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トヴェッテ王国の首都へと戻ってきた俺・テオ・ナディ(&スゥ)・ジェラルドは、その足で冒険者ギルドへと向かう。
窓口職員へ手紙を渡したところ、閑散としていた昼過ぎのギルドは、あっという間にてんてこ舞いの繁忙状態へと変化した。
ここにいては邪魔になると判断した一同は、早々にギルドから撤退。
ジェラルドが手綱を握る箱馬車で先にナディを自宅に帰してから、俺とテオは宿へと送り届けてもらった。
ネレディが戻るまでの数日間は王都へ滞在すると約束した俺達のために、彼女の指示でジェラルドが用意してくれた宿は、とても高級なものだった。
白が基調のエントランスには大きな彫刻がいくつも飾られていて、ジェラルドによれば「あのトヴェッテ王都の門も手掛けた、有名な建築家や彫刻家らのチームが建てた宿」であるとのこと。
そのあまりの煌びやかさに、自分達は場違いなんじゃないか……と気後れしてしまった俺だったが、せっかくとってもらったんだからと、あてがわれた部屋へ。
部屋の扉を開けた瞬間、俺はポツリと言った。
アンティークっぽい揃いの家具に、高そうな絨毯。
ドーム状の高い天井一杯に描かれている、芸術的な細かい絵。
20や30や済まないほど大量の高級な火魔石を使用した特大シャンデリア。
彫刻模様入りの白い壁には、俺の身長ほどもありそうな額入りの油絵。
ところどころに置かれた、存在感のある花のアレンジメント。
しかも最初に見た部屋はあくまでリビングルームであり、別に広い寝室が2つとバスルームにトイレ、さらにはバルコニーまでついていた。
日本にいた頃には考えられないほど贅沢な部屋に、俺は入口で固まりかける。
そんな俺を放置して部屋に入り、2つあるソファーのうち手前のほうにひょいっと足を伸ばして座るテオ。
「タクト、なんで突っ立ってんの? 座んなよー!」
「お、おおう……」
俺はぎこちなくながら、テオの向かいのソファーに浅くかけたのだった。
その日は各自のんびり自由に過ごすことに。
テオは「夜には戻る!」と言い残し、ふらっとどこかへ出かけて行った。
俺は部屋にこもって、剣のパワーアップに必要なアイテムである『精霊王の証《あかし》』や、それを手に入れるための『火・水・風・土の各精霊王の試練』についての記述メインに攻略サイトを読み漁り、必要そうな情報を片っ端からメモしていく。
確かに他の属性魔術を使えるようになるというのは心惹かれるものがある。
とはいえ今の俺には、スキルLV1とはいえ、4属性の魔術を割と使いこなせる俺という心強い仲間が既にいる。
ゲームにおいて精霊王の試練は受けなくてもクリアできるし、属性によっては難易度が高いとされるため、わざわざ危険を増やす必要はないと考えていたのだ。
だが俺は『勇者の剣《つるぎ》』という、ゲームでは見た事がない超レアアイテムを入手。
ゲーム時代に新要素を探し回っていた頃の血が騒ぎ、せっかくならパワーアップした剣の姿を見たいと思ってしまった。
ある程度情報を整理したところで、俺は書き出したメモを見ながらつぶやく。
「……やっぱり最初は、火の精霊王を訪ねるのがベストか」
世界各地に存在する火・水・風・土の各属性の精霊王。
ゲームと同じならば、『火の精霊王の証《あかし》』を入手するまでの難易度が、この中では最も低いはず。
しかも火の精霊王が居る場所というのが、フルーユ湖浄化後に俺達が向かう予定の『ニルルク村』からかなり近い所にあるのだ。
ニルルク村は道具生産技術の最高峰として知られる獣人職人達が暮らす村で、テオが持つ『ニルルクのアルティマテント』はこの村の職人に製作してもらった魔導具となる。
ゲームでプレイヤーが生産系スキルを使えるようになるためには、ニルルク村に住む1人の職人に弟子入りし指導してもらわなければならず、他の場所での習得方法は発見されていない。
だがいくら希望したとしても、必ずしも弟子入りできるとは限らない。
まずは彼に気に入られる必要があるのだ。
以前テオにそれとなく確認したところ、その職人は現実のニルルク村でも生産系スキルの指導を行っていたようだ。
今は非常事態のためそれどころではないかもしれないが、おそらく落ち着けば指導を再開するのではないかと。
一刻も早く生産系スキルを習得したい俺は、自分がそれなりに戦えるようになった頃合いを見計らい、ニルルク村の彼の指導を受けるつもりで計画を立てていた。
生産系スキルを習得後に作りたいアイテムと、そのために必要な材料や材料入手法などをまとめた一覧表を改めてニヤニヤ眺めながら、俺は未来に希望を膨らませた。
それからネレディを待つ間、俺達2人は主に近郊で魔物狩りをして時間を潰した。
狩場選びの際は資金稼ぎの効率より、他の冒険者に会いにくいという点を重視。
正体を隠し続けるのが難しいとはいえ、バレて面倒を背負い込むリスクを、ほんの少しでも避けたかったのだ。
勇者の剣《つるぎ》を試しに使ってみたところ、柄を握ったり剣を振るったりした時の感覚は『手作りの片手剣』のそれとほぼ同じで、すぐに無理なく使いこなせた。
そして3日後。
「ネレディがフルーユ湖から帰ってきた」との連絡を受けた俺達は、待ち合わせの場所へと向かった。