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なんだかいつも通ってる道を畑葉さんと通ってるって変な気持ち。
そう思いながら畑葉さんと一緒に夏休み明け最初の学校へ向かう。
「朝から数学だって…」
「でも授業じゃなくて課題提出だから楽じゃん」
「そうだけどさぁ…」
確かに1限目から数学は最悪だ。
気分的には許せない。
「だからxは…」
久しぶりに聞いた先生の声。
課題提出だけで終わると思っていた数学が、
まさか授業までもするとは聞いていない。
隣の席に座っている畑葉さんは机に突っ伏して寝ていた。
微かな寝息が少し聞こえてくる。
「畑葉、xの答えは?」
「はい!ぁ、え…?」
こんな時に限って畑葉さんに最大の危機が迫る。
寝ている畑葉さんも悪いが、
わざと畑葉さんをあてるなんて性格が悪すぎるこの先生。
きっと人間に化けた悪魔に違いない。
そんなことを考えながら答えが書いてあるノートを畑葉さんの机にズラす。
数学の先生にバレないように。
「えっと…」
「√6です」
『ありがとう』口パクでそう言われ、微笑みを零す。
「さっきは本当にありがとう!!」
「詰んだかと思っちゃった…」
いつものように笑いながらそんな話をする。
それより畑葉さんも『詰んだ』なんて言葉使うんだ…
てっきり流行りの言葉とかは使わないって思ってた。
「ね、今日もさ放課後桜の木の丘、行かない?」
「いいよ」
「やった!」
そんな会話を交わした後、
2限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「見て見てこれ!!」
待ちに待ったお昼休みの時間がやってきた。
そう言って畑葉さんが見せたのは僕の家で見たことがあるお弁当箱。
「え、母さんにお弁当作ってもらったの?」
「うん!!ほら!」
畑葉さんがフタを開けたと同時に『畑葉さんらしい』と思ってしまった。
だって中身が全て卵焼きだったから。
「こんなの幸せ〜!」
まぁ、確かに母さんの卵焼きは美味しいし。
こんな僕も1回卵焼きだけの弁当を頼んだなんて恥ずかしくて言えない。
「つひってあんのじゅぎょーだっけ?」
卵焼きを口いっぱいに頬張りながらそう聞いてくる。
それのせいで何を言っているのか分からない。
「せめて食べてから言いなよ」
そう言うも、美味しそうに卵焼きを食べている畑葉さんを見て自分も食べたくなる。
そう思いながら自身の口に自分の弁当箱に入っている卵焼き、2つのうちの1つを口に運ぶ。
やっぱり母さんの卵焼き美味しい。
世界一だ。
「次って何の授業だっけ?って言いたかったの!!」
何故か怒り気味でそう言われる。
「化学じゃない?」
「実験?」
「確か解剖がなんだかとか…」
解剖。
あまり好きではない。
というか蛙の解剖なんて誰もしたくないと思うんだけど…
「解剖?!やったー!!」
教室に響き渡るくらい声を上げる畑葉さん。
「え…」
引いた目で、
引いた声を、
零す。
「もしかして…」
「うん!!解剖好きなんだ!」
女子で解剖好きな人って居るんだ…
あ、でも研究者とかで居るもんね。
じゃあこう思うのって単純に差別なのかも…
「古佐くんは嫌いなの?」
「嫌いっていうか…」
「煮干しとかの解剖ならいいけど蛙はちょっと…」
「この前コオロギと蛙の鳴き声聞いたばっかだし…」
あまり関係ないような気がするが畑葉さんは
「確かに!!」
と言って笑った。
『蛙の解剖は嫌!!』
そんな思いが神様に届いたのか、
理科室に入って最初に化学の先生が驚きの一言を放った。
「今日、蛙の解剖って言ったけどイカに変更な〜」
って。
僕が心の中でガッツポーズをしている中、
畑葉さんは不機嫌そうな顔をしていた。
「うぅ…イカ墨でぐちゃぐちゃ……」
目にある水晶玉を取り出してみようっていう授業らしいが、正直イカ墨のせいで真っ黒になって構造がイマイチ分からない。
僕を含む皆がイカを解剖しようとしてイカ墨だらけになっている中、畑葉さんはまだ何もしていなかった。
が、ブチュッと嫌な音が隣から聞こえた。
見たくは無いが正体を確認するため見てしまう。
畑葉さんがイカにカミソリを刺していた。
「ぇ…何して───」
「え?解剖してるんだけど?」
「あ、あったよ!!」
そう言ってピンセットで何かを見せてくるが、
それもイカ墨で真っ黒になっているため何かは分からなかった。
「え?」
「ほら!!水晶玉!」
水でイカスミを洗い流し、見せてくる。
イカ墨の汚れから出てきたのは透明な球体。
「畑葉、早いな〜」
そう言いながら化学の先生が寄ってくる。
「というか大胆に行ったな」
苦笑いしながらそうも言う。
「ちゃんと掃除するんだぞ〜」
「もちろんです!!」
「今日の化学の時間の畑葉さん、何だか怖かったよ…」
帰り道、いつものように話しながら桜の木の丘に向かう。
「だってそっちの方が手っ取り早いじゃん〜!!」
1回サイコパス診断を受けて見てほしい。
それくらい怖く思えた。
「それよりさ〜、紅葉と夕焼けって綺麗だよね〜!!」
「えー…そうかなぁ……」
「何だか火事みたいに見えて僕は不気味だと思う…」
だって夕焼けって『空が燃えている』だなんて表すし。
そんな真っ赤な空に追加で真っ赤な紅葉だなんて不気味だ。
それを迷子の子供が見たのなら尚更不気味に見えてしまう。
そんなことを考えていると
「不謹慎だな〜」
なんて言う。
そんな時遠くから
【い〜〜しや〜きいも〜、おいも〜】
だなんて声が聞こえてくる。
そう。
焼き芋売りの車が僕たちの目の前を通っていたのだ。
「焼き芋!!買います!!」
気づいた時には畑葉さんは焼き芋売りのおじさんのところに居て。
大きいの3つと小さいの2つを買っていた。
遠くからは
「お嬢ちゃん、食いしん坊だね〜」
って言われて
「食いしん坊じゃないです!!」
って畑葉さんが声を上げ、
おじさんが豪快に笑っている楽しげな声が聞こえてくる。
「古佐くんは『ホクホク』?それとも『甘々?』」
そう言いながら僕の方に戻ってきた畑葉さんが焼き芋を見せてくる。
「僕はホクホクの方が好きだなぁ…」
そう言うと
「じゃあこれあげる!!」
と言いながらホクホクの大きい方を渡してくる。
全部食べれるだろうか。