テラーノベル
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由恵は独身の頃から住んでいる実家近くのアパートで暮らしているけれど、八畳の洋室とキッチン、ユニットバスの間取りで、親子で生活するのはかなり狭い。
樹里が生まれたのをきっかけに、広い間取りの部屋に引越しする事も検討した。
でも立川は家賃が高いため、仕方なく今の部屋に住み続けている。
「ママ〜! おなかすいちゃったよぉ〜」
「あっ……ああ、ごめんね樹里。もうちょっと待っててね」
「うんっ」
鈴の鳴るような樹里の声で、由恵は弾かれたように我に返ると、慌てて夕食の準備を再開させた。
今夜の夕食はオムライスと、具沢山の野菜スープ。
ご飯を作りながらも、時折、樹里の様子をチラリと伺うと、音楽が流れるお気に入りの絵本を開いて遊んでいる。
由恵は手早く夕食を作り、食事をしながら、保育園での話に耳を傾けた。
日毎におしゃべりが上手になっていく樹里が、母の由恵にたくさん話し掛けてくる姿は愛くるしい。
夕食を終えると、樹里をシャワーに入れた後、絵本の読み聞かせをしながら寝かし付ける。
小さな寝息が微かに聞こえてくると、由恵は部屋の明かりを落としながらフゥッと安堵のため息を零し、ようやく自分の時間を確保できた。
慌ただしい一日の終わりに、シャワーを浴びながら考えるのは、由恵自身が想像する、『一ヶ月前の再会の時、男が私の名を呼んで振り返っていれば、違う道が開けたのだろうか?』『男が妻と離婚し、私の夫になっていたら、家族三人で幸せに過ごせたのだろうか?』という二つの不透明な道。
漠然と考えながらも、彼女は小さくかぶりを振る。
当然の事ながら、由恵は、夏樹の現状を全く知らない。
仮に男が妻と離婚していたとして、由恵と新たな人生を歩んでも、恐らく彼女の知らない所で女遊びをするだろう。
三年前、一夜だけの関係を持った時も、夏樹は既婚者だったし、男の振る舞いは、過去にも多くの女たちと関係を持ってきたと思われ、女遊びを簡単に止められるとは考えにくい。
それに、由恵と樹里、夏樹の三人で暮らしている様子が、まるで想像がつかないし、女好きの夏樹が、実の娘である樹里を可愛がるとは思えなかった。
(考えるだけ無駄ってやつ……)
由恵は蛇口を回すと、勢い良く降り注ぐ水の粒子を浴びた。
父親は当然いた方がいいと思うし、樹里には、たくさん寂しい思いをさせているのも、由恵は痛いほど分かっている。
分かってはいるけれど……。
由恵が抱いていた二つの『たられば』の答えが、後に彼女の予想もしなかった所で得る事となる。
***
コメント
1件
管野アリオさんの『あなたが夫だったら(2)』読了したわ! 由恵さんの日常が丁寧に描かれていて、特に樹里ちゃんとの夕食〜寝かしつけのシーンがなんかもう…ぎゅっとなる。シングルマザーとしてのリアルな忙しなさと、それでも娘への愛情がひしひしと伝わってきた。 そしてシャワー中の「たられば」の思考、すごくわかる…。あの時振り返ってくれてたら、なんて誰しも考えるよね。でも由恵さん自身が冷静に「夏樹じゃ無理だ」って自己完結してるところに彼女の強さと諦めが同居してて切なかった。「たられば」の答えがどう明かされるのか、続きが気になる!
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