テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#衝撃のラスト
山根利広
1,673
52
418
由貴は腰を抜かしてしまった。見慣れてはいる幽霊なのにやはり慣れないもので。「お前、ナイスリアクション。ええの撮れたで」
「その映像撮りたいだけやったろ……ほんといい加減にしろよ。あれ知ってたくせに」
「……まぁ後で話すからシャワー浴びろ」
「もう大丈夫やろか」
由貴は不安になるがこのままでは風邪をひいてしまう。虹雨は間を開けて
「たぶん」
と言い、脱衣所に置いてあった牛乳パックくらいの大きさの箱を手に取り風呂場に向けて何かを振りかける。
ザザっ!
「あぶな、何かけ……ソルト?! 塩?!」
「塩」
「体浄化しとけ」
「ありがとよ」
2人は昔から塩はよく使っていた。子供の頃、地元の寺の僧侶から彼らの除霊活動を知っていたのだが自らの経験から塩で清めると良い、と言われて子供だった2人はそのまま鵜呑みにしてずっと塩は手放せないアイテムとなっているだけでもあるが。
いろんな塩があるが当時子供だった2人が手に入れやすかったのが家の台所にある食用食塩であった。
虹雨が今使っているのは大量に入ってて持ちやすいボックスタイプの食塩。
「海外製のこれよりももっと大容量の入浴剤のソルトも良かったんだがやっぱこれだな。実家の居酒屋でも使ってて便利だ」
「僕は小さいサイズの……今はないけど」
「あと……」
「「スプレー式消臭剤」」
2人は声を合わせたかのようにおなじことを言う。そして笑った。
「さっさと入れ、風邪ひくぞ」
「おう、悪いな。さっきまで血塗れだったのに……にしてもこの風呂場で爺さんはどうやって死んだんだ」
由貴はジャポンと湯船に浸かる。風呂場の外、脱衣所から虹雨の声がする。
「ん? 外にいた女がその爺さんを風呂場で殺した」
「塩! 塩! もっといれろぉおおおお!」
由貴は風呂から出て虹雨の置いた塩を浴槽の中にこれでもかと言うくらい入れたのであった。
そして温まって出てきたが気持ちは冷え切っている由貴は脱衣所のカゴの中に服が入っているのに気付く。タグを見ると自分のサイズである。自分よりも小さい虹雨のものではない。下着も肌着もある。
「まさか……」
慌てて着替えて濡れた髪の毛をタオルで巻いてリビングに行く。
「虹雨、この服……」
「その服を買いに近くのドラッグストアに行ってきた」
「そか、今時のドラッグストアは色々揃うな」
「そやな、地元もドラッグストアだらけやけど都会でも便利やな」
「……ってそれ口実に俺を浴室に1人にさせやがって……」
「口実にってなんや! せっかく買ってきてやったのにすぐ脱げ! 俺んちで寝るな、裸で外で凍えてろ!」
「なんや、鬼やな! 鬼畜や!」
由貴は虹雨にさらに詰め寄る。
「さっさと話せ、この家のこと。そして……」
リビング奥の和室を指さす。
「あそこに座ってる男の子のこともな!」
「……あー」
畳の上に男の子が座っているのだ。
その男の子は青白い顔して二人を見ている。
「あ、キミヤスくん。怖がらんでもええ。こいつは俺の幼馴染や」
キミヤスと呼ばれた男の子は由貴に会釈をした。
「ども、由貴ですーっ……て。キミヤスくん?! お前、名前しっとんのか」
「この子は元々の住人やし、結構話したら仲ようなって」
「かと言ってまず紹介してくれや。奥におって気づかなかった」
「それはすまん」
キミヤスはまたペコリと頭を下げた。なんかなぜかそれが申し訳なくなった由貴は虹雨とともに彼の前に行き座った。
「まず違和感はアパートの外観とこの部屋の中。外は古いのにこの中だけめっちゃ綺麗、リフォーム仕立て。こんな綺麗なとこそんなに収入なさそうな虹雨が住めるわけない。つまりリフォームしなきゃいけない事情とその事情で安くなった家賃で住めた、てことやな」
「……正解」
虹雨はさっぱりと正直に認めた。つまりこの部屋は事故物件であるのだ。
「事故物件に住むのも訳あってな。事故物件を抱えて入居者がおらず他の部屋も借りられず大家が借金抱えてしまうという話聞いてな」
「……よく聞く話やな」
「映画でもあるやろ、ルームロンダリング」
由貴は首を傾げた。そんな映画あったかと。
「事故や事件が起きた部屋に住んで何事もなく過ごして退去するってやつ。そうすればその次に住む人に一個前に事故物件でしたと言わなくてええやつ。まぁその映画の主人公も霊と対話ができるやつやったな」
「まさかそれで稼いでるのか」
「それも仕事の一つや。ここで何軒目やろ……ついでに除霊すれば報酬もらえるんやでぇ」
虹雨はニヤッと笑った。
「うわー……そんなええ仕事どこでもらうんや」
「あ、由貴……興味持った? 紹介したろか。一応下請けやけど、俺らの地元の探偵事務所からの依頼でな……」
「なに?! 教えてくれ」
と由貴が食いついたところでキミヤスがか細い声で
『あの、すいません……盛り上がってるところですが』
割入り、二人は我に帰った。
「すまん、キミヤスくんのこと忘れとったわ」
「ごめんね」
『いいえ、2人の間割り入ってしまい……』
キミヤスは肩身狭そうにして遠慮してた。さっきの二人の霊とは大違いである。
「ルームロンダリングはさておき、ここでどんな事件おきたん。キミヤスくんも巻き込まれたってことやろ」
キミヤスは頷いた。
『母が半狂乱になって祖父と父と僕を殺しました』
コメント
1件
もう、キミヤスくんの告白で一気に持ってかれましたね……。あの「母が半狂乱になって」の台詞、静かで重くて、背筋が冷えました。虹雨と由貴の軽妙なやりとりが逆に不気味さを引き立ててて、塩のギャグも忘れないバランス感覚が絶妙でした。次話が待ち遠しいです。ありがとうございます、麻木香豆さん!