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第20話:ヤマトコインの街
配信の幕開け
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
まひろは、淡い灰色のパーカーにベージュの短パン。靴下は左右で柄が違っていて、スニーカーをぶらぶらさせながら机の端に腰掛けていた。
大きな瞳を瞬かせ、無垢な声で問いかける。
「ねぇミウおねえちゃん……なんで“ヤマトコイン”じゃないと買い物できないんだろう?
ぼく……ただジュース飲みたかっただけなのに」
隣のミウは、クリーム色のブラウスに水色のスカート。髪をひとつに束ね、首元のネックレスを指で軽くなぞりながら、ふんわり笑った。
「え〜♡ だってヤマトコインは“大和国の安心”なんだもん。
みんな同じお金を使えば、未来に迷わなくてすむんだよ♡」
コメント欄には「ヤマトコイン最高」「安心できる通貨」「未来の形だ!」と並んだ。
街の経済
街のレジには「旧日本円:取扱い終了」の張り紙。
老人が財布から小銭を差し出すと、店員は困った顔で首を振った。
「ヤマトコイン専用なんです。スマホでどうぞ」
銀行の窓口には長い列。
「旧通貨からの切り替えは本日限り」とアナウンスされ、慌てて並ぶ市民の姿。
商店街では「ヤマトコインで2割引!」の旗がはためき、現金払いを望む者は次第に姿を消していた。
Zの仕掛け
暗い部屋で、緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**がモニターを操作していた。
グラフには「ヤマトコイン流通率 98%」と赤字で表示される。
「金を制すれば、声も制せる。
紙幣を捨てさせれば、過去も消える」
Zは低く笑い、次の画面に「国際ヤマトコイン決済網」という新しいプロジェクトを映し出した。
無垢とふんわり同意
夜の配信。
まひろは灰色のパーカーの袖をぎゅっと握り、困った顔でつぶやいた。
「ぼく……ただ“なんでジュースが買えないのかな”って思っただけなのに、もう全部ヤマトコインになっちゃった……」
ミウはネックレスを指でくるくる回しながら、やわらかい笑みを浮かべた。
「え〜♡ でも安心だよねぇ。
お金がひとつにまとまれば、みんなが迷わず未来を歩けるんだもん♡」
コメント欄は「その通り!」「安心の経済」「未来にありがとう」で埋め尽くされた。
結末
老人が手にしていた旧紙幣は、街のゴミ箱に無造作に捨てられていた。
その映像をモニター越しに眺め、Zは吐き捨てるように笑った。
「通貨は記憶だ。
ヤマトコインが流れれば、過去の暮らしも全部、消えていく」