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その部屋は、テレビでしか見たことがないようなものばかりだった。
壁には振り子時計|(っていうんだよね?)があって、針にはウサギと亀の絵が描いてあって、絵本みたいに追いかけっこしているし、窓の近くには小さな丸い机を挟むように茶色い椅子がふたつ、何だかオシャレな感じで置かれていた。
壁の方には暖炉もあって、何だか日本じゃないみたい。
僕はアリスさん――凛花ちゃんが言ってた白い魔女の人――に連れられて、やわらかいソファに座って、きょろきょろと部屋の中を見ていることしかできなかった。
アリスさんは凛花ちゃんの言う通り真っ白で、優しそうで、可愛くて。
さっきまで怖い怖いと思ってドキドキしていたけれど、今はそんなアリスさんとお話をするってほうにドキドキしていた。
「おまたせ」
そう言って戻ってきたアリスさんの両手にはトレーがあって、そこにはストローのささったオレンジジュースがふたつのっていた。
アリスさんはそのジュースをソファの前の茶色いテーブルの上に置くと、
「どうぞ」
と言ってにっこり笑った。
「あ、ありがとう」
僕はそれまでずっと手に持っていた、お父さんのロボットのプラモデルを机の上に置いて、オレンジジュースを一口のんだ。
すっぱくて甘くて、何だかちょっとホッとする。
アリスさんはそんな僕と向き合うように、反対側のソファに座ると、お父さんのプラモデルを見ながら、
「……勇気くんが直したいものって、このおもちゃ?」
と聞いてきた。
僕はうなづいて、
「うん。直せる?」
するとアリスさんは、そのプラモデルに手を伸ばして、
「かわいそうに…… 腕がとれちゃってるのね」
「うん」
僕はもう一度うなづいて、
「弟と遊んでた時に、飾ってた棚にガンってあたって、落として壊れちゃったんだ……」
「そう。勇気くんや弟くんにケガはなかったの?」
「うん、なかったよ。でも、落としたそのプラモデルが壊れちゃって。腕だけじゃなくて、ほら、見て、この頭のところ」
そう言って、僕はアリスさんの持っているプラモデルの頭の部分を指さした。
「あぁ、この尖がったところも欠けちゃってるのね」
「うん……でも、どんなに探してもカケラが見つからなくて。腕はノリでつけてみようと頑張ったんだけど、全然ひっつかなくて……」
「そっか……それは、悲しかったね」
アリスさんはそのロボットのプラモデルを優しくなでながらそう言ったけれど、僕に言ったのか、プラモデルに言ったのか、よく解らなかった。
「ねぇ、本当に直せる? アリスさん、魔女なんだよね? 魔法が使えるんだよね?」
アリスさんは、
「大丈夫だよ」
とうなづくと、
「それじゃぁ、ちょっと待っててね」
プラモデルをテーブルの上に戻して、そっとその上に両手をかざした。
ゆっくりと息を吸って、ゆっくり吐いて。
それからアリスさんは、小さな声で歌を歌い始めた。
なんて歌っているのか全然聞こえなかったけれど、とても綺麗な歌声だった。
その歌を聞きながらじっとプラモデルを見つめていると、突然、プラモデルが眩しいくらいに光り始めた。
僕は目を開けておくことができなくて、思わずぎゅっと目をつぶった。
目をつぶっていてもわかるくらい、とても強い光だった。
何が起こっているんだろう。
本当にお父さんのプラモデルは直るんだろうか。
大丈夫なんだろうか。
少し心配になってきたところで、光り始めた時と同じように、突然光りがなくなった。
「もう、大丈夫だよ」
アリスさんの声に目を開けると、お父さんのプラモデルはすっかり元通りに戻ってて。
「す、すごい! なおってる!」
僕は感動して、そのプラモデルを掴んでいた。
「あ、ダメよ、もっと優しく触ってあげないと、また壊れちゃうからね?」
アリスさんに注意されて、僕は「はい」と答えながら壊れてたところを確かめた。
折れていた腕もちゃんとくっついているし、欠けていた頭のところもなおってる。
「すごい! ありがとう、アリスさん!」
「どういたしまして」
とアリスさんは嬉しそうににっこり笑って、
「今度は壊さないよう、大切にしてあげてね」
「うん!」
僕は大きく、うなづいた。