いようもなく勃起しているのが布越しでもありありとわかる。通常時を風呂場で見た事があったが、それでも『うわぁ、何コイツの。ムカつくわ、シネばいいのに』と常々思っていた。……膨張したソレは、自尊心を木っ端微塵に砕かれそうなので正直見たくない。
「圭吾を喰べちゃいたいし、喰べられたい。圭吾の触ったモノは全部欲しい、全部に触られたい、いっそコレを圭吾に挿れてしまいたいし、挿れられもしたいっ」
(コイツの性癖歪んでる!)
エロ本の貸し借りとかはした事が無かったので全く知らんかった。まぁそもそも持ってないんですけどね、俺は相当そういった面に淡白な方なんで。
(ってか、挿れるとか挿れたいとか、男同士でどうしろと?)
頭ん中がショート寸前で、目眩がしてきた。
「触って欲しい、一緒にイキたい、もっと欲しい、圭吾、圭吾——」
興奮が抑えきれない琉成が、ズボンの前をはだけさせ、立派過ぎる陰茎を俺の目の前に晒す。赤黒いソレはギンギンに滾っていて、同じ雄のイチモツだと瞬時に受け止められなかった。身長差だけでは片付かぬ差に男としてのプライドがズタズタに傷付く。
萎えていたモノを再度掴まれ、ゾッとした。
「な、何をしてんだ?」
「手で触るのは嫌そうだから、コッチで触ってもらおうかと思って」
俺のモノに自らの陰茎を擦り付け、まとめて掴む。大きな手のひらで擦られると、意に反して硬さを持ち始めてしまい、俺は口元を戦慄かせた。
「圭吾の体って正直ー。やり慣れてないから、かえって快楽に弱いのかもね」
「何で知って……」
「匂いでわかるよー。圭吾ってたまにしかそういった匂いしてないから、『残念だなぁもっとしたらいいのに』って思ってたんだよね。でもまぁ、これからは毎日だって俺が喰べるから、自分では余計にしなくなりそうだね」
人懐っこい笑顔でとんでもない事を言われた。琉成にとっては確定した未来っぽいが、約束なんかしていないぞ。
「キスしたいな、いいよね?」
答えを待つ事なく、唇の隙間を琉成の舌が割って入ってくる。狭い空間の中、便器の蓋に体を押し付けられながらキスとか……誰か嘘だと言ってくれ。
互いの陰茎から溢れる蜜のせいか、下腹部からぐちゅぐちゅと卑猥な音がたち始めた。
こんな状況から逃げたい、夢であって欲しい
——快楽の沼地にズルズルの引き込まれながら、俺はそんな事しか考えられなかった。