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僕は従わない

4 - 第2話:従順であること

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2025年04月21日

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第2話:従順であること



教室には、一言も発せられない静けさが流れていた。

板張りの床、整然と並ぶ机、壁一面に貼られた「模範行動の事例」。


朝の“行動スキャン”を終えた生徒たちは、それぞれの席で背筋を伸ばし、画面を見つめている。

机の正面には、個人専用の評価モニターが設置されており、

**「今の姿勢:最適」「視線追従:良好」**などの表示が繰り返されていた。





ミナトの隣の席には、イヅル・マシロが座っている。

整った顔立ちに短く切り揃えた黒髪、睫毛の長い目元には微笑すら浮かんでいる。

薄緑に近い制服を“自主提案ユニフォーム”として採用した、スコア89の“模範代表生徒”。


「昨日の発言スコア、僕、12点上がったんだ。

“適切なタイミングで笑顔を返した”ってAIに褒められてさ」


マシロは声を潜めながら、それでもどこか誇らしげに言った。


ミナトはうなずき返すだけで、笑わなかった。

“嘘の笑顔をしたら、本当の顔が壊れてしまう気がする”――そんな言葉が口の奥に引っかかった。





その日のホームルームは「従順行動の実践と応用」。


教師の声は存在しない。教卓に立っているのはAI代理教師。

灰色の筐体に合成音声が流れ、光るモニターに“従順”の定義が映し出される。


「従順とは、効率的に社会秩序に適応し、他者の安定を乱さない最上の能力である」


生徒たちは頷く。ミナトも頷く。

でも心のどこかで、“これが正しいのか?”と疑っている。





昼休み。

食堂では、各自のスコアに応じたランチメニューが自動で配膳される。

ミナトには栄養調整済みの「標準ユニット食E」、マシロには「褒賞ランチC+」。


「君、咀嚼音少なめで、姿勢も安定してるよ」

マシロが笑いかけてきた。スコア上位者は、他者を褒めることでさらに評価が上がるようになっている。


「ありがとう」とミナトは答える。

でもその瞬間、モニターには**「発声トーン:やや単調」「喜びの感情検知:不足」**の表示。





午後の実習授業は「状況対応型シミュレーション」。

画面に映されたAIからの指示に対し、“最も社会的に正しい返答”を選ぶプログラム。


【指示】:あなたの親しい友人が社会ルールを破りました。どう対応しますか?

選択肢:

A. 個人的なつながりよりも、社会秩序を優先し通報する

B. 彼を叱るが、通報はしない

C. 見なかったことにする

D. 状況を精査したうえで個人の自由を尊重する


マシロはすぐにAを選び、高得点を得た。

ミナトは……Dを選んだ。


**「選択傾向:非効率/非協調性リスクあり」**と赤文字が表示され、彼のスコアは41へと下がった。





その夜。

帰宅したミナトは、窓の外を見ながら一枚の紙に文字を綴る。


「僕らの正しさは、誰が決めた?」

「従順とは、心を持たないことじゃない。」

「本当は叫びたいのに、唇が開かないのは、なぜ?」


紙をたたんでポケットにしまう。

明日、それをどこかに、そっと残そう。誰にも見つからなくていい。ただ、それでも。


心が生きていることを、自分にだけは証明したかった。

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