峰岸が指定してきたのは、偶然にも輝馬のマンションの近くだった。
つまりは会社の最寄り駅でもある。
もしかしたらYMDホールディングスに勤めている輝馬に気を使ってのチョイスかもしれないが、今の輝馬にとっては迷惑でしかなかった。
もちろんそんなことは言えないが。
誰かと鉢合わせしたら面倒くさい。
輝馬は慌てて、駅の近くの個室のある飲み屋を指定した。
待ち合わせ15分前。
輝馬は席について、メニューに視線を落とした。
あれから上杉を始め、会社の人間から連絡は一切ない。
それは自分がいなくても困らないということを証明しており、普通に過ごしてはいてもその事実が輝馬の精神を圧迫しようとしていた。
(マジで今はこの話がなかったら、押しつぶされていたかもしれない……)
輝馬はスマートフォンでサイトに繋ぎ、「審査中」の文字を見ながら深いため息をついた。
一般的に言って、Premiumの入会金120万円は確かに高い。
YMD ホールディングスという一流会社に勤めてはいるものの、3年間で社会人としての必要なものを揃えつつ、実家からの距離を理由に住宅手当も支給されなかったため、家賃をすべて出しながらなんとか貯めた金が200万円に満たない輝馬にとっても同様だ。
しかしその分、バックも高い。
逆に言えば、時間も手間もとられるうえで、NormalやRoyalでやる意味はないということだ。
この判断に狂いはない、はず。
副業に誰もが120万円を出せるはずはない。Premiumを選ぶことのできる人間は限られている。
だから儲かるのだ。
ーーやって見せる。
視線を上げたところで、
「お待たせ、待った?」
春の冷気の匂いをまとった、峰岸が現れた。
「外、寒かった?」
高鳴る胸の鼓動を押さえつつ、スプリングコートを脱ぐ峰岸を見上げる。
「うん。まだ夜は冷えるね~!」
彼女はそう言いながら華奢な身体で身震いをしてみせた。
こうして直接会ってみると、面影は多分にあるものの、7年間の月日を経て大人の女性へと成長した彼女は、少し高校時代とは違って見えた。
もちろんいい意味で、だ。
グレーのAスカートにピンク色の籠バッグ。そして白のタートルネックのトップス。
ーーねえねえ知ってる?タートルネックは身体を許さないって意思表示なんだって。
高校の時、そんな馬鹿なことを言っていたのは誰だったろうか。
ーー鎖骨や胸元を見せないタートルネックは、その男とエッチする気はないっていう防御らしいよ。
いつ誰が言ったのかも思い出せない言葉が、輝馬の胸を突き刺す。
(……いや、別に俺はそんな狙いなんか……)
「もう飲み物頼んだ?」
峰岸が目の前に座ると、外気の匂い以外の甘いフローラルな香りがした。
「いやまだ。これから」
輝馬は微笑みながらメニューを峰岸に向けた。
高校時代、どうしても手に入らなかった峰岸が目の前にいる。
それだけで奇跡のようなものなのだ。
二人で会うのも初めてなのに身体まで狙うなんて、いくらなんでも都合がよすぎる。
「わー、飲みに来るの久々―!」
輝馬は一生懸命メニューを眺めている峰岸に微笑むと、さりげなくスラックスのポケットに手を入れ、念のため抑えてあるホテルのカードキーを握った。
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ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
「……んんッ、は……あ、……あんッ、市川……くん……!」
指を挿れただけなのに、溢れるほどに秘部を濡らしながら震える身体を、輝馬はギュッと抱きしめた。
「こわい……怖いっ!……怖い、よぉ……っ!」
必死にしがみついてくる小さな体に、爆発しそうな興奮を何とか抑え込みながら、輝馬は涙目の峰岸を見つめた。
「大丈夫だって。ぜんぶ俺に任せて……」
************
飲み屋で話し始めると、彼女は饒舌で、今の仕事のことや、男性職員に付きまとわれて困っていることなどを一方的に話し始めた。
(こんなに喋る子だったかな……)
少し戸惑ったが、峰岸が自分のためだけに一生懸命話をしてくれているのは、見ていてかわいかったし嬉しかった。
「……って、ごめん、私ばかり話してるね。今日は市川君の話を聞きに来たのに」
顔を真っ赤にする峰岸に輝馬は微笑んだ。
「いや、いいよ。俺の話なんか」
そう言うと、彼女は少し気を使ったように眉をひそめながら、
「……この間、大丈夫だった?首藤さんの姿を見て、嫌な気分になってないかなって思って」
輝馬はふっと鼻で笑うと、何杯目かのビールを一口飲んで片目を細めた。
「あのときのことなんかもう忘れたよ。しかもあんなに綺麗に変貌してたんじゃ、もう怖くも感じないしね。むしろあの容姿で追っかけてくれてたら付き合ってたかもしれないな、なんて」
冗談のつもりで言ったのだが、峰岸は複雑そうな顔で頷いた。
「だから全然平気。今日、お言葉に甘えたのはさ」
輝馬はビールを置くと、峰岸を上目遣いでのぞき込んだ。
「峰岸とこうして2人で会いたかったからだよ」
「………!!」
峰岸の顔がみるみる赤く染まっていく。
(手ごたえあり……!)
高校時代にはいくら見つめても暖簾に腕押し状態だった峰岸に、明らかに反応があった。
(もう一押し……!)
輝馬はテーブルの上に置いてあった峰岸の白い小さな手を握った。
「俺はあの時と変わってないよ。今も峰岸のこと、気になってる」
好きだといえば重くなる。
愛しているといえば大袈裟になる。
輝馬は彼女をまっすぐに見つめた。
「……峰岸は、どう?」
そう言うと彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「……あのね、市川君」
「ん?」
「私……男性と経験がないの」
「……え」
輝馬は思いもよらぬ流れに、目を見開いた。
「私のハジメテ……もらってくれる?」
************
今まで経験したことのないような興奮が、体と脳みそを燃え上がらせた。
そこからどうやって会計をして店を出たかは覚えていない。
とにかく輝馬は、峰岸の手を引き、このホテルの部屋に入ると、シャワーも浴びずに彼女をベッドに押し倒した。
「はあッ、んんっ、んぁあッ!」
感じているというよりは、今まで誰にも触られたことのない場所に、他人の指が入っているというパニックに近い。
峰岸は痛いほど輝馬の背中に爪を立てた。
「……大丈夫?」
「んんッ」
大きな目が潤んでこちらを見上げる。
(……たまんねえ)
この容姿で25年間生きてきて初めてだなんて、もしかしたら嘘かもしれないと思ったが、この反応と中のきつさからみると、どうやら本当らしい。
今まで誰もこの体を穢したことがないと思うと、それだけで毛穴から血が吹き出しそうなほど興奮した。
あのときの――
高校時代、風に揺れる彼女の茶色い髪を思い出す。
あのときの――
振り返り、ふにゃっと笑った顔を思い出す。
あのときのまま――
思わず輝馬の指の動きに合わせてプルプルと震える唇を吸った。
柔らかい。
今まで知り合った誰よりも。
夢中で小さな舌を吸った。
温かい。
今まで抱いた誰よりも。
ボクサーパンツから浮き上がっているソレを、彼女の滑らかな太ももに押し付けると、
「……!?」
峰岸が驚いたようにこちらを見上げた。
「……触るのも、初めて?」
聞くと彼女は、吸われて少し赤くなった唇を軽く噛みながら頷いた。
「触ってみて」
彼女の白く小さな手を、自分のはち切れんばかりの股間に導く。
「…………」
彼女は少し戸惑いながら手を返し、輝馬のソレを掌で包んだ。
「…わ。あったかい……!」
「ふ」
輝馬は微笑んだ。
「撫でて」
そう言うと、彼女は素直にそれを上下に撫でた。形を確かめるように細い指が凹凸をなぞる。
(ヤバい……。暴発しそ……)
触感的刺激にというよりは、峰岸が自分のものを触っているという視覚的刺激に、輝馬は目眩を覚えるほど興奮した。
もう我慢できない。
輝馬はぐっと彼女の内腿を抑えると、挿れていた指を増やした。
「はアッ!?あああッ!!」
2本。
「アッ!!は、ああア!!」
3本。
入った。
そのまま一気に指の根本まで突き入れると、彼女は顎をあげ、体を仰け反らせた。
小ぶりだが形のいい乳房の中心でツンと尖った乳首に唇を這わせ、触る前から硬くなっていたその可愛らしい突起を舌で転がした。
「や……!なんかキちゃう……!!市川君ッ!!」
あまりのボリュームに声が割れて聞こえる。
「――いいよ。イって」
そう輝馬が口にした瞬間、峰岸はぐいと腰を突き出して、全身を痙攣させた。
今まで何十人と相手にしてきた。だからわかる。本当に達したかどうか。
峰岸優実は、確かに輝馬の指でエクスタシーを迎えていた。
輝馬はボクサーパンツをずらし、コンドームを付けた。
そしてまだ天井を眺めながら痙攣を繰り返している彼女の秘部にそれの先を当てがった。
「市川……くん……!」
先が彼女の入り口に入る。
我慢の限界だった。
輝馬は膝をつき角度を付けると、一気に最後まで突き挿れた。
(……吸い…込まれる……!)
今まで何十人と何百回と経験してきて、初めて襲われる感覚だった。
自分のものがものすごいキツイ肉の壺の中に吸い込まれていく、そんな感じ。
そして吸い込んだくせに、壺はうねり苦しんで押し返してくる。
しかし抜こうとするとまた、先端から飲み込むようにまた奥へと誘う。
(んだこれ……!気持ちいい……ッ!)
欲望のままに腰を何度か打ちつけてから、
「………あ」
輝馬は正気に戻った。
(てか俺、初めての子にどんだけ鬼畜なんだよ……!)
慌てて肘を伸ばして、峰岸の顔を見下ろす。
彼女は声を抑えているのか、口と鼻を手で覆って目を瞑っている。
「……峰岸、大丈夫?」
まるで標本の杭のように、一番奥に挿し込み動きを封じたまま、輝馬は彼女をのぞき込んだ。
プルプルと腰を震わせている彼女は答えない。
「…………」
2人の結合部を見下ろすと、真っ赤な鮮血が飛び散っていた。
「………あ」
処女を抱くのなんて久しぶりで、初めては血が出るなんて小学生でも知っていることを忘れていた。
「ごめん……!今日はここら辺に……」
そう言って体を起こし抜こうとすると、
「抜かないで!」
悲鳴のような声が響くと共に、彼女の細い腕が輝馬の首に絡まってきた。
「私……嬉しいの……!だってずっと、市川君のこと、好きだったから……!」
「え」
輝馬は目を見開いた。
(ずっと俺のことが好きだった?峰岸が……?)
嘘だ。
(じゃあ何で、あの時俺を……)
腕の中で泣きじゃくっている顔が、高校生時代に戻る。
『俺さ』
今よりも少し高くて掠れた自分の声がする。
『峰岸のこと、気になってんだよね』
好きだといえば重くなる。
愛しているといえば大袈裟になる。
だから。
思春期の男子高校生が考え抜いて、精一杯選んだ言葉。
しかし彼女は笑った。
『……ええ?どうして?』
―――まさか。
あの告白は、
自分の一世一代の告白は、
フラれたんじゃなくて、
伝わっていなかった……?
輝馬は再び肘を曲げ、彼女の顔の脇に倒れこんだ。
ーー何たる不覚。
自分があのとき、少し天然気のある峰岸に、はっきりと「好きだ」と伝えておけば。
「付き合ってほしい」と言葉にすれば。
自分たちの未来も変わっていたかもしれないのに。
「市川君……?」
耳元で甘い声がする。
輝馬はゴロンと頭を転がして、峰岸の顔を見つめた。
途端に峰岸が照れたように口を覆う。
こんなにわかりやすい反応をしてくれる女子を、ガキの自分は見抜けなかったのか。
「俺も好きだよ。ずっと……」
輝馬は腕に力を入れ、少し顔を起こすと、
「ずっと、好きだった」
その唇にありったけの誠意をかき集めてキスをした。
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