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「…………まさか……」
沈黙を引き裂くように、廉が眉根を下げると、戸惑いながらポツリと零す。
「こんな形で……君に再会するとは思わなかったな」
「私も…………です……」
俯き加減だった優子が、チラリと廉の表情を見やると、彼はうっすらと笑みを唇に滲ませている。
「…………いつ、刑務所を…………出たの?」
「昨日……です」
「…………そうか」
廉は、昨日彼女が出所したとは考えもしなかったのか、一瞬目を見張らせる。
再び、見えない壁のような無言の空気が二人の前に立ちはだかると、店員がブレンドコーヒーとアイスカフェオレをトレイに乗せ、二人の前に、それぞれ置いた。
ボリュームを低くしたような、ホテルのロビーに漂っている人の話し声を耳にしながら、優子は、いただきます、と小さく呟いた後、ストローを出して、アイスカフェオレを口にした。
久しぶりに会った元上司、今では専務になった松山廉の表情を、優子は改めて視線を向ける。
長すぎず、短すぎない黒髪。
前髪はラフに下ろされ、スッと通った鼻筋、奥二重の瞳と顔立ちは、甘くも渋く、野生的な雰囲気を醸し出している。
若干濃いめの精悍な顔立ちだ。
年齢は、恐らく三十代半ばくらいだったと記憶していて、優子と大して変わらない。
歳を重ねていくたびに、男の艶が自然と放たれていき、彼女は、まつ毛を伏せながらコーヒーカップを口に運んでいる廉を横目に、心の中に漣が立つ。
「…………懐かしいな」
優子が回想の海に浸っていると、廉の甘美で低い声色で我に返った。
「何が……ですか?」
「君と初めて一緒に仕事をした時の事を、不意に思い出したんだよ」
廉が優子に眼差しを絡めながら目を細めると、彼女は恥ずかしくなって俯く。
「当時、主任……そして部長だった専務には…………たくさん助けられました」
彼女は、グラスの周りに水滴が付いたアイスカフェオレで喉を潤した後、全面ガラス張りの窓の向こうに映る街路樹に目を向けた。
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