「古佐くん!!朝だって!!起きてよ!」
そう言いながら寝ている僕の体を揺らす。
「ちょ、揺らさないで…」
そう言いながら目を開けると僕を覗き込んでいる畑葉さんの姿が。
「おはよ!!」
「…おはよ」
昨夜あんなことがあったのに、
なんでこんなにも普通に接すことが出来るのだろうか。
「明日から学校だね〜…」
少し気を落としながらそう言う畑葉さん。
「それよりさ、今日暇?」
僕が答える前に問い掛ける。
「暇だけど…なんで?」
「ん〜…秘密!」
「あ、でも夜は空けといてね!!」
そう言って畑葉さんは『桜の木見てくる〜!!』と言って、外に行ってしまった。
今日の夜…
何をするのかすごい気になる。
そういえば今日は本当は登校日だった。
だけど、何故か学校から明日から登校日となった。
何か事件でもあったのだろうか。
「ね、さっきからそれ何食べてるの?」
いつものように部屋で畑葉さんとくつろいでいる。
僕はゲームで畑葉さんは何かを食べていた。
「これ?食べる?」
「いや、いらな───」
「むぐっ…」
要らないって言ったら必ずと言ってもいいほどに口にそれを突っ込んでくるのやめて欲しい。
「どう?美味しい?」
「まぁ…」
「それで、これ何?」
食べた感じ何かは分かるけど1つの疑問が浮かぶ。
「桜の花びらチップスだけど?」
「どこで買ったの」
「買ってないよ?貰ったの」
貰った?
誰から?
というか桜の花弁って食べていいの?
そんな疑問も次々と浮かんでくる。
ていうか今、秋だから桜の木枯れてるよね。
でも昨夜見た桜の木は満開だった。
幻想でも見たのだろうか。
「ねぇ、桜って枯れたんじゃ────」
「枯れてない!!」
急に大声を出されてびっくりする。
逆鱗にでも触れてしまったのだろうか。
「まだ枯れないから!!」
何だか怒っているようで、
でも悲しげにも見えて。
ふと、聞いてしまう。
「 “ まだ ” って何?」って。
『まだ』ってことはいつか枯れることを暗示しているのだろう?
じゃなきゃ、そんな言い方はしないと思う。
僕が質問してからだいぶ経っているのにも関わらず、畑葉さんからの返事は無かった。
どうしてこんなことになったんだっけ。
夜の予定を空けといてって言われたから空けていて。
それで今は畑葉さんに連れられ、
どこかへと向かっている。
先程の逆鱗に触れるようなあの質問を僕がしなければ今、こんな空気になっていなかったのかな。
スタスタと早足で進む畑葉さんに置いてかれないように着いて歩く。
と、急に畑葉さんが僕の目の前で立ち止まる。
そのせいで僕は畑葉さんの背中にぶつかってしまった。
「ごめん」
慌てて謝るも
「さっき、答えなくてごめんね」
と声が返ってくる。
後ろ姿のせいで畑葉さんが今どんな顔をしているのか分からない。
ただ、声は聞いたことないくらい震え声だった。
泣いているのだろうか。
「大丈夫だよ」
そう返すと鼻のすすり声が追加された。
その時、辺りに黄色いイルミネーションのようなものが光る。
蛍だ。
「ね、綺麗?」
そう言われ
「うん。とても」
と答える。
質問だけ聞けば口裂け女の質問のようにも聞こえる。
そんなことを思うが『今、考えることじゃないでしょ』と妄想の内の畑葉さんに言われてしまう。
「良かった…!」
「ここ古佐くんに見せようって前々から思ってたんだ!!」
元気そうな声で。
いつものような笑顔で。
そう言いながら僕の方を振り向いた。
でも、いつもの笑顔とは違うところがあって。
眉が少し下がっていて。
僕の胸はズキズキと痛んだ。
2人して地面に座る。
草がチクチクとして少し痛い。
僕の家の近くは落ち葉でいっぱいなのに、
まだここは緑に包まれていた。
心地いい。
僕らの周りには蛍の仄かな光があって、
僕らの見上げた先の空には星がキラキラと光っていて。
星と蛍の仄かな光のせいか、
この時間がとても儚く思えた。
「昔の人って蛍を魂って思ってたらしいよ」
急に雑学チックなことを言われる。
知らないことだったけど畑葉さんが言うと冗談にも聞こえて困惑する。
「これは本当だよ」
そんな僕を見て、
クスリと笑って、
呟くように僕に言う。
確かに魂って思ってしまうのは分かるかもしれない。
人工物の光が無い昔の時代なら有り得るのかもしれない。
「そういえば『神在月』って知ってる?」
神在月?
10月の旧暦である『神無月』なら知ってるけど…
「神無月じゃなくて?」
「うん、神在月」
「でも同じ意味だよ」
同じ意味…
ということは場所によって読み方が違うとかだろうか。
「じゃあ神無月の名前の由来って知ってる?」
あぁ、それは分かる。
授業で習ったから。
「八百万の神が1つの地に集まるから、神が居ない日で神無月でしょ?」
「そ!!」
「それで、その八百万の神が集まった地では神在月って言うらしいよ!」
何だか勉強になる…
「そして八百万の神はそこで宴とか祭りを行うんだって〜…」
「潜り込んだら私も参加出来るかな…」
潜り込むって…
「神話だから有り得ないでしょ」
そう現実的な答えを返す。
いつものように『そんなことないもん!!』なんて言うんだろうなぁ。
とか予想する。
なのに今回は違って。
「有り得るよ」
とガチトーンで、
真面目な顔で、
そう言われた。
真実を知っているかのような声。
そんな畑葉さんが少し怖く感じた。
畑葉さんを怖いと思うのは初めてかもしれない。
「そ…っか……」
それのせいか途切れた声を返してしまう。
「いつか一緒に行きたいね」
そう共感するように追加の声を返したが、
畑葉さんは呟き声を零すだけだった。
それが僕に宛てたものなのか、
単純に独り言なのかは分からなかった。
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