テラーノベル
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思い出すのは、豪が伝えてくれた言葉の数々。
『今度は都心のベイエリアに夜景を見に行ってみるか?』
湘南のドライブデートの時に寄ったイタリアンレストランで、彼に想いを寄せていた奈美は、確約のない約束だと思っていた。
『冬になったら、イルミネーション、一緒に見に行こうな?』
彼の好きな場所に、冬になったら彼女として見に行けるものだと思っていた。
もちろん、都心のベイエリアも。
『俺の中では…………奈美は…………人生で初めて一目惚れした女だ……!』
結局は、ヤリたいための口説き文句だったって事だよね……。
『本当は今すぐにでも…………奈美を抱きたい』
ほら、やっぱり。
彼はヤリたいだけだったから、そう言ったんだ。
『俺は奈美の心の準備が整うまで待つ。でも、これだけ言っておく。俺が君を抱きたいと思うのは、奈美の事が好きだからだ。それだけは覚えていて欲しい』
…………。
それに、プレゼントで奈美に買ってくれた、お気に入りのCD三枚。
奈美は、その場に崩れ落ちながら、むせび泣いた。
彼女の様子を、通りすがりの人が視線を向けているのがよく分かる。
ひとしきり泣いた後、周囲の目も気にせずに涙を拭い、立ち上がって駅へ向かっていた。
彼が彼女らしき人と会っていた事で、気になっていたカフェに行く気も失せてしまい……。
豪と遭遇する直前に購入した、モーヴピンクのランジェリーセット。
買った時は、気分がフワフワ浮かれていたのに、今では、手に下げているショップ袋が哀れに見えた。
「何やってんだろ……私……」
自分一人で、勝手に盛り上がっていただけ、と気付かされ、鼻の奥がツンと痛む。
俯き加減で歩き続け、立川駅のコンコースへ出ると、奈美はICカードを取り出した。
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