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「もーう、そんなむっすりしなくたっていいじゃん。私はただ、親友の蓮に高校生活をエンジョイしてもらいたいだけで。だって蓮ってばけっこうな美人なのに、全然春めいた話ないんだもん。そうやってツンツンしてるから、男が寄ってこないんだよ」
ぐさっ
これは、けっこうキますよ、明姫奈ちゃん…。
「あんたって…可愛いのにほんと発言はバッサリだよね…。…ま、そこがサバサバして好きだけどさ…」
「ごめんごめん、ちょっと言い過」
きゅんきゅんと、急に間の抜けるような音が鳴って、明姫奈が咄嗟にスマホをタップする。
あ、これは彼氏からかな。
こんな性格だけど、明姫奈は私とちがって目がおっきくて口も鼻も背も小さくて華奢な、まるで少女マンガから抜け出たような美少女だ。
当然彼氏がいる。しかもひとつ年上のイケメン。
「…ちょっとごめん、蓮。呼び出し」
「ん、大丈夫大丈夫。先食べてるね」
サバサバ明姫奈も彼氏には甘い。
『ほんとごめん』って気を使ってくれる顔には、はにかむような表情が浮かんでいる。
モテ子の明姫奈が、唯一自分から告ってゲットした相手だもんね。
そりゃデレちゃんにもなっちゃうよ。
明姫奈も。
…蒼も。
みんな青春してるんだなー。
私は彼氏なんていたことがないし、好きな人もいない。
きっとこのままあっという間に卒業しちゃうんだろうなって予感が、高校二年の半ばにさしかかった今は、現実味を増し始めている。
だって私は明姫奈みたいな美少女じゃない、平凡な地味女。
特徴と言えば165センチの高めの身長くらいだけど、それだって女の子の取り柄というものじゃない。
私の唯一の自慢といえば、料理が得意ってことくらいかなぁ。
私の家は母子家庭。
お父さんは私が小さい頃に亡くなって、まだ働いていたお母さんが、その後バリバリ働きながら育ててくれた。
お母さんの助けになろうと率先して家事を覚えたから、そこいらの同い年の子よりはずっと料理に自信がある。
私の料理を食べたら、きっと男の子なんてイチコロよ。(たぶん)
…なーんて言ったところで、平凡なこの学校生活において、私の料理の味を知っている男の子なんていないけどさ。
ま、別にいいんだ。
たった三年の高校生活。
長い人生に比べたら、あっという間だ。
大人になったら、これを武器に素敵な社会人でも見つけますか。
ふん…恋人なんて。
私は蒼みたいに、部活に恋だってチャラチャラ青春しなくたっていいもん。
ぱく。
と、玉子焼きを一口で頬張った。
んー今日の玉子焼きは格別美味しい。
また料理の腕あげちゃったかなーっ。
「美味い?」
「うん美味いよ。私の卵焼きは絶品なんだからぁ」
「だよな」
って。
「蒼(そう)…!」
「今日も美味そうだな、おまえの弁当」
ぎょっとした。
いつの間にか蒼がそばに来ていて、物欲しそうな顔で私のお弁当を見ていたから…!
そう言えば…ここにいたよ。
私の料理の味を知っている、唯一の男の子…。
「あ、あんたさっきたくさんコンビニ弁当食べてたじゃない」
「足りん」
あんなに買ってたのに?
それに、
「さっき女の子からおにぎりもらってたじゃない」
「ああ、見てたんだ」
蒼はチラっと私を見ると、ストローでウーロン茶を飲んだ。
「あれ甘すぎだった。卵に砂糖いれすぎ」
「ああ…」
蒼って、甘味嫌いだもんね…。
「もうお口直しのおにぎりないし、おまえの弁当分けろよ」
「ええ??」
…ったく。どんだけ食べれば満足するわけ??
仕方ないなぁ。
「じゃあ、くださいって頭を垂れろ」
「うっわ。女のセリフじゃない」
「うるさい。早く下げなさ…」
言いかけて、思わず私は言葉を失った。
蒼がいきなり身を乗り出してきて、
あむっ
って私が手に持っていたおにぎりを頬張ったから…!
「ちょ…!私のおにぎりっ!」
もう…油断も隙もあったもんじゃない…!
…しかも、もろ私が口をつけたところガブって…!
「お。梅干しか。やっぱおにぎりはこれだよなぁ」
「なにじじくさいこと言ってんのよっ。ほら、米粒ついてる」
「ああ」
蒼は口端についた米粒を親指で拭ってペロリと舐めると、横目でニッと笑った。
「てか、やっぱ美味いな。蓮が作ったもんは」
ドキ…
不覚にも、胸が鳴ってしまった。
噂の『流し目』を、もろに食らってしまったから…。
これが『一瞬で女の子を落とす』っていうやつか…
すごい破壊力…。
「…もうそれあげるよ」
「マジで? さんきゅ」
ぱくぱくと二口で平らげてしまう蒼だったけど。
「はぁー。にしてもコンビニの飯だけじゃ食い足りねぇな」
ぐったりと椅子に座って、背もたれに突っ伏してしまった。
えええ。ここまで食べてまだ言うか! ほんと年頃の部活男子の胃袋って、四次元空間だなぁ。