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莉奈
自由な人間
朝。
目が覚めた瞬間、イギリスは動かなかった。
「……」
天井を見つめたまま。
何も考えないようにする。
考えれば、理解してしまうから。
——ここから出られないことを。
「起きた?」
横から声。
「……」
反応しない。
「親父」
「……起きています」
短く答える。
アメリカは満足そうに笑った。
「そっか」
そのまま、ベッドの縁に腰を下ろす。
「飯できてる」
「……いりません」
「ダメ」
即答。
「食えよ」
「……食欲がありません」
「でも食う」
迷いがない。
「……」
拒否しても無駄だと、もう分かっている。
「ほら」
手を引かれる。
強引ではない。
けれど、逃げられない。
「……」
そのままテーブルへ。
座らされる。
並べられた食事。
「ちゃんと作った」
どこか誇らしげに言う。
「……」
返事はしない。
「食べろって」
「……」
ゆっくりと、手を伸ばす。
口に運ぶ。
味はするのに、何も感じない。
「どう?」
「……普通です」
「そっか」
満足そうに頷く。
「よかった」
その反応に、違和感を覚える。
(……なぜ)
こんな状況で。
こんな風に。
——普通に会話が成立しているのか。
「なあ」
「……なんですか」
「昨日さ」
軽い口調で言う。
「逃げようとしたじゃん」
「……」
手が止まる。
「でもさ」
「……」
「やめとけって」
優しく言うように。
「無駄だから」
「……」
「苦しくなるだけだぞ」
その言葉に、何も返せない。
「ほら」
コップを差し出される。
「水」
「……」
受け取る。
自然に。
何も考えずに。
「いい子」
ぽつりと落ちる言葉。
「……」
胸がざわつく。
なのに。
拒絶できない。
「ちゃんと聞いてれば楽だろ?」
「……」
「逆らうから苦しいんだよ」
穏やかに言う。
「……」
(……違う)
そう思うのに。
言葉が出ない。
「なあ、親父」
「……」
「俺、そんな悪いことしてる?」
「……」
問いかけ。
けれど、答えは決まっているような口調。
「外危ないし」
「……」
「変なやつもいるし」
「……」
「ここなら安全だろ?」
「……」
「俺が守ってるし」
にこ、と笑う。
「……」
反論できるはずなのに。
できない。
「ほら」
また一口食べさせようとする。
「ちゃんと食えって」
「……自分で食べられます」
「知ってる」
でも、手は引かない。
「でもこうした方が早い」
「……」
結局、口を開けてしまう。
——従ってしまう。
「いいじゃん」
満足そうに言う。
「ちゃんとできてる」
「……」
何が「ちゃんと」なのか、わからない。
けれど。
否定できない。
「なあ」
「……」
「親父さ」
「……なんですか」
「俺といるの、そんなに嫌?」
「……」
答えに詰まる。
「……嫌では、ありません」
嘘ではない。
完全な拒絶ではない。
「じゃあいいだろ」
すぐに返される。
「……」
「外いらなくね?」
「……」
また、その話。
でも。
「俺がいるし」
繰り返される言葉。
「……」
昨日までなら、否定していた。
けれど。
今は。
「……」
何も言えない。
「ほら」
頭に手が乗る。
軽く撫でられる。
「ちゃんとできてるじゃん」
「……」
その感触に、肩がわずかに揺れる。
「いい子」
また言われる。
「……」
胸の奥が、少しだけざわつく。
でも。
同時に。
——楽だ、と思ってしまう。
「ほら」
「……」
「もうちょい食え」
言われるままに食べる。
何も考えずに。
ただ、従う。
「そうそう」
満足そうな声。
「それでいい」
「……」
(……それで、いい?)
ふと、思う。
考えなくていい。
逆らわなくていい。
ただ従っていれば。
——何も起きない。
「なあ」
「……」
「楽だろ?」
その言葉に。
「……」
ほんの一瞬。
肯定しそうになる。
「ほら」
また頭を撫でられる。
「大丈夫だって」
「……」
「俺がいれば」
その声は、優しくて。
逃げ道を完全に塞いでいて。
「……」
イギリスは、目を伏せた。
——抵抗する力が、少しずつ削られていく。
気づいているのに。
止められない。
ただ。
流されるように。
慣れていく。
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