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「…… ったくもう。あの先生ったら、話し出したら長くてイヤになっちゃうわ」
ブツブツ文句を言いながら、養護教諭の橋下が保健室へと戻って来た。 扉を閉めて、唯一カーテンの閉まっているベッドへ一直線に歩いて行く。
「…… 体調はどうだーい?」
寝ている可能性も高い為、小声で声を掛ける。反応が返ってこなかったが、一応様子を確認しておこうと思い、橋下はそっとカーテンを開けて中を覗いた。
橋下側に背を向けて寝ている生徒に近づき、そっと顔を覗き込む。
「…… ん?」
(あら?一組の楓君って、こんな顔だったかしら…… )
枕に頭をのせ、青白い顔でスヤスヤと眠る生徒の顔に橋下は違和感を覚えた。 一時間目の終わりすぐ、頭が痛いので少し休みたいと言ってきた顔面蒼白の生徒はもっと大人っぽくてイケメンだったはずだけど…… と、橋下が考えながら首を捻っていると、掛布の奥にチラッとだけ見える後頭部が目に入った。
(まさか、二人寝てるの?)
そっと掛布を持ち上げ、橋下が布団の中を確認する。すると中には、大きな背中を丸め、正体不明の生徒の胸元に頭をくっつけてスヤスヤと眠る楓の姿があった。
(あらー…… 幸せそうな寝顔ねぇ。息苦しくはないのかしら?)
一緒に寝ているのが誰かはまだわからないが、起こすのが忍び無くなってしまう程ピタリと寄り添って寝ている姿を可愛らしく感じてしまい、橋下はまたゆっくりと掛布を元に戻した。
音をたてぬよう気を使いながら、橋下がベッドから離れ、机へと向かう。生徒名簿を見て、「——あぁ、そうだ。あの顔は桜庭君だったわ」と橋下が呟いた。
「楓君の事、守るみたいに寝ちゃってまぁ。桜庭君ったら優しい子ね。…… 勝手にベッドで寝ちゃってはいるけども」
楓が女子生徒から人気がある事は、橋下の耳にも入っている。勝手に写真を撮る子の話や、持ち物を持っていってしまった話まで風の噂で聞く事があった為、橋下は楓を一人残して保健室から出なければいけない事を少し気にしていた。
だがまぁ、たいした用でも無いしすぐ戻れるだろうと気楽に考え、廊下に出て二階へ上がった所で話の長い先生に捕まってしまい、話を聞きながらずっと気を揉んでいたのだが…… 。
「桜庭君が機転をきかせて、自分が休んでるっぽくしておいてくれたのかな?」
推測でしかないが、きっとそうだろうと結論付け、橋下は一人頷いた。
「まぁ、顔色も悪かったし…… このまま休ませてあげよう」
どちらも普段サボって休むタイプでは無いので、橋下は彼等をそのまま寝かせてあげる事にしたのだった。