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刑事が腕を組んだまま、重苦しい空気を破るように口を開いた。
「日本を無かった事になんて
そんな眉唾な事が実現可能なのか?」
その問いに、部屋は再び静まり返る。
やがて、ひなたが静かに語り始めた。
「イザナギとイザナミはね?
修理固成を実現させた神として有名なのよ」
「修理固成を?」
信愛が首を傾げると、銚子が補足するように続けた。
「『高天原』の神々が命じたんですよね?」
「そう・・・古事記ではそう語られてるわ」
ひなたは頷く。
「高天原って?」
「神が住んでるとされてる天界の名前よ」
「あっ、天界か・・なるほど」
信愛は納得したように小さく頷いた。
すると龍河が新たな疑問を口にする。
「日本は元は不完全だったって事ですか?」
ひなたはゆっくり首を振った。
「不完全というか、そもそも日本列島
自体が存在してなかったとされてるのよ」
一同の視線が彼女へ集まる。
「だから国や地域と呼べるものも
存在してなかったとされてて
そのまま放っておけば国として
成立しない状態だったの」
その言葉を区切るように、一拍置く。
「だから高天原の神々がイザナギと
イザナミに修理固成を命じたの」
静かな口調のまま続ける。
「それがきっかけで今の日本列島が造られた」
その話を聞いた龍河は、息を呑みながら呟いた。
「つまり・・・天縁教団はそれを
今の時代にやろうとしてるって事か」
「確証はないけどナワバリ様
イザナギとイザナミ、そして荒魂のみの顕現」
一つ一つの要素を並べるように口にする。
「それらから推測すると
修理固成の可能性が高いと思うわ」
刑事は思わず苦笑を浮かべた。
「何かとんでもない話になってきやがったな」
信愛は困惑した表情で問い掛ける。
「でも、なんで天縁教団は修理固成
なんて事をしようとしてるんですか?」
信愛の疑問はそれだけにとどまらない。
「神々が修理固成を命じた本来の理由が
国として成り立たないって理由だったなら
今の日本でそれをやる必要があるんですか?」
「確かにその通りではあるんだけど
そこまでは分からないわ」
ひなたは信愛の疑問に対し静かに首を横へ振る。
「でも教祖、つまり坪野康仙は、この国や
#普通
野々さくら
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805
44
ありあ
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人間をひどく恨んでいる様子だったのは確か」
その言葉に、信愛は思わず息を漏らした。
「国と人間を・・・」
「それが動機だとは思うんだけど
それが何なのかまでは分からない」
ひなたの声には、推理としての確信と、真相にはまだ届いていないもどかしさが滲んでいた。
龍河は複雑そうに眉をひそめる。
「けど、相当な恨みがあるんだろうな」
「恐らくね・・・」
ひなたは遠くを見るような目で呟く。
「この国壊したくなる程の酷い恨みがね」
その重い一言に、誰もすぐには言葉を返せなかった。
◇ ◇ ◇
重苦しい空気の中、帰り支度を始めた一同へ、ひなたが静かに声を掛けた。
「アンタら・・本当に天縁教団に手を出すつもり?」
その問いに、銚子は迷いなく頷く。
「ええ、あなたが今言った通りに
修理固成をやろうとしているんなら」
その言葉を遮るように、刑事が険しい表情で口を開いた。
「無茶だ!」
声には焦りが滲んでいる。
「国を滅亡させようなんてカルト集団だぞ!?
そんな連中、警察でも手に負えないレベルだ」
だが、信愛は一歩前へ出た。
「だったらこのまま修理固成を待つんですか?」
強い眼差しで刑事を見つめる。
「もし修理固成が実現したら、みんな死んじゃいます」
刑事は言葉を失った。
「そ、それは・・・」
その沈黙を見ていた龍河が、静かに口を開く。
「言っても無駄ですよ」
刑事は視線を向ける。
「馬場・・・」
龍河は苦笑を浮かべながら肩をすくめた。
「この二人、もう熱くなってる」
そして穏やかな口調のまま続ける。
「こうなったら止めれません」
刑事は大きく息を吐き、頭を掻いた。
「しかしだな・・・」
龍河はその言葉を遮るように笑う。
「俺や編集長もついてます
まぁ、もしもの時は警察頼りますから」
軽く笑いながらそう付け加える。
「その時はよろしくお願いします」
刑事は呆れたように肩を落とした。
「ったく・・こんな事になるんなら
面会なんて許可するんじゃなかったな・・」
その時だった。
ひなたがゆっくりと信愛の名を呼ぶ。
「白縫信愛?」
突然名を呼ばれた信愛は少し驚きながら返事をする。
「は、はい・・・」
ひなたは優しく微笑んだ。
「死ぬなよ」
その一言は、どんな励ましよりも重く胸に響いた。
「アンタには感謝してんだからさ」
信愛は目を丸くする。
「え?感謝?」
ひなたは静かに目を伏せる。
「私の詐欺を終わらせてくれた」
その言葉に、信愛は何も返せなかった。
「ひなたさん・・・」
ひなたはどこか吹っ切れたような笑みを浮かべる。
「私は間違いなく有罪になる」
少しだけ空を見上げ、続けた。
「そうなれば陽の下に出て行けるのはだいぶ先」
自嘲するように笑いながらも、その瞳はどこか穏やかだった。
「その時はあんたも成人してる頃だろうから」
そして少し照れ臭そうに視線を逸らす。
「その時は酒でも飲みながら──」
信愛を真っ直ぐ見つめる。
「話・・聞かせてよね」
信愛は力強く頷き、笑顔を浮かべた。
「はい! 約束します!」
その約束は、いつ訪れるかも分からない未来へ向けた、小さくも確かな希望だった。
コメント
1件
「ひなたが信愛に『死ぬなよ』って伝えた場面、すごく胸にきました。あの一言に、自分の過去や罪と向き合った上での本当の思いやりが詰まっている感じがして。それに『酒を飲みながら話を聞かせて』っていう約束、未来がどうなるか分からないからこそ、ものすごく温かくて切なかったです。この物語、神話の重みと人間の小さな希望が絶妙に絡み合ってて、毎回引き込まれます。次も楽しみにしていますね🌷」