テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌日。
由恵は、いつも通り、立川の百貨店内にあるアパレルブランド『Hearty Beauty(ハーティ ビューティ)』の店頭に立っていた。
秋物の服を店内にディスプレイしながら接客も熟し、営業用の笑顔の仮面を貼り付ける。
仕事も落ち着き、午後の十五分休憩に入ろうとした時だった。
「さっきからさ、こっちをじっと見てる…………男の人がいるのよね……」
女性の店長が困惑気味な面持ちで、由恵にボソッと溢す。
「え? どこですか?」
「店のすぐ近くのエスカレーター。柱があるでしょ? そこの物陰に……」
「…………っ……」
眼差しだけエスカレーターに向ける店長に、由恵も何気なく視線を追う。
(……うっ…………嘘……でしょ……!?)
人影の正体が判明した瞬間、彼女はハッとして息を呑み込んだ。
「近頃、物騒な事件とか多いし、村下さんも気を付けてね。まして、あなたには可愛い娘さんがいるんだし……」
「ホントそうですよね。気を付けます。じゃあ……お先に休憩頂きますね」
再度エスカレーターに視線を飛ばした由恵だったけど、既に人のいた形跡は消えている。
どこか安堵のため息を微かに漏らすと、彼女は念のため周囲を警戒しながら、従業員の休憩室に足を運んだ。
(夏樹……さん……)
紙カップに入ったコーヒーを口に含ませながら、由恵は表情を微かに顰めた。
短めの髪をオールバックにさせ、歳とともに少し角が取れた強面の顔立ちと、猛禽類 を思わせる鋭い視線は、間違うはずがない。
由恵が以前好きだった男でもあり、樹里の実の父親でもある橋本夏樹だ。
彼女は男と身体の関係を持ったのは、三年前の蜜事だけではない。
由恵が二十二歳の時にも、夏樹と男女の関係になっている。
元々知り合ったのは、男が勤務する自動車教習所に、由恵は教習生として通学したのがきっかけだ。
夏樹の教習車には六回乗車した事があり、雑談で由恵の仕事の話や、恋愛などプライベートな話をする時もあった。
教習所を卒業後、偶然を装って再会してから三度目の逢瀬で、男と身体を重ねた彼女。
けれどそれは、もう十年以上前の事であり、当時の由恵は別の店舗に配属され、立川店に異動になったのは、都下一号店として新規オープンした二〇二五年の四月である。
(私がここで仕事をしているのを…………どうやって知ったの?)
両腕にゾワリと悪寒を感じつつ、由恵は残りのコーヒーを飲み干すと、店に戻っていった。
#魔法
しろのね
596
陽瀬 柚夏
1,173
管野アリオ
206
藍 羅 . 🎧🌿
2,795
コメント
3件
おお、第3話読んだわ。由恵の過去が一気に重くなったな…。夏樹が職場に現れたシーン、ゾワッとした緊張感がめっちゃ伝わってきた。あの「柱の物陰から見てる」描写が不気味で、読んでるこっちまで警戒しちゃう。由恵の動揺と、正樹との関係の裏にある過去の重みがじわじわ効いてくる展開だわ。次どうなるか気になりすぎる🔥