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光が大きく発光し、俺は思わず目を閉じる。
「な、なんだ……!?」
魔法陣が発動した影響だろうか? 光が小さくなったのを感じ、俺は目を開ける。
そこは何もない、真っ白な空間だった。
「な、なんだココ……!?」
辺りを見渡すが、何もない。それどころか……。
「陽菜子っ!? 伊織っ……!?」
そう、誰もいないのだ。
「セージっ! ロキっ! どこだ!?」
俺は何もない空間に、ひたすら一緒にいたはずの彼らの名前を叫ぶ。
……だが、誰一人として返事は返ってこなかった。
「誰か……誰も、居ねぇのか……?」
底知れない不安が、込み上げてくる。
「誰か……居るなら、返事してくれ……」
この一週間……張り詰めていた不安が、一気に押し寄せてきた。
そんな時だった。
「おや、珍しい」
見知らぬ声が、空間に響いた。
「久々に起きたら、こんな所に人の子が居るとはな」
「だ、誰だ……!?」
「どれ、顔をよく見せてみよ」
顔に手が触れられ、正面に向けられる。
その瞬間、俺は違和感を覚えた。
正面に顔を向けられ、顔を合わせているはずなのに……何故か、目の前の人物の顔を認識できないのだ。
フードや仮面で、顔を隠しているわけではない。ただ何故か霞がかかったように、相手の顔が認識できないのだ。顔だけじゃない。体格も、性別も……声も全てが分からないのだ。
ただ一つ分かるのは、俺の顔に触れてるこの手は『人の形をしてる』ということ。
「……ふふっ、懐かしい匂いと気配がすると思ったら。お主、『ヤヒロ』じゃな?」
「な、なんで俺の名前を……?」
謎の人物に自分の名前を呼ばれ、俺は恐怖を覚え……ることはなかった。
不思議と、懐かしい気持ちになったからだ。
「人の子の成長とは、早いものだ。少し眠っている間に、こんなにも大きくなるとは……やれ、めでたいことじゃ」
「アンタ、一体……」
「……しかし、まだここに来るには早すぎたみたいじゃな」
「……は?」
目の前の人物は、俺の顔から手を離す。
「まったく……彼奴の悪戯も困ったものじゃ。すまぬな、ヤヒロ」
「ま、待てよ! なんのことか、俺にはサッパリ……」
俺が問い詰めようとすると、「シーッ」と止められる。
「そんなに焦らずとも、またすぐに会える。心配するでない」
そしてそのまま、頭を軽く撫でられる。
「今のお主には、ちと堪えるかもしれんが……まぁ、大丈夫じゃろう」
そう言われ、足元に魔法陣が広がる。
「ワシも色々あってな……ここでのことは、皆には秘密にしておくれ。とは言っても、お主が覚えているかは別の話じゃがな」
魔法陣が光り、俺を包み込む。
「ちょっ、結局アンタは……!」
「おぉ、そうじゃった! 最後に一つ」
「✕✕によろしくのぉ」
そう言って、謎の人物は微笑んだ気がした。
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気づけば月に照らされた、森の中に立っていた。
「悪いな。結界の関係上、ここから屋敷まで少し歩くことになるが……問題はないか?」
「………………」
「……ヒロくん?」
「………………」
「どうしました、ヤヒロさん?」
何が起きたのか分からずにボーッとしていると、左右から名前を呼ばれた。
「陽菜子……伊織……」
「大丈夫です? 魔法陣で、酔いましたか?」
「こんなんで酔うなんて、弱っちぃ兄貴だな」
「セージ……ロキ……」
#赤ずきん
まだ頭がボーッとするのか、情報が処理できない。
「えっと、俺……」
何か大事なことが起きた気がするのに、上手く思い出せない。
「ヒロくん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「えっ……? あぁ、だいじょ……」
――――ポタッ……――――
(『ポタッ』……?)
何かが垂れる音がして首を傾げると、目の前にいる全員の顔が真っ青になる。
「……? どうした?」
「ど、『どうした?』じゃないです……」
「ヤヒロさん……そ、それ……」
視線と指先で、俺は自分の顔を触る。
何か湿った感触がして、俺は手のひらを見る。
「はぁ……?」
手のひらには、赤い液体がついている。
無意識に出処を探せば、両目に鼻……それは顔の、穴という穴から出ているようだ。
それを理解した瞬間、なにか熱いものが込み上げてくる。
「お……おぇッ……!!」
口内中に広がる、金属の味。それを吐き出せば、小さな赤い水たまりが地面に広がった。
「ゲボッ、ガハッ! うぉえッ……!」
心臓の音が、鼓膜を破るように鳴り響く。浅い呼吸を何度も繰り返しながら、俺は地面に倒れる。
「ヤヒロさん!!」
「お兄ちゃん!!」
霞む視界の中、各々が俺を呼んでいる気がする。
「お兄ちゃん! しっかりして、お兄ちゃん……!!」
薄れていく意識の中、妹の声だけが聞こえた気がした。
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八尋が倒れたと同じ頃――――彼らから遠く離れたところから、白銀の獣が見ていた。
犬にして大きく、先日の魔獣とは違う。
美しいその毛並みは月明かりに照らされ、神秘的な生き物のようにも見える。
白銀の獣は気配を気取られぬよう、ジッと息を潜めている。
そして白銀の獣は、自身でも気づかぬうちにとある人物だけをただジッと見つめ続ける。
八尋たちのそばに居た、同じ獣の本能に悟られる前……僅かな時間差で、闇夜に溶けていった。