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「呼び捨てなんて……恐れ多くてできないっ……」
圭の微かな吐息を首筋に感じながら、美花は、ぎこちなく首を横に振った。
「圭…………ちゃ……ん」
おずおずと口にする呼び名に、彼がフッと小さく笑う。
「ちゃん付けか……。美花が呼びやすいなら、それでもいいな」
低くて甘やかな声音に、美花の意識が身体の芯まで響き渡り、背骨が砕けそうになってしまう。
足元の力が抜け落ち、細い身体が、圭の身体へ寄り掛かった状態になると、彼が美花を向かい合わせ、抱き竦めた。
「早く……二人きりに…………なりたかった……」
美花の腰と後頭部に、圭の腕が回され、節くれだった指先に、明るい艶髪が梳かされていく。
やがて、圭の腕が緩み、美花の両肩を掴むと、穏やかに微笑まれた。
「身体…………大分冷えてるな。風呂に入ってくるといい。何なら……俺と一緒に入ってもいいんだぞ?」
彼の言葉に、美花は顔色を変え、狼狽えた。
圭は冗談のつもりで言ったのかもしれないけれど、美花は彼に、左腕にある自傷行為の痕跡を晒す勇気は全くない。
(この傷を見られたら……圭ちゃんはきっと…………私から離れていく……)
圭も、まさか美花が怯えたような表情を見せるとは思わなかったのか、涼しげな瞳を僅かに丸くさせた。
「あっ……ああ、ごめん。付き合ったその日に、一緒に風呂に入ってもいい、なんて言ったら引くよな。悪かった。ゆっくり入っておいで」
「うん。ありがとう」
美花は、圭に何とか笑顔でごまかすと、彼が、何かを言いたそうな面差しを向けているように見えたのは、気のせいだろうか?
圭が寝室に行き、美花に着せる部屋着を取り出し、彼女に手渡す。
「ゆっくり入っておいで」
「うん。行ってくる」
彼の落ち着いた声と眼差しを背に受けながら、美花はリビングのドアの向こうに消えた。
コメント
1件
こんにちわ連休は終わり?美花ちゃんの想い乞わさないでやっと見つけた恋ですよね