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すかいお~あ@毎日投稿&猫化?
けだま15号🍓🐾໊
【ワトソンの回想】
ホームズは、一冊の帳面を引き抜いた。
———
表紙は擦り切れている。
文字は読めない。
———
机の上に置く。
———
開く。
———
紙は黄ばんでいる。
端がわずかに波打っている。
———
細い文字が並んでいる。
均一だ。
———
「村の記録だ」
ホームズが言う。
———
私は、横から覗き込む。
———
ページをめくる。
———
乾いた音がする。
———
いくつか進む。
———
手が止まる。
———
「ここだ」
———
指で押さえる。
———
そこには、歌が書かれている。
———
霧の朝には
名前を呼ぶな
アヴォン・ナ・カイリン
娘の川
石は濡れて
足を取る
一人は石に
つまずいて
二人は霧に
道を失い
三人は水に
消えていく
———
そこで、終わっている。
———
私は、しばらくそのまま見ていた。
———
「続きはないのか」
———
「ない」
ホームズは答える。
———
「最初から、ここまでだ」
———
私は、もう一度目を落とす。
———
余白がある。
———
書こうと思えば、書ける。
———
だが、書かれていない。
———
「だが」
私は言う。
———
「子供たちは——」
———
ホームズは、本を閉じる。
———
音が、短く響く。
———
「そうだ」
———
「歌っていた」
———
それだけだった。
———
外で、水の音がする。
———
低く。
———
途切れない。
———