®空(旅人)Side
─────────────
「付いた」
俺と放浪者は、ナヒーダからの頼みで最近異常な電波を発しているという世界樹の様子を見に来ていた。
早速世界樹の最深部に到達した俺達は、俺が一歩下がり、前したように放浪者が世界樹にアクセスした。
「………特に異常は無いみたいだ。いつも通り、正常さ」
放浪者がそう呟いた数秒後に、脳内にナヒーダの声が響く
『あら…?変ね 確かに異常な電波を受信したのだけれど…。』
「…まぁ、もう少し探ってみるが、あまり期待はするなよ」
『えぇ、ありがとう笠っち』
「異常な電波…異常無し…アビスの侵食を受けたら、すぐに判るよね?」
アクセスに集中しているであろう放浪者を余所目に、俺はナヒーダに質問をしてみた。
『えぇ、そうね。もし仮にアビスや、何らかの外界的侵食を受けているのなら早々にそれを取り除かねばならないわ。』
『けれど、笠っちがいうには異常は無い…それなら、考えられるとすれば、あるいは…』
「一応深くまでアクセスしてみたけど、やっぱり異常は見られない。今は様子見でいいんじゃないかい?」
一通り終わったのか、放浪者が話し掛けてきた。首の骨を軽くポキポキと鳴らしながらこちらに歩いてくる
『そう…。そうね、現状はそうするしかないみたいだわ。一応、世界樹の様子にもっと気を配って見ることにするわ』
「うーん、謎だ…」
「実際問題は無いんだ、そう深く考え込む必要は無いさ。早くここから出るぞ、旅人」
「うん、そうだね」
その瞬間だった。空間から出ようと、踵を返した瞬間、頭に鋭い痛みが走った。
「っ………、」
後ろを振り返ってみると、放浪者も苦い顔をして頭を抱えていたので、俺と同じ事が起きていると推測出来た。やはり世界樹に何か問題があったのかな
「『 』、…大丈夫?」
「…君こそ。随分苦しそうだけど?」
『旅人?笠っち?どうしたのかしら?何あったの?』
俺と放浪者の声が突然途絶えたからなのか、ナヒーダが問い掛けてくる。けどその頃には全身に激しい頭痛と目眩が襲い、視界がボヤケてきた…
「おい、旅…びと、早くここから…!」
「あ…『 』…お、れ……」
目の前が、真っ暗になった。
「……ん…、?」
目を覚ますと、ナヒーダが慌てて駆けつけてきた。どうやら俺は、ナヒーダにベッドに寝かされていたらしい。身体の痛みや目眩はもう無くなっている。さっきのは何だったんだろう、?
「良かったわ、無事に目を覚まして…」
ナヒーダが心配そうにの俺の顔を覗き込む
「急にあなた達の声が途絶えたから、心配になって、緊急で世界樹から現実世界に連れ戻したのよ。」
「…ごめんなさい。世界樹に謎の異常があったとはいえ、危険がある中あなた達を世界樹の様子見に行かせたのは、わたくしに非があるわ。本当にごめんなさい」
そんなに申し訳なさそうにしなくていいのに…。実際、無事に帰ってこれたわけだし…。
ナヒーダに、大丈夫だよ、と声をかけてあげよう。…そう、思ったとき
「ナヒーダ、大丈夫だよ」
………え?
「あら…?あなたがわたくしをそう呼ぶのは珍しいわね…。笠っち」
俺は、自分で発した声にとても驚いた。
焦って、掛けてあった毛布を振り払って近くにあった手鏡を取った。自分の姿を確認する為に。まさかとは思うが、とんでもない自体になっていないか確認する為に。
鏡には、普段見慣れた姿が映っていた。
紺色のサラサラした髪の毛に、きめ細やかな肌。海の様に深く、空の様に鮮やかな碧眼。
それは、俺が恋した、人形のものだった。
「あ……ぇ…?」
「笠っち…?どうしたの?そんなに寝起きの自分の顔が気になるかしら?案外、自分の容姿に気を配るのね。」
ナヒーダが軽く微笑む。が、今はそんな事を言っている場合ではない。
ナヒーダの方を向くと、俺が…放浪者の身体がさっきまで眠っていたベッドがある。
その隣には、もう一つのベッドがあって…。
……もうお解りだろう。
そこに眠っていたのは、俺。
恐らく、中身は放浪者。…所謂、入れ替わりとでも言うのだろうか。
「笠っち?」
「ナヒーダ…」
ナヒーダが何とも訝しげな顔でこちらを見つめてくる。
「…ねぇ、もしかしてあなた…」
ナヒーダがそう言いかけた所で、俺(中身は恐らく放浪者)が目覚めたら
「ん……なにして……。は…?」
目覚めて、放浪者にとって一番最初に見たのは、俺。つまり見た目は放浪者自身である。
「いや……は?なんで、僕…。」
「…おはよう、『 』…」
「……空?」
「うん」
「なんで、君が僕の姿になってるんだ?」
「………」
俺は無言で放浪者に向かって鏡を向けた。
「…は」
その時、放浪者は確実に目が点になっていたと言えるだろう。
放浪者は俺から鏡を奪い取り、手鏡を見ながら自身の顔をぺたぺたと触ってみた。しかし、それはいつもの自分の顔ではなく、俺のものだ。
するとナヒーダが横からひょこり、と顔を出した。
「ふむ…あなたたち、やっぱり入れ替わっていたのね?さっきの笠っちの…旅人の反応にも、納得がいくわね」
「…はぁ…はは、やっぱり君と居ると、退屈しないね」
「あはは…嬉しいな」
「いや、褒めてないから」
ナヒーダは妙に納得してウンウンと頷き、放浪者は呆れ気味に笑ってみせた。
そんな風にしないでほしい。俺は少し、ほんのちょっとだけ、君に成れて嬉しいって思ってしまったっていうのに
「まぁ起きてしまった事には何を嘆いたって仕方ない。」
そう言いながら、俺の見た目をした放浪者はせっせと身なりを整え始める。…え?
「ちょ…っ、『 』?何してるの?」
「何って…まだ終わってない教令院の課題があるんだ。僕だって、いつまでも暇なわけじゃない」
「いやっ…いやいや…!!その姿で?」
「何かおかしいかい?冒険者に苦難は憑き物だろう」
「旅人である俺が普通に教令院の課題やってたらおかしいでしょ!」
「じゃあ君がやってくれるのか?今日の分の課題は相当難易度高いけど」
「うぐ…」
なんでだ…なんでこんな平然としていられるんだ…?
「二人共、一度落ち着ましょう?解決策を探せば良いだけよ」
「何もしてないのに入れ替わったんだ、また戻るまで何もせず待つしか無いだろ」
「それは最終方法ね。まずは色々やってみましょう」
「…はぁ…」
それから俺達とナヒーダは、色々な方法を試してみた。お互いの頭をぶつけて見たり、何かの呪文を唱えてみたり、抱き合って見たり、握手して手のひらを合わせてみたり、口づけをしてみたり…
「ちょっと待て。最後の方なんかおかしいだろ」
「そう?」
「やっぱり、何をしても戻らないわね…待つしか無いのかしら…知恵の神として、不甲斐ないわ…」
「こればっかりはしょうがない」
「そ、そうだね…とりあえず今日は…帰ろうか?もう外暗いし。また明日考えてみよう。」
「えぇ…明日までには、何か別の解決策を模索してみるわね」
「ありがとう、ナヒーダ。…『 』、塵歌壺…来る?」
「……あぁ」
と言うことで、入れ替わり怒涛の1日目は、幕を閉じるのであった……。
To be continued……
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!