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夜。
部屋は静まり返っていた。
時計の音だけが、やけに大きく響く。
「……」
イギリスはソファに座っていた。
何もしていない。
ただ、ぼんやりと前を見ている。
考えないようにしているのに。
それでも、浮かぶ。
——外。
——自由。
——そして。
「……フランス」
小さく、名前がこぼれた。
その瞬間。
「誰?」
背後から声。
「……!」
びくっと肩が揺れる。
振り返る。
アメリカが立っていた。
いつからいたのか分からない。
「……今、なんて言った?」
静かな声。
逃げ場のない問い。
「……何も言っていません」
反射的に否定する。
だが。
「嘘」
即座に切り捨てられる。
「聞こえた」
一歩、近づく。
「フランスって言ったよな」
「……」
沈黙。
それが、答えになる。
「……はあ」
深く息を吐く。
「まだ残ってんだ」
その言い方に、冷たいものが混ざる。
「……」
「消えたと思ったのに」
「……」
「親父さ」
目の前まで来る。
「なんでまだあいつなの」
「……」
答えられない。
でも。
消せない。
「……会いたいんです」
ぽつりと、こぼれる。
「……」
空気が止まる。
「……は?」
低い声。
「今なんて言った?」
「……」
もう、止まらない。
「……会いたいです」
はっきりと言う。
「フランスに」
次の瞬間。
腕を強く掴まれる。
「っ……!」
「なんで」
低い声。
押し殺したような。
「なんでだよ」
「……」
「なんでまだそいつなんだよ」
ぐっと引き寄せられる。
「俺いるだろ」
「……」
「なんで足りねえんだよ」
「……」
言葉が出ない。
「なあ」
顔が近い。
逃げ場がない。
「俺、何してきた?」
「……」
「閉じ込めて」
「……」
「外なくして」
「……」
「全部、俺にしただろ」
「……」
「なのに」
少しだけ声が震える。
「なんでまだあいつなんだよ」
「……」
その声に。
一瞬だけ、迷いが生まれる。
けれど。
「……あの人は」
口が、勝手に動く。
「……私の、外です」
「……は?」
「外の、証明なんです」
「……」
完全に止まる。
「……あなたといると」
震える声で続ける。
「……ここが、すべてになってしまう」
「……」
「それが、怖い」
沈黙。
重く、冷たい沈黙。
「……だから」
「……」
「忘れたくないんです」
「……」
「外を」
「……」
「私が、私であることを」
言い切った瞬間。
アメリカの目が、ゆっくり細くなる。
「……へえ」
静かな声。
「そこまで思ってんだ」
「……」
「俺といると、自分なくなるって?」
「……」
否定できない。
「……そっか」
小さく頷く。
納得したように。
けれど。
「じゃあさ」
「……」
「やっぱダメだな」
「……何がですか」
「中途半端」
一歩、近づく。
「まだ外残ってる」
「……」
「だから迷うんだろ」
「……」
「だったら」
ぽつりと。
「消すしかない」
「……!」
背筋が凍る。
「記憶ごと」
「……やめてください」
思わず声が出る。
「それは——」
「冗談だよ」
すぐに笑う。
「そんなことしねえって」
「……」
ほんの一瞬、安心しかけて。
「でも」
その笑顔のまま、続ける。
「それに近いことはする」
「……」
逃げられない。
「なあ」
「……」
「親父」
優しく呼ばれる。
「フランスってさ」
「……」
「何がいいの?」
「……」
「俺と何が違うの?」
答えられない。
でも。
「……否定しないから、です」
ぽつりと。
「……は?」
「……私を」
視線を逸らす。
「そのまま、見てくれます」
「……」
「……変えようとしません」
沈黙。
その言葉が、ゆっくり沈む。
「……そっか」
小さく呟く。
「変えるのがダメなんだ」
「……」
「でもさ」
顔を上げる。
「変えないとダメだろ」
「……」
「親父、今のままだと」
一歩、距離を詰める。
「どっか行くじゃん」
「……」
「俺のとこから」
ぐっと腕を掴む。
「それ、無理だから」
「……」
「だから変える」
迷いなく言い切る。
「……」
「フランス忘れるくらいまで」
「……」
「俺だけで満たされるように」
その言葉は。
完全に、逃げ道を消していた。
「……」
何も言えない。
もう。
抵抗の言葉が出てこない。
「なあ」
「……」
「最後に聞く」
静かな声。
「まだ会いたい?」
「……」
答えれば、壊れる。
でも。
「……はい」
小さく。
でも、確かに。
答えてしまった。
その瞬間。
アメリカは、少しだけ目を見開いた。
そして。
「……そっか」
小さく笑った。
「じゃあもういいや」
「……?」
「諦める」
「……」
一瞬、理解が追いつかない。
「親父が外好きなのも」
「……」
「フランスに会いたいのも」
「……」
「全部」
にこっと笑う。
——いつもの、軽い笑顔。
なのに。
「もうどうでもいい」
その一言で。
空気が、完全に変わった。
「……」
「だってさ」
ゆっくりと近づいてくる。
「無理に消さなくても」
「……」
「どうせ消えるし」
「……」
「時間かければ」
ぞくり、とする。
「親父、もう外ないから」
「……」
「頼るの、俺しかなくなる」
その言葉は、確信だった。
「……」
「だからいいよ」
優しく言う。
「今はまだ、好きでいても」
「……」
「そのうちどうでもよくなるから」
逃げ場のない、未来の宣告。
「……」
何も言えない。
「なあ」
「……」
「それまでさ」
手を伸ばされる。
「ちゃんと俺見てろよ」
その手を。
振り払うことができない。
「……」
ゆっくりと、触れてしまう。
その瞬間。
アメリカは、満足そうに笑った。
——最後の抵抗が、終わりに近づいている。
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