そして次の週になった。
この日、朔也と美宇は流星群を見に行く約束をしていた。
一緒にシチューを食べて以来、二人の間によそよそしさは消え、以前にも増して自然に会話ができるようになっていた。
不思議なのは、朔也の方が積極的に距離を縮めてきていることだ。
(札幌で何かあったの?)
そう思うほど、あの日を境に朔也は変わった。
この日も終業間際、美宇が片付けをしていると、朔也が声をかけてきた。
「今夜は晴れそうでよかったね」
「はい、すごく楽しみです!」
「じゃあ、この前と同じく夜8時に迎えに行くよ。前より寒いから、暖かくしてね」
「はい。でも、この時期って車で峠まで行けるんですか?」
「僕の車なら大丈夫」
「そっか……」
地元の人が言うのなら安心だ。
冬の澄んだ空気は星空をさらに美しく見せてくれるかもしれない。そう思うと、美宇の胸は高鳴った。
美宇がアパートへ戻った後、朔也は蓮の店へ向かった。
少し早めの夕食をとろうと思ったのだ。
店に入ると、蓮が声をかけてきた。
「朔也先輩、いらっしゃい」
「こんばんは。今夜の流星群、蓮たちも行くんだろ?」
「もちろんです。今日は一時間早く店じまいします。先輩も行くんですよね? 美宇ちゃんは誘ったんですか?」
「うん、後で一緒に行くよ。その前に腹ごしらえしないと……今夜のおすすめは?」
「鮭とポテトのグラタンです」
「美味そうだな。じゃあ、それにしよう」
「承知しました。あ、今、お冷を持ってきますね」
そのとき、綾が顔を出し、お冷を運んできた。
「朔也さん、いらっしゃい」
綾は満面の笑みで挨拶した。
「綾ちゃん、こんばんは。おちびちゃんたちは元気?」
「それがこの前、昴が熱を出して大変だったの~」
「え? 大丈夫なの?」
「ええ。小峰医院で薬をもらって一日寝たら、ケロッと治っちゃったわ」
「インフルエンザじゃなくてよかったね」
「そうなの~、今流行ってますよね~。そうそう、小峰医院、今年で閉院しちゃうんですって」
「えっ、マジか! あの病院がなくなったらどうなるんだ?」
そのとき、蓮も困ったように言った。
「街中の総合病院まで行かないとならないですよね~。ほんと参ります。あの病院はいつも混んでますから」
「そうだよな。僕も子供の頃からお世話になった小峰先生、もう引退か……」
「せっかく若い人たちが移住してきても、病院がなくなったら困りますよね。子育て世帯は特に……」
「たしかに、マイナス要素でしかないよね」
朔也はそう言って、困ったように顔を曇らせた。
そのとき、蓮が綾に声をかけた。
「綾! 先輩に今日のおすすめのグラタンを頼む」
「え? あ……はい。少しお待ちくださいね~」
綾はそう言ってバックヤードへ戻っていった。
「蓮が作らなくていいの?」
「仕込みは済んでいるので、焼くだけなら綾でも大丈夫です。ところで、先輩……」
蓮はそう言って、朔也の前に腰を下ろした。
「どうした? 改まって」
「ちょっと込み入ったことを聞いちゃいますけど……」
「なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「じゃあ言います。先輩は香織さんのこと、まだ気にしているんですか?」
突然そう聞かれ、朔也はドキッとした表情を浮かべた。
「なぜそんなことを聞くんだ?」
そこで、蓮は正直に話した。
「綾から聞いたんです。香織さんの命日に、先輩がバスターミナルにいたって」
それを聞いた朔也は、一瞬黙り込んだ。
「参ったな……綾ちゃんに見られていたのか」
「いえ、違います。綾じゃありません」
「?」
「美宇ちゃんです。あの日、バスターミナル前の店にいたそうです」
「…………」
朔也は再び黙り込んだ。
そこへ、蓮が続けた。
「美宇ちゃんが不思議がっていたそうです。バスに乗るわけでも、誰かを待っている様子でもなく、ただじっと座ってたって……」
そこでようやく、朔也が口を開いた。
「そっか……彼女、見てたのか」
「はい。どうします? もしよければ、僕たちから全部話しますけど」
「いや、自分で話すよ」
「それなら、なるべく早めに話してあげてください。彼女、きっと気になっていると思いますよ」
「うん……分かった」
蓮はほっとした様子で笑顔を浮かべた。
「蓮たちも今夜は峠に来るんだろう?」
「いえ、今回は別の場所で撮ろうと思ってます」
「え? 峠じゃないのか?」
「はい。峠は、お二人でごゆっくりどうぞ」
ニヤニヤする蓮を見ながら、朔也は困ったように言った。
「なんだよ、変な気を遣うなよな」
「気を遣わないと、先輩一人に任せておくのは心配ですからね~」
「何言ってんだ」
朔也は照れ笑いを浮かべた。
そのとき、蓮が真剣な表情で言った。
「美宇ちゃんのこと、好きなんですよね?」
そう直球で問われた朔也は、真面目な顔で答えた。
「うん……あれからもう十年、いい節目だし、これからは自分の人生を考えてみるよ」
その答えを聞いた蓮は、さらに嬉しそうに微笑んだ。
「何かあったら手伝いますから、遠慮なく言ってください」
「うん、ありがとう。蓮と綾ちゃんにも、いろいろ心配かけてすまなかったね」
「気にしないでください。僕たちの方こそ、いつも先輩に助けてもらってるから、たまには恩返ししないと」
「ははっ、じゃあ、困ったら頼むよ」
「任せてください!」
二人は目を見合わせて笑った。
その様子を、厨房の入口から綾が優しく見守っていた。
コメント
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寒い🥶北海道で蓮さんと綾さんが暖炉のように暖かく優しいぃ💓 朔也さんにしっかりと伝えるべきことを言える蓮さん(綾さんも)が立派です✨🕺✌︎('ω')✌︎ そしてお医者さんがいなくなる話…これは困る😣 もしかして関谷さんの想い人が来るのかな⁉️🥰 関谷さんの恋バナもぜひみたいので来て欲しいなぁ🙏😘🎶
蓮さん、ナイスアシスト❣️ いい人がたくさんしていいですね そう、前を向いて歩きましょう。 香織さんもきっとそう望んでいるはずです☺️
蓮さんの優しい気遣いや後押しが嬉しい〜٩(„❛ ֊ ❛„) 美宇ちゃんへの思いを隠そうとしない朔也さんが素敵✨ 一緒に寒空の中流星群を見るってほんとロマンティック💗 2人の距離感が縮まる予想✺⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝✺ 北海道の鮭料理も惹かれるぅ💕💕