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翌日外科病棟へ出勤した瑠璃子は、自分が担当する患者のほとんどが大輔の患者だという事がわかる。
以前玉木が言っていたように新人ナースを大輔の担当にすると辞めてしまう危険性がある。
それを避ける為にも大輔の扱いに慣れた瑠璃子をあえて担当に持って来たのだろう。
もちろん瑠璃子は全然問題なかった。医師としての大輔を尊敬しているし彼とは食堂でもお喋りをする仲だ。
それに大輔の担当になれば彼の医局へ行くチャンスも訪れるかもしれない。だからむしろ瑠璃子にとっては大歓迎だった。
そして朝の病棟回診の時刻になった。
外科の医師達がナースステーションへ来ると瑠璃子は大輔に挨拶をした。
「今日から私が担当になります。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。では早速行きましょうか」
二人は廊下を歩いて行く。そして廊下の角を曲がった所で大輔が瑠璃子に言った。
「急な異動で大変だったね。わからない事があれば遠慮なく聞いて下さい」
「ありがとうございます」
瑠璃子は大輔の心遣いに感謝する。しかし今は仕事中なので無駄な私語は慎んだ。
そして二人は病棟回診を始める。
最初に入った病室には先週胸部大動脈瘤の人工血管置換術をした長田(おさだ)という60代の男性患者がいた。
「長田さん、具合はいかがですか?」
「先生おはようございます。いやぁ気分爽快ですよ。先生に手術してもらったからあと100年は生きられそうです」
長田は嬉しそうに笑う。
「100年だと僕の方が先に天国に行っちゃうなぁ」
聴診器を当てながら大輔がそんな事を言ったので瑠璃子は思わずフフッと笑う。
そこで大輔は瑠璃子の手元にあるパソコンのデータを覗き込む。
「血圧も安定していますね。食欲はどうですか?」
「食欲はもうすっかり戻りましたよ」
そこで長田が瑠璃子の方をチラッと見てから大輔に聞いた。
「新しい看護師さんですか?」
「はい、昨日から外科に来た村瀬さんです」
「村瀬と申します。本日から長田さんの担当になりました。よろしくお願いします」
瑠璃子は長田に向かってニッコリ微笑む。
「ホーッ、こんな美人の看護師さんが担当ならずっと入院していたいなぁ」
その言葉に瑠璃子がフフッと笑うと大輔が言った。
「病院としてはその方が儲かりますので延長しても構いませんよ」
「先生! それは先生の手術を心待ちにしている患者さんに失礼かもしれませんよ。ねぇ、村瀬さん?」
「はい、私もそう思います」
そこで三人の笑い声が響く。
大輔の回診の様子を見ていた瑠璃子は驚いていた。そこに『デスラー』というあだ名の無口で冷徹な医師の姿は存在しなかった。その代わりに患者に信頼され患者と冗談を交えながら楽しく会話をする優しい医師の姿があった。
大輔は長田の傷口の消毒を瑠璃子に指示すると次のベッドへ移動した。
そのベッドには数日後に心臓の手術を控えた高校生の西村翔太(にしむらしょうた)という青年がいた。
大輔は翔太のベッドへ近付き穏やかな声で言った。
「翔太君、具合はどうですか?」
「変わりはないです」
翔太の声はこの年頃の青年にしてはか細く弱々しいものだった。
脇で見ていた瑠璃子は翔太の表情が少し暗いので気になる。
「手術は麻酔で眠っている間に全部終わるから心配しなくても大丈夫だからね」
大輔はそう言って脈を測った後パソコンのデータを見てから翔太に聞いた。
「食欲がないみたいだけれど食べたくないのかな?」
「はい、あんまり……」
翔太は再び消え入りそうな声で答える。
そんな翔太を見ていた瑠璃子は、この患者には精神的なフォローが必要だと感じたので手帳にメモを取る。
「手術には体力も必要だから食べられる時は頑張って食べようね。何か不安な事があったらいつでも言って下さい。我慢しなくていいからね」
大輔が優しく声をかけると翔太はコクンと頷いた。
その日午前中の仕事を終えた瑠璃子は食堂へ向かった。
内科の同僚達の姿は見えなかったのでいつものように壁際の席へ座り弁当を食べ始める。
そこへ大輔がトレーを持ってやってきた。
「お疲れ様」
「先生お疲れ様です。あと先日はありがとうございました」
瑠璃子は中沢に会った日のお礼をまだ言っていなかったので今ここで言った。
「元気になったみたいで良かったよ。ところで外科はどう? 大丈夫そう?」
「はい、皆さんとても親切なのでなんとかやっていけそうです」
「それなら良かった。それはそうと玉木さんとは知り合い? 仲がいいみたいだけど」
「内科の先輩と玉木さんが知り合いなのでたまに私も一緒にお昼を食べていました」
白山小梅
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瑠璃子の説明を聞き大輔は納得したようだ。そこで瑠璃子はもう一言付け加える。
「大丈夫ですよ、先生の悪口は言っていませんから」
「ハハハ、参ったな」
大輔がいつもの反応を見せたので瑠璃子はクスクス笑う。
そんな二人の元へトレーを持った佐川が来て大輔の隣に座った。
「大輔めぇーっ、内科のビーナス瑠璃ちゃんを外科に連れていきやがってぇーっ! このぉーっ!」
佐川は恨めしそうな顔で大輔の腕を軽くポカポカと叩く。
「僕のせいじゃないよ。長谷川先輩がスカウトしたんだから」
「あーそうですかぁ。なぁ瑠璃ちゃん、外科でいじめられたらすぐに内科に戻ってくるんだよ、いいね?」
佐川の大袈裟な言い方が可笑しくて瑠璃子がクスクスと笑う。
そこへ今度は外科の長谷川医師がトレーを持ってやって来た。
「おっ! 村瀬さんの隣が空いているので座っちゃおうかなー」
長谷川はニコニコしながら瑠璃子の隣の席に腰を下ろした。
「お疲れ様です」
瑠璃子が挨拶をすると長谷川が瑠璃子に聞いた。
「村瀬さんどう? 外科ではやっていけそう?」
「はい。皆さん親切に教えて下さるので大丈夫です」
「それはよかった。大輔先生のアシスタントが出来るのは村瀬さんしかいないんだからよろしく頼みますよー」
その言葉に佐川が反応する。佐川は長谷川とは科が違うが顔見知りのようだ。
「そうなんですか?」
「だってそうでしょう? 他の看護師はみーんな逃げ出しちゃうんですから困ったもんです」
長谷川は嘆くように言った。
「それにこの2人はね、飛行機の中で人命救助をしたペアだからコンビネーションはばっちりなんですよ」
「なるほど、そういう事か!」
そこで大輔が不愛想に言った。
「長谷川先輩、調子に乗り過ぎですよ」
大輔が先輩の長谷川をたしなめるように言ったので思わず瑠璃子が吹き出す。
あまりにも可笑しくて瑠璃子の笑いは止まらない。
見かねた佐川が瑠璃子に言った。
「瑠璃ちゃん笑い過ぎ」
「すみません…だって可笑しくて…」
可笑し過ぎて涙が出てきた瑠璃子は慌ててハンカチで目を拭った。
「そうか、村瀬さんは瑠璃子さんだから瑠璃ちゃんか! よしっ、僕も今日からそう呼ぼう」
それを聞いた大輔は長谷川を睨みながら言った。
「先輩、更に調子に乗り過ぎです」
そこでまた瑠璃子が笑い始める。
食事をしながら長谷川は瑠璃子の歓迎会の企画をしろと大輔に命じた。
外科では看護師や医師が異動してくると居酒屋でささやかな歓迎会をするのが習わしとなっているようだ。
瑠璃子はこの日すっかり人気者で三人の医師に囲まれながら楽しい食事のひと時を過ごした。
コメント
12件
瑠璃ちゃん、こちらでも すっかり人気者....🥰 職場の雰囲気も和やかで良いですね🎵
大輔先生、佐川先生と長谷川先生に揶揄われちゃってるんですよ😆 長谷川先生、お手柔にしてあげてください🤣
長谷川先生~🤭瑠璃ちゃんの隣に「座っちゃおう」で大輔さんを煽ってる?「瑠璃ちゃん」呼びも大輔さんプンスカさせちゃって🤣 そして翔太くん大丈夫かな?😟瑠璃ちゃんはメモして気に掛けてますね✨