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今日、外出した事を、激しく後悔する奈美。
「バッカみたい…………」
自嘲しながら、駅の改札に入っていった。
電車に乗る前にスマホを確認すると、通知センターに彼から十件メッセージを受信と表示されている。
受信時間を見ると、遭遇した直後に送ってきたらしい。
何となく、彼女らしき人がいない隙に送ってきたみたいだけど、奈美は読まなかった。
(何で……今さら…………そんなにメッセージを送ってくるかなぁ……!)
メッセージ受信の通知で、豪の名前を見ただけで、視界が滲みそうになった。
思い返せば、奈美は豪の苗字すら知らない。
本当に、それだけの関係だった事を痛感する。
彼の穏やかに微笑む表情が浮かんでは消え、また浮かび上がり、頭からこびりついて離れない。
(あんな綺麗な人が豪さんといるのなら、もう返事をする必要もないよね……)
大きく吐き出した息は、まだ動揺しているせいか、小刻みに震えている。
「私……豪さんの事、下の名前と勤務先だけしか知らない状態で、終わっちゃったよ……」
中央線の下りホームの階段を下り、電車を待っている間、奈美はメッセージアプリを開く。
一覧に載っている彼のIDをタップして、アプリ内の削除アイコンに、こわごわと指先を伝わせていく。
(もう…………忘れ……な……きゃ……)
震え始めた指先で、奈美は意を決して、豪のIDを削除した。
失意の中、帰宅すると、奈美の身体は鉛のように重かった。
パソコンを立ち上げている間に、手洗いとうがいを済ませ、部屋着に着替える。
何もする気が起きない。
彼が彼女らしき人と会っていた事が、精神的に堪えていた。
「バイバイ……豪…………さ……ん」
しばらく放置していたエロ系SNSも、奈美は退会した。
***