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第34話:緑の影
暗い部屋
ネオンの灯りも届かない地下の一室。
壁一面のモニターには、渋谷の巨大スクリーン、スーパーのレジ、教室で唱和する子どもたち──大和国の日常が途切れることなく映し出されていた。
椅子に腰かけるのは、緑のフーディを羽織った男、Z(ゼイド)。
浅黒い肌に鋭い目つき。フードの影に隠れた瞳は、モニター越しの市民を観察していた。
彼は独り言のように呟いた。
信じる力
「俺は国を壊したいんじゃない。
試しているんだ、人が“信じる力”を」
モニターには、スーパーで無垢に首をかしげる少年──まひろ。
黄緑のパーカーを着て、牛肉に貼られた「協賛品」のシールを見ていた。
『ぼく……ただお肉が食べたいだけなのに、なんで“協賛”って書いてあるんだろう』
Zは口角をわずかに上げた。
「無垢な問いだ。だが、その問いが兵器になる」
ふんわり同意
別のモニターには、街頭で微笑むミウ。
ラベンダーのワンピースにカーディガンを羽織り、ピンクのリップを光らせていた。
『え〜♡ でも安心だよねぇ。国軍が外を守って、ネット軍が中を守ってるんだもん』
Zの声は冷たい。
「ふんわりとした同意。それだけで市民の不安は消える。
彼女の言葉は兵器よりも速く、深く、人を支配する」
社会の現実
モニターが切り替わる。
高校の教室では、生徒たちが「大和国に感謝します」と唱和している。
企業の朝礼では社員が「国軍に感謝を」「ネット軍に未来を」と復唱している。
Zは指先で机を叩き、ぼそりと漏らした。
「幸福度は数値化され、不安は削除される。
子どもも大人も、国軍とネット軍に守られる幻想の中に閉じ込められている」
彼は目を細めた。
「だが、それを望んでいるのは市民自身だ。俺はただ、信じたいものを与えているだけ」
結末
モニターに映るのは、まひろとミウ。
片方は無垢な瞳で問いかけ、もう片方はふんわりと肯定する。
Zは低く呟いた。
「俺にとって、彼らは兵器にすぎない。
無垢と同意──それだけで国家が動き、世界が塗り替わる。
人が信じる力は、銃よりも核よりも、ずっと恐ろしい」
緑のフードの影に隠れた瞳が光り、地下の部屋に冷たい笑みが浮かんだ。
無垢な問いとふんわり同意、その裏でZは人の信じる力を利用し続け、大和国の支配はますます深く、静かに根を張っていった。